7話「中庭を共に見て回りましょう」
バーレットとの偶然の出会い。
そこから流れに乗るようにして、中庭を二人で見て回ることになった。
「ここには色々な種の花が植えてありましてな、これなんかは特に気に入っているのですよ」
石ばかりで構成されていた城内とは違い、ここには自然から生み出されたものが多くあった。
土、植物、花。
穏やかで優しげなものが一つの世界を作り出しているかのようで。
「虹色の花……」
バーレットが自慢げに紹介してくれたのは、花弁が虹色になっている華やかな花だった。
「なかなか珍しいでしょう? 虹色のものは」
「そうですね、見たことがありません」
「お好みですかな? であればこれで花束でも作らせて――」
彼はそう言うのだけれど。
「いえ、それは結構です」
私は首を横に振った。
「この花はここにあるからこそ美しいと思うのです」
花束という在り方を否定する気はない。
けれども植えられたままに育った花の方が私は好きだ。
「こうして見られただけで幸せです」
「ローゼマリン様は慎ましいお方ですな」
「いえ、そんなんじゃありません。ただ、こうして見ていられるだけでいいんです。摘んでまで手に入れようとは思いません」
ありのままの姿だって美しいと思うの。
「他にも何かありますか? おすすめの花があったら教えてください」
「おお、乗り気ですな」
「すみませんはしゃいでしまって。けど! 私、綺麗なものは好きです! だからもっと色々見てみたいです! もちろん、見られるならですけど。無理にとは言いませんけど」
するとバーレットは、ははっ、と笑って。
「では他のところも紹介いたしましょう」
「本当ですか!? ありがとうございます」
私たちはいつの間にか自然に喋るようになっていた。
不思議な感覚だ。
つい先ほどまでは会話するだけでも緊張していたのに、この中庭が二人の距離を縮めてくれて。
「この花は何という花ですか?」
「これは我が国原産の花ですな、アボボロボニカと申します」
知らないものがたくさんある中庭で、私はバーレットと色々話をした。
……と言っても、花に関する話ばかりだけれど。
「へぇーっ。明るいグラデーションがとっても綺麗ですね!」
「お好きですか?」
「ええとても! 好きです!」
それでも、人と人の心の距離というのは、意外とすぐに縮んでゆくものだ。当然出会い方や状況にもよるだろうけれど。でも、つい先日まで他人だった私たちでさえ今こうして笑いながら喋っているのだから、人の心の距離というのは一度縮まり始めればどんどん縮んでゆくものである。
「それは他にもいろんな色のパターンがありましてね、ブルー系とかイエロー系とかもあるのですよ」
「そうなんですか、色々あるのですね」
「研究が進んでおりますからな」
「さすが、この国原産なだけありますね!」
こうして至近距離で話をしていても、不愉快さは少しもない。
むしろ楽しい。
「後日、別の色みのアボボロボニカをお見せしましょう」
「本当ですか!?」
「ええもちろんです。すぐに取り寄せますよ」
陽を浴びて咲く花のように、我が心もまた少しずつ開いてゆく。