6話「住むことになりましたが、意外と自由はありそうです」
赤茶色系統の煉瓦で外壁が彩られていたクロミヤスの城、内部は思ったよりシンプルな白系の石で造られていた。王城でありながら豪奢な装飾は見当たらず、最低限の機能を持った構造になっている。それでも一般的な建物に比べれば規模は大きいのだけれど。ただ、王族が暮らしている一般的な城に比べると少々落ち着いたデザインで質素な見た目となっていた。
私に与えられたのは小さな一室。しかしそこに閉じ込められるというわけではなくて。バーレットによれば、城内ではある程度好きに自由に過ごして構わないらしい。ただ、寝る時は自室で、とのことであった。
わざわざ言われたことを破る私ではない。
素直に夜間だけは自室へ戻ろうと思った。
とはいえまだ明るい時間。
寝るには早い。
どうしようかと考えて、取り敢えず、どこかへ行ってみることにした。
自室前の廊下で出会ったメイド服を着た羊頭部の女性に質問してみることに。
「あのー、すみません。中庭とかってあります?」
「ええありますよ」
良かった、普通に話せそうだ。
魔物と関わるのは初めてで緊張したけれど、案外さらりと違和感のない返事がきたので安堵した。
「行き方を教えていただけないでしょうか」
「そうですね。ここを二階分降りて、あっちへ行って、その奥の扉から外へ出てください」
「ありがとうございます……!」
一礼し、駆け出す。
石でできた床が足裏に当たる感覚さえもまだ新鮮で、けれども嫌な感じがするかといえばそうではなくて。
だから走ることだって容易かった。
「走ったら危ないですわよぉ」
「あ、すみません!」
……途中で注意されてしまったけれど。
それでも心は先へと走っていた。
――そして、一枚の扉を押し開け、中庭へ。
「……あ」
するとそこには先客がいた。
よりによって顔見知りの人――バーレットだ。
「おや、よくここに気づきましたな」
ベンチに座っていた彼はこちらへ視線を向けて数秒停止した後に微かな笑みを唇へ滲ませた。
「あ、いえ……バーレットさんを探していたわけでは……」
「良いですよ。恐らく中庭に興味を持ったのでしょう?」
「あ、はい、そうです」
「そんな気がしましたよ、貴女はそういうのが好きそうだと」
な、何だって!? 心を読まれているッ……!?
胸の内では変なテンションになった自分が弾けていた。
「ああいえこれは嫌みではありません」
「バーレットさんはなぜここに?」
「ここにいれば貴女に会えるかと」
「え……」
「はは、冗談冗談。けれどもここは私も好きなのですよ。ま、簡単に言えば癒しの場ですな」
それを聞いて思わず「分かる気がします!」と勢いよく言ってしまった。
「おや? 乗り気ですな」
「あ……ご、ごめんなさい急に」
「いやいやいいんです、ちょっぴり元気過ぎるくらいで構いませんよ」
彼はそう言って笑った。