初めて買ったエロゲが、まったくエロくないんですけど
おっぱいが揉みたい。
月に手を伸ばしても届かないが、おっぱいなら届く。
それなのに、自由に揉むことは許されない。
ただエッチなことがしたいだけなのに。リアルは非常だ。
おっぱいを揉みたい気持ち、それは20歳の青年にとって、切実な思いだった。
現実では望むべくもない。そんな状況で、人類の技術は青年に希望をもたらす。擬似感覚再現型ゲーム。それも成人ゲームなら……
青年は生まれて初めて、エロゲを購入した。
リアルは非常かもしれないが、決して無情ではないと信じて。
擬似感覚再現とは、視覚、聴覚、触覚、味覚、臭覚を誤認識させる行為。当然のことながら、数多の問題点が発生した。
とくに快楽を擬似的に再現した場合の問題は、社会問題にまで発展する。例としては、ギャンブル、セックス、暴力といった行為などが一般的といえよう。そして恒例ともいえるが、安易に規制することになる。
ところが、ここで流れが変わる。
規制したところ、某国の違法ゲームが急増したのだ。
その結果、酒やタバコと同じように、年齢制限に落ち着くことになる。
『パラダイスしよ』というタイトルのエロゲはそんな中で誕生する。
開発者たちのエロさと熱意によって誕生したこのゲームは、現実ではあり得ないくらいの美女や美少女が大量に出てくる。メインヒロインだろうがサブヒロインだろうがモブだろうが、全員声が可愛い、性格が可愛い、仕草まで可愛いと、男の夢と浪漫と希望を濃縮したようなゲームだ。
売れない訳がない。
開発者の誰もが自信を持っていた。
その自信を裏付けるように、前評判も上々。エロゲーマーたちは、発売日を今か今かと待ちわびていた。
ところが、発売と同時に『パラダイスしよ』の評価は地に落ちた。
その理由は簡単だった。
『パラダイスしよ』の基本的ゲームシステムは、恋愛シュミレーションだった。つまり、ヒロインたちと【会話】や【イベント】をこなしながら、好感度を上げて18禁展開を楽しむゲームなのだ。
ここで単純な話なのだが、一般的に考えてリア充が新作のエロゲを購入するだろうか?
そう、陽キャは買わない。
買うのは隠キャだった。
で、隠キャの目の前にだ、現実を超えた美少女や美女がいて、彼らがまともに会話できるはずが無かった。
せっかく用意された幼馴染の美少女に、登校中声をかけてもらっても「あー」とか「うー」とか、どこのゾンビだとツッコミたくなるレベルのリアクションしかとれないのだ。
これでは好感度どころの話ではない。
更にプレイヤーたちに絶望を与えるのが、恋のライバルとなるイケメンたちだ。ゲーム性の為に用意されたライバルたちは、陽キャラパワーを振りかざし平気でプレイヤーたちに襲いかかる。
プレイヤーが美少女の幼馴染と、精神的地雷原を彷徨うような、ぎこちない会話で登校してる最中に
「やぁ、おはよう!」
と爽やかな笑みを浮かべながら、プレイヤーの幼馴染に声をかけてくるのだ。
挨拶されて、挨拶を返さない人は滅多にいないだろう。当然、幼馴染もライバルのイケメンへ「うん。おはよう」と挨拶する。
ここで隠キャは気づく。
圧倒的なコミュ力の差に。
会話とはキャッチボールだとよく言われたものだが、挨拶こそキャッチボールの基本とも言える。つまり、相手が返事をしたくなる内容を話すから、会話になるのだ。
そしてプレイヤーは、目の前でイケメンと幼馴染が楽しそうに会話してるところを見せつけられながら登校する。
これに喜べるのはNTR体質のプレイヤーくらいだ。
イケメンのトークデッキが如何に豊富かを思い知らされながら、教室へと行くと、さらなる地獄が待ち受けている。
教室内は美少女だらけ、モブの意味が分からなくなる事だろう。それだけならまだ、目の保養という意味では天国ともいえる。その天国から主人公を追放するかの如く、イケメン男子たちが立ちはだかる。主人公も基本設定ではイケメンなのだが、重要な部分は鏡を見ないと確認出来ないプレイヤーの顔より、ライバルたちのイケメンぶりだ。
教室内で美少女たちが話す輪は、まるで高嶺の花を紡いだ花飾り。主人公には見てる事しか出来ない。それなのに、悪い虫であるイケメンたちは、平然とその花飾りに群がり、甘い蜜のような時間を貪る。
プレイヤーは綺麗な花たちが、悪い虫に蹂躙されるのを、黙って眺めているだけだ。
これが『トラウマ再現ゲーム』といわれる所以である。ここまでくると、何が楽しいのかすら分からない。
軍曹にシゴかれるブートキャンプが、心のオアシスに感じるくらい、プレイヤーの心はボロボロにされた。
唯一の褒め言葉らしいのが、「イジメはない」という断末魔のようなコメントくらいだ。いや、未プレイヤーへ向けたダイイングメッセージというべきか。
結果、ユーザーからの評価は『クソゲー』となった。
開発者たちは、その結果を受け止めきれずにいた。
自分たちは最高傑作を創りあげたはずだ。キャバ嬢と会話出来るレベルなら好感度を簡単にあげれるのに、何故それが出来ないんだ。
矛先が1番向けてはいけないユーザーに向く位、開発者たちはダークサイドへ堕ちてしまう。
そんな開発者たちを救ったのは、とびっきりの変態たちだ。
彼らはゲーム内において、サイコパスであった。
「会話が出来ないなら、拉致ればいいんじゃん」
と独自のサイコパス理論を展開。
ヒロインの美少女を、拉致、監禁、陵辱と、人の道からコースアウトした、スリーアウトのコンボを平然ときめてきた。
これに立ちはだかるのは、モラルという名のカルマポイントだ。
ゲーム内で現実世界の犯罪に該当する行為をした場合、それに応じてカルマポイントが上昇。規定に達した時点で、バッドエンド直行である。
どんなバッドエンドかといえば、大抵は軍隊からヘッドショットのやり方を親切に教えてもらう事になる。主人公の頭を使って。
なにせ疑わしきは罰せよの世界だ。
まあ、ゲーム的にいうなら、そもそもゲーム内で犯罪するのはプレイヤーしかいない訳だから、当たり前なのかもしれない。
ちなみに、ゲーム内では人間を含め、動物も部位破壊は表現されない。
成人ゲームで、どこに配慮したのか不明であるが、HPゲージ全損で死亡扱いになる。それなのにどうしてヘッドショットが分かるかといえば、主人公の死亡原因を教えるように、エフェクト付きでそのシーンがバッドエンドで再現してくれるからだ。
開発者の優しさが身に染みることだろう。
ところが、変態たちには開発者の用意した犯罪抑制システムは通用しなかった。
彼らのヤル気スイッチは、常時ONである。なにがなんでもヤリたいのだ。
バッドエンド?それがどうしたと言わんばかりに、好き勝手にヤリはじめる。
もはやゾンビより、ゾンビらしいゾンビスタイルだ。
特に管理者名【槍隊年頃】が立ち上げた攻略サイトは、サイコパスの溜まり場となる。
数多の検証が行われた結果、カルマポイントの上昇には幅がある事が判明。同じヒロインでも、拉致の場所や方法によって上昇ポイントが変動するのだ。
サイコパス有志は、サイコパスと思えないくらいの協調性をそこで発揮。
次から次へと、効率のいい拉致方法を発表。さらにオススメの監禁場所や、陵辱に必要なアイテムの入手方法、ついには製作方法まで公開していた。
こうして、初級者から上級者までの恋愛方法が伝授されることになった。
これのどこが恋愛だ、などのツッコミはするだけ無駄だ。
『拉致+監禁+陵辱=恋愛』
という方程式はサイコパスの常識なのだ。
これを実感するのは、初級コースで十分だろう。
『7日のお試しセット』と呼ばれる初級コースは、監禁場所が自宅である。
監禁対象は、母親と妹。
ラノベ世界の王道ともいえる家族構成の主人公だ。母親は美女で、妹は美少女。そして父親は毎週日曜日にしか帰宅しない。
これだけの好条件が揃っていれば、初心者でも安心である。
父親が帰宅する日曜日まで、好きなだけ恋愛出来ることだろう。
言うまでもないと思うが、この家族構成はゲームの設定だ。当然、プレイヤーとゲームキャラとに血縁関係などあるはずがない。現実とゲームは別物であることを忘れてはいけない。
そして、この時のバッドエンドは父親による射殺であり、これによって主人公の父親が軍関係者だと考察されている。
とはいえ、自宅をいくら探索しても銃器が見つからないところから、恐らく通勤に使用する車に常備している可能性が高い。
このゲーム内ではシステムの関係なのか、警察より軍が率先して動く。
その追跡は、現実世界よりハードではないかと思えるほど。
軍用犬はもちろん、実在が確認されない不思議技術まで投入してくる。
とあるサイコパス曰く、真夜中にヒロインを車で拉致した後、川まで行き、用意した二台のボートにそれぞれヒロインの服と、主人公の服を載せて川に流す。
その後、主人公は拘束したヒロインを担いで川に入って対岸に渡ったと見せかけ、上流へ向かう。そこに事前に用意した別の車で監禁場所へ。そして、その監禁場所が監視出来る場所に待機したらしい。
すると驚く事に、事件発覚したと思われる時刻から僅か数時間後には監禁場所が包囲され、それを確認した直後、ヘッドショット一発をお見舞いされたとの事。
この事から、昼夜問わず全キャラの動きを監視出来るシステムがあると予想された。
これは監禁場所も監視場所も全て把握されていることから、明白だと思われる。
しかもオリンピック選手を軽く超えてくる、長距離狙撃を平気でしてくるらしい。
彼らは末路は、どう足掻いてもバッドエンド。
それが、彼らには不満だった。
拉致、監禁、陵辱しておいて、ハッピーエンドを平然と目指せるからこそサイコパス。
「普通に恋愛しろ」
などのツッコミは無意味である。
何故なら、彼らは真剣に恋愛しているのだから。彼らの中では。
そんな彼らのハッピーエンドを阻止するシステムは、『カルマの壁』と呼ばれる。
彼らはその壁に挑み続けた。
いつの日か、必ずこの壁を超えれると信じて。
だが、ゲームは非情だった。
チートを使わなければ、その壁は超えれることなど出来ない。
ただ、ハッピーエンドを願うだけなのに、彼らの願いは叶わない。
その懸命な姿に心を撃たれた開発者がいた。
『クソゲー』とレッテルを貼られ、会社は開発費を回収出来ず、赤字確定。そのどんよりとした空気の中、開発者の1人が提案した課金アイテムは、特に反論も無く、なかば投げやりな感じに採用された。
『モラルハザード』
一回使い切りで、カルマポイントをリセットするアイテム。
サイコパス有志は歓喜した。
次々とその課金アイテムを使って、今まで不可能とまでいわれた『カルマの壁』を超えいく。
こうして、性犯罪者から壁を乗り越えて天災へとなる。
そう彼らは静かに怒っていたのだ。
今まで主人公が、生活用品やスポーツ用品、工具など知恵を絞って武装する中、拳銃どころか重火器まで運用してくる軍隊に。
逆襲の時は来た。
「なあ、教えてくれ。俺はあと何人殺せばいいんだ?」
そんなロールプレイをしながら、彼らは殺した。
とはいえ相手は軍隊だ。ただでさえ装備に差があるのに、数の暴力まで使ってくるチート集団である。
ゲームがソロプレイ専用である以上、仲間たちと協力することは情報しかない。彼らは自分の情報が、誰かの糧になるならばと、喜びながら提供していく。
軍施設にいる兵隊の数、兵隊の家族構成、オススメの美女軍人や、軍施設の内部情報、兵器や銃火器が管理されている場所など、ひたすらゾンビアタックを仕掛けて、情報を入手していった。
とくに『ご利用は計画的に』と呼ばれる武器、弾薬の調達方法は、大勢のプレイヤーが利用した。
「弾薬はリボ払いで返却します」
そんなコメントで誠実さをアピールしながら、やってることは殺人である。
借りた武器と弾薬で軍隊と戦うのは、魔王城の宝箱で装備を揃える勇者パーティーの系譜だろう。
宝箱にしまわず、魔物に装備させて勇者と戦わせない理由は謎である。
とにかく、このゲームが、リポップするタイプのゲームでは無いからこその、弱点とも言える。
開発者たちの狂気とも思える拘りによって、約1万人のゲームキャラは、全員ビジュアルが違うのだ。たった1万人の都市なんて、ちっぽけだと思うかもしれない。ところがどっこい、どこのご家庭も豪邸ばかり、景観はテーマパーク並みに綺麗ときてる。流石、ゲームだ。
そして、軍隊の駐屯人数は約3000人。つまり旦那は皆んな軍人って感じの世界だ。この設定により、お店の店員はみんな美女なのが当たり前だし、警察官も美人婦警さんばかりになっている。
エロゲらしいと言えば、それまでの設定だ。
そして、街の外には出られない。
これは調査兵団かよ、とツッコミしたくなるサイコパス有志たちによって判明した。
街の外周は映像を映す外壁によって囲われている。その中に街や山や湖や川や海が存在しているのだ。ならば、壁の向こうには何があるかと言えば、また壁であり、その先には宇宙があるらしい。
そんな事を調べる為に、ゾンビアタックをしたサイコパス有志に思わず敬礼したくなることだろう。
同時に開発者たちが如何に狂ってるかも判明した。
エロゲの世界観を構築するために、そこまで作り込んでいたのだ。
この情報から非常に重大な可能性が生まれたのだ。
すなわち、この街は宇宙空間にある宇宙船そのものということだ。
思わず「デカルチャー」と叫びたい衝動に駆られるぐらい、とある作品の世界観をパクっている気がしてならないが、気にしたら負けである。
ここで大事なのは、軍隊の3000人を倒し先には、恐らく追加兵力は無く、文字通りの『パラダイス』があると予想出来てしまうことだ。
メタい予想をするなら、開発者たちは3000人の軍隊が1人に倒される事など想定外とも言える。
開発者の気持ちも分かる。
1対3000のキルレシオなど、常人には達成不可能だと当然思う。どう足掻いても絶望。無理ゲーだと。
かつて『カルマの壁』に挑み続けたサイコパス有志。無理ゲーといわれ、すんなり引き下がるほど、エロゲーマーたちは甘くなかった。
この頃には既にサイコパス有志の数は1000人を軽く超えていおり、人海戦術で街の全ての世帯を調査した。
1人でやるなら、途方もない作業だが、1000人がそれぞれ数世帯を調査しただけで数千世帯の情報が手に入るのだ。これが、サイコパスの絆。
サイコパスってなんだっけと悩む必要はない。
サイコパスとは、己の欲望の為なら協調性すら発揮するものだから。
これらの貴重な情報により、軍施設にいるのは大体1000人程で、ローテーションしている事も判明する。
主人公の父親の職場もついでに判明。教導隊所属の教官で、軍曹だった。この階級は教官だからで、実際は佐官らしい事まで調べがついていた。
調査兵団恐るべしである。
ここまで調べ尽くしても、まだ3000人を殺すのは困難だった。まず一ヶ所に固まっていない事がネックだ。どうしても大量殺人だけでは達成出来ないようになっている。
では、個別に各個撃破すればいいかといえば、そう簡単にはいかない。
その理由は『モラルハザード』の効果にあった。
例えば、A、B、主人公の3人がいる。
この時、主人公がBの目の前でAを殺害してから『モラルハザード』を使用したとしよう。
すると、現場には遺体とカルマポイントが0の2人がいる事になる。当然、Bは主人公が殺したと証言するし、主人公もBが殺したと証言する。
この場合の軍隊の判断は、人狼ゲームの村人と同じなのだ。
つまり、ローラー完遂でいいよね。となる。で、Bと主人公を殺してバッドエンド直行だ。
『モラルハザード』はカルマポイントを0にするだけで、犯行そのものの記憶は消せない。ところが、記録は消される。ここがポイントだった。
「見つからなければ犯罪じゃない」
といったサイコパス理論が適用されるのだ。監視カメラに記録されようが、その瞬間にカメラを見てる人物が居なければ、記録からは主人公が特定されないような仕様になっていた。
注意すべきは主人公の顔ばれだけ。
もしもカメラで主人公の顔が記録され、それを軍隊が共有したら、カルマポイント0だろうが関係なく殺される。
その為、パラダイスユーザーにおいて、覆面は恋愛やパラダイスする時は必須ともいえる。
「パラダイスするのに覆面しないなんて、最低よねー」
などと人として最低な存在に言われることだろう。
ちなみにゲーム内だと、どっから見ても不審者スタイルとしか思えない格好をしていても、局部が隠れてさえいれば、カルマポイントは上昇しない。
ゆえに、覆面は『モラルハザード』常用者の常識となっていた。
これならば、見つからないように時間をかけて、1人づつ始末すればいいと思うだろうが、『モラルハザード』は課金アイテムなのだ。
アイテム自体の値段は、一食分の食費より少し安い程度。ならば一食くらい抜いて課金しても問題無い。だが、3000食分となれば大金だ。しかもゲームは365日しかプレイ出来ない。
これは、元々恋愛ゲームであり、365日経過した時点でのヒロインたちの好感度によって、各種エンディングが用意されているからなのだが、サイコパスたちにしてみれば迷惑な話だ。
「エンディングは自分で決める」
と、カッコよく言うサイコパスもいるが、天災クラスの犯罪者の言う事。まともに聞いてはいけない話だ。
とにかく、サイコパスたちには時間が無かった。リアルの時間ではなく、ゲーム内での時間だ。
せっかく軍隊を壊滅させても、パラダイスする時間が無かったら意味がないのだ。
色々な意味で、ヤル気だけはある連中。
それでも軍隊は強かった。ヤル気だけではどうにもならないくらい、戦力に差があり過ぎた。
「せめて『片翼の天使』レベルの相棒がいれば、俺は戦場を舞う妖精にだってなれるのに」
そんなプレイヤーの嘆きすら聞こえてくる。
主人公が一騎当千の活躍をしても、折り返し地点にすら到達出来ない。この事実がプレイヤーの心を折りにくる。
相棒がいない理由は主人公の所為ではないのだ。
このゲームにおいて、NPCの性格は極めて善人だった。それは聖人どころか化け物レベルの善性。何があっても犯罪行為をしない。
例えば、目の前で愛する人を主人公に殺されたとしよう。その場合でも、主人公を殺したい程憎んでも、絶対に主人公への危害は加えない。
殺害はもちろん、暴力すら振るわないのだ。
ある意味で、NPCらしいともいえる。
では、主人公が無理矢理それを強要した場合はどうなるか。
美少女を全裸にして、路上に放置したとしよう。すると驚く事にその場から身動きを取らなくなる。
茫然自失した美少女は、何も行動することが無い。
では、主人公が女湯に乱入したらどうなるか。
その場合は、入浴中の女性は脱衣所へ全裸で逃走する。ただし、脱衣所で身なりを整えてから、外へ逃げるのだ。
そこまで徹底しているからこそ、主人公の犯罪には加担しない。これは脅してもしないのだ。
だからこそ、主人公は孤独な戦いを挑み続けるしかない。
そんな事を続けていれば、心が折れてしまうのも致し方ないのだろう。
軍隊と戦うより、バッドエンドを許容するプレイヤーも増え始めた。
『最速恋愛方法』
それはバッドエンド上等で、お気に入りキャラと無理矢理恋愛する方法だった。
時間帯も場所も問わず、とにかく恋愛してはバッドエンドを繰り返すプレイ。技術も不要なこのプレイに、次々とプレイヤーたちは夢中になる。
その様子に、開発者たちは希望を見出した。
「今こそ、彼らに本当の恋愛の素晴らしさを感じてもらう時だ」
古来より心が傷ついてる時ほど、洗脳し易い時はない。
ここぞとばかりに、開発者たちは新しい課金アイテムを導入。
『ハートキャッチ』
一回限りの使い捨て。これを使用すると、対象キャラ1人の好感度をMAXに出来る。
待て、それは罠だ。
間違いなく罠だ。
これは開発者の罠なのだ。
ゲームバランスを崩壊させるアイテムの導入に、プレイヤーたちは警戒する。
それでもその誘惑に勝てないのは、砂漠のオアシスのような癒しがあるからだろう。
プレイヤーたちは、その新しい課金アイテムを使ってしまう。
今迄攻略不可能だと思われたヒロインが、使用した途端に主人公を愛してくれる。どこまでも献身的な愛。それに溺れない男は少ない。
図らずとも、ハニートラップの有効性をプレイヤーたちは証明した。
しかもこの課金アイテムを使用すれば、ハーレムだって簡単に出来る。
なにせNPCは善人だ。
どれだけ見境なく女性に手を出しても、嫉妬することはあっても主人公はもちろん他の女にも危害を加えることは無いのだ。
超イージーモードのハーレムだ。
こんな誘惑に勝てるほうがおかしい。
そう、誘惑に負けた連中は、自己正当化していた。
自分たちが変態で、頭のおかしい人であることを棚に上げながら。
とはいえ、もはや運営の思惑通り、ゲーム内でラブラブなプレイに嵌るユーザーは確実に増えていた。
ハーレムを引き連れ、海辺で大人の遊びをしたり、雪山で遭難ゴッコをしたりと、ヤリたい放題楽しんでいた。
そんなプレイヤーたちは、自分たちが勝ち組のリア充だと勘違いしてしまうのも当然なのだろう。
未だに軍隊と戦争してるプレイヤーに対し
「竹槍で戦闘機を落とすような根性論なんか捨てて、素直にハートキャッチ使えよ」
そう言い放つ。
煽り文句としては、ギリギリ及第点といったとこだろうか。
それでも、消えかけていた闘志に火をつけるには十分だった。
中でもリア充を拒絶するプレイヤーにとって、リア充ゴッコをする連中は裏切り者にしか見えない。
なんとかして見返したい。
そんな時、とあるプレイヤーはその煽り文句からヒントを得た。
竹槍で戦闘機を落とせなくても、戦闘機のパイロットが寝てる時に竹槍で殺せばいいじゃないか。
結果的に、空を飛ぶ戦闘機を撃墜しても残骸しか手に入れられないが、飛ばせるパイロットを全滅させれば、無傷の戦闘機が手に入れられる。
どちらが優れているかなど、明白だ。
「いや、その理屈はおかしい」
と猫型ロボットにツッコミされそうだが、用意された餌のような答えに、安易に食いつかないからこその発想とも言える。
その切っ掛けとなったのは、変態の中でも変人ともいえる連中だった。
彼らは死体愛好家。
「死んだ人間だけが、良い人間」
そのぶっ飛んだ理論を掲げ、日々死体を量産しようと試みている連中だ。
リア充とは、どう足掻いても相容れない存在。
死体とシたい。
なんて霊安室ジョークで笑顔になる変態だ。
そんな彼らがリア充の様子から気づく。
この世界が宇宙船なのは判明してるが、雪山と海辺が両立してる理由はなんだろうか。
考えられるのは、重力制御を利用した高度による温度管理ではないのか。
ならばその管理装置があるかもしれない。
その発想から、死体愛好家たちは宇宙船の内部調査へと本気で取り組み出した。
そうして分かったのが、自動防衛装置に守られている機密区画の存在だ。
皮肉な話ではあるが、この情報を入手出来たのは『ハートキャッチ』のお陰だった。
本来なら拷問しても情報を吐かない人物に、元管理部長がいた。その人物は人妻でもあり、夫は軍人。子供は2人いる。
そう、主人公の母親だった。
『ハートキャッチ』で好感度MAXにした母親に主人公は言う。
「僕、将来は母さんみたいに管理部門で働いて、皆んなの生活を守る仕事をしたいんだ」
好感度MAXの母親はイチコロだった。
情報漏洩に当たらないように気をつけていても、少しずつ漏洩していく。
それは蛇口が壊れるように、確実に主人公の話術に嵌っていく。
彼ら死体愛好家は、生きてる人間に興味がないくせして、驚くべきコミュ力お化けだったのだ。
彼ら曰く、擬態の為の技術らしいが、それを遺憾なく発揮した。
その技術で普通にプレイしろ、そうツッコミするのは野暮なのだろう。
これにより管理部門は丸裸にされた。
そこまでしても、開発者たちの執念が立ちはだかる。
管理施設への進入は容易く出来る。それなのに、いざ不正アクセスをしようとすると、警報機が作動。軍隊が駆けつけてのバッドエンドだった。
ここで死体愛好家たちは、逆の発想をした。
警報機が鳴ってもいい。
軍隊が駆けつけてもいい。
大事なことは、主人公以外が死ぬことなのだと。
それは今更ながら、非人道的な作戦だった。
『ハートキャッチ』を悪用して、内部の人間に自滅覚悟の犯行をさせたのだ。
本来ならそうならないように、特定のNPCは攻略対象外になっていた。
だが、課金アイテムを想定していなかった。開発者にしてみれば、後出しジャンケンであり、対応出来なくて当然。
そもそもがゲームバランス崩壊覚悟の課金アイテムなのだ。
そして入念に練られた犯行計画に基づき、主犯の主人公が安全な雪山に退避してる中、共犯者の内部犯によって行われた大量殺戮。
それは高度500m以外の空気中成分を変更することだ。酸素濃度が一定値を超えたとき、住人のほとんどが死亡した。
生き残ったのは、主人公のように雪山でバカンスしてる客か、雪山で働いているNPCだけだった。
死体愛好家の主人公は、空気成分が通常に戻った頃合いを見計らって武器を手に入れる。
これも内部の人間にタイマーでセットさせるだけだった。
後はのんびりとマンハントを楽しみながら、パラダイスを満喫していた。
何度も楽しめるように、きちんとセーブしてエンドレスパラダイスを実現してみせた。
真のパラダイスへ一番乗りしたのは、まさかの死体愛好家だったのだ。
これにリア充もどきたちは負け惜しみをコメントした。
「そんな事をして楽しめるのは、死体愛好家だけだ」
事実である。
そして盲点でもある。
安易に『ハートキャッチ』を利用しなかったプレイヤーたちに、重大な事を証明していたのだ。
あれだけ望んでも手に入らなかった【相棒】が、NPCの驚異的倫理観が、『ハートキャッチ』でモノに出来てしまう。
これで完全にサイコパスたちの息が吹きかえる。
諦めていた情報の入手、同士討ちすら可能なアイテム。指揮系統を丸裸にしたサイコパスたちの蹂躙戦の始まり。
次々と効率のいい殲滅作戦が実行されていく。
そしてカルマポイントを気にしない、真のパラダイスへとプレイヤーたちは到達した。
もちろんパラダイス到達直後にセーブしての、エンドレスパラダイスモードだ。
こうして運営とユーザーとの争いは決着した。
ユーザーの完全勝利であった。
開発者たちもユーザーの執念に祝福さえしていた。
遊び方など、ユーザーが自由に決めるものなのだ。チートを使わない限り。
いや、他者に迷惑をかけないのであれば、チートすら容認されるべきなのかもしれない。
そんな事を開発者たちが考える頃、運営会社は莫大な利益を上げていた。
うん。
それ、課金アイテムなんだ。
かつて地の底まで落ちた評判は、見事にV字回復していたのだ。
誰もが変態たちの熱い戦いに夢中になり、自分たちも参加したくなっていた。
もちろん変態と同じ行動は躊躇われるが、ラブラブを体験したい。
「浮気じゃないよ、ゲームだよ」
そんな言い訳をする一般プレイヤーまで虜にしていた。
その追い風を受けて、開発者たちはついに伝説のエロゲを開発した。
『パラダイスアゲイン』
それは前作を元にしながらも、大幅なボリュームを誇る。
まず、システムから見直された。
ゲーム内の登場キャラ、約1万人から自由に主人公を選ぶことが出来るようになった。
これで女キャラを使っての、擬似的な百合も対応することになる。
さらにステータスの導入。
そのステータスを上げるための訓練。
そして好感度がステータス値に応じて上昇。
挙句、一緒にいるだけで好感度が上がるシステムだ。
まるでストックホルム症候群を再現するかのシステムに、エロゲユーザーは歓喜した。
前作で好評だった課金アイテムも、ミニゲームなどで入手可能にしていた。
もちろん、ミニゲームが面倒な人の為に購入する事も可能だ。
これだけでも購入者が殺到するだろうに、開発者たちはクリア特典までつけた。
強くてニューゲームは、主人公のステータスと一部アイテムを所持した状態で始めることが出来る。もはや定番化したもの。
そして、もう一つが『ロストジェネレーション』と呼ばれるものだ。
これこそ、前作とは圧倒的に違う部分だった。
未知の惑星を調査する為に降り立つ主人公たち。
仲間は、本編で好感度MAXにしたNPCを最大6人連れていくことが出来た。
そしてモンスターが跋扈する、プチ大陸とも言える広大なマップで、自由に遊ぶことが可能。
しかも連れていけるNPCの好感度を自由に変更も可能。それはマイナスにまで変更する事が出来た。
つまりわざとマイナスにして、大陸を使ってのリアル鬼ゴッコも出来る。
思わず陵辱スキーもニッコリである。
しかも、そのマップ独自のシステムで、魔法やスキルなども使えた。
MMOが嫌いなユーザーにとって、最高のファンタジー作品でもある。
発売から1週間でランキング1位に躍り出ると、それから半年間ずっと1位を取り続けたエロゲの金字塔。
とある青年が購入したのは、そんなゲームだった。
そう、これはバグによって本編をプレイ出来ず、何故か『ロストジェネレーション』をソロプレイする事になった不幸な青年の話……
果たして青年は、モンスターが跋扈する中で、おっぱいを揉む事が出来るのか!?
って話を妄想した。
サーセン
m(_ _)m