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8. 妖精のイタズラ

 ――あれから3年が経った。


 本当は、もっと早く計画を実行に移すつもりだったのだが。サシャの思いとは裏腹に、体力をつけ剣を振れるようになるには時間がかかってしまったのだ。


 もどかしい気持ちをどうにか抑え、毎日ラウルと剣を交えた。


 スピードとパワーがあり、一撃の重さが圧倒的なロランに挑むのは、まだまだ道は険しく難しい。体重の軽いサシャは、ラウルの剣の使い方がよく合っていた。

 だから、基礎体力や体術をロランから。剣の技術はラウルから教えてもらった。


 流石に、女の子のサシャが男衆に混じるのは、オババが大反対したのだ。せめて、ラウルかロランから一本取れるまではと。

 そんな日がやって来るのは……いつになることやら。だいたい、2人から一本取れるなら十分過ぎる腕前になっている頃ではないだろうか。

 

 けれど、オババとラウルは一歩も譲らなかった。


(なんで、お父さんまで……女でも甘くしないって言っていたくせに)


 相変わらず素っ気ないのに、ときどきラウルは過保護になる。


 それを知ったアドルフはちゃっかり便乗して、訓練場ではなくラウルの家にやって来るようになった。競い合う者がいれば成長も早いからと、アドルフ本人がラウルに力説したのだ。


 そんな訳で……。ある意味、サシャとアドルフは強豪から英才教育を受けたのだから、其れ相当の強さになっていた。アドルフは大人顔負けの腕前だと、噂されている。


 だが、サシャは……。


 未だに男衆の中には入れてもらえないので、アドルフ以外サシャの腕前を知らない。ここでの特訓を知っているのは、当人達とオババとナディアだけなのだから。


 そう。この件は、ラウルとロランとオババから口止めされているのだ。

 血の気の多い男衆がサシャの腕前を知ったら、絶対に一戦交えたいと騒ぎになるに決まっているからと。


 

「なあ、サシャ! 今日はあっちの山を走らないか?」


 今日は、ロランの体術の日なのだが、外せない用事ができてしまったらしい。長としての仕事が最優先なのは当たり前だ。ラウルはラウルで、男衆の訓練がある。


 だから、山を走る自主練を言い渡された。

 もちろん、ただ走るだけの生易しいものではない。一番重い大剣を背負って、仕掛けられた罠を躱して目的地に着く時間を競うのだ。


「でも……あっちはまだ早いって! この前ロラン様が言ってたじゃない」

 見学に来ていたナディアが口を挟んだ。


「だって、いつもの方だと仕掛けの位置覚えちゃったし、つまら……えっと、訓練にならい」

「今、つまらないって言おうとしたわね!」


「だって、本当なら今日からあっちだったんだっ」


 毎度の姉弟ゲンカが始まって、サシャは苦笑する。アドルフは、ポカポカとナディアに叩かれながらも、絶対に反撃はしない。口には出さないが、アドルフのそういうところは男前だとサシャは思う。


(なんだかんだ、仲良しなんだから)


「まあまあ、2人とも。ロラン様も、仕掛けは終わったからって言っていたし……ちょっとだけ、行ってみる?」

「え、やった!」とアドルフ。

「サシャ、危なくない?」とナディアは心配そうにする。


「頂上までじゃなくて、自分でもう無理と判断した時点で下山するの。自分の力量を見極めるのも大事だって、ロラン様はいつも言っているから。どう?」


「分かった! 俺も無理しないって約束するし」


「絶対に無理しない約束よ……。日が傾いたら、体力残ってても帰ってきてね」

 ナディアはしぶしぶ頷いた。



 そして、ナディアの合図と共に、サシャとアドルフは地を蹴って一気に駆け出した。



 ◇◇◇◇◇



 アドルフは、次々に仕掛けられた罠を飛び越えて行く。


 スピードや跳躍力はアドルフに敵わない。

 だから、サシャは軽い身体を利用して罠を潜りつつ、感覚を研ぎ澄まし抜け道を選ぶ目を鍛えた。

 気を抜くと、自分めがけて大木やら岩などが飛んでくる。


 最近、サシャにも魔力が発現してきた。

 人間同士なら、その使い方を上手く指南できるのだろうが。獣人であるロランは、強化のやり方しか教えられないと言った。


 けれど、そのお陰でサシャは身体強化が出来る様になってきた。


 まだ微々たる物だが、体の一点に集中させるとその部分だけ能力が向上する。

 獣人には当たり前な事であっても、人間はそうではない。寧ろ、簡単な魔法を使うより、そっちの方が難しいのだが。サシャはそのことに全く気付いていない。

 

(右の木の下に仕掛けがある……いや、あれは囮で大物は着地した場所だっ)


 仕掛けを飛び越え、そのまま木を蹴り枝を掴むと、反対側にしゃがむように着地した。

 頭上を矢に模した枝が飛んでいく。


 ヒュッと息を呑んだ。


(こっちにも罠が……。アドルフは、大丈夫かしら? 一度合流して、戻った方がいいかもしれないわ)


 今までの山より、だいぶ緻密(ちみつ)な罠が仕掛けられている。

 息を整え、足を強化する為に魔力を集中させた。


 ――すると。


『ふふふ、見〜つけた』

 可愛らしい声と、虹色に輝く光が視界に入ってきた。

 

(……えっ? 蝶?)

 

 目を擦ると、そこには何も無い。

 

(気のせいかしら?)


 サシャは首を傾げつつ、もう一度集中し上に向かって駆け出した。


 だいぶ行った所で、違和感を覚えた。罠も無く、アドルフの気配も全く感じない。


(道を間違えた?)


 真っ直ぐ登って来ただけだから、間違えようもないのだが。スピードも出したし、アドルフに追いついていい頃だった。


 サシャは足を止め、息を殺して耳を澄ませた。静寂の中で聞こえてきたものーー……


(あれは、水音? まさか……)


 ちょろちょろと水の湧き出るような音が聞こえてくる方へ、サシャは歩き出していた。

 

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