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5. 初めての友達

 2人での新しい生活が始まり、なんとなくだが勝手が分かってきた。


 ラウルだけで住むには、大きすぎる家。少し違和感を覚えたが、狭いより余程いい。部屋はいくつかあり、そのうちの一室をサシャは使うように言われた。台所や浴室もきちんと片付いていることから、ラウルは几帳面な性格なのかもしれない。


 朝食を済ませると、洗濯のやり方を教えてもらうため外へ出た。


 洗濯は庭の水場でもいいし、近くの川を使って洗うのも構わないとラウルは説明する。川は女性の社交場になっているから、行けばサシャも早く里に馴染めるだろうと。


 サシャが一生懸命ラウルの説明を聞いていると、庭の茂みが不自然にガサガサと動いた。

 

 ビクッとしたサシャは、隣のラウルを見上げた。ラウルは、心配いらないとサシャに伝え茂みに向かって声をかける。


「そんな所に隠れていないで、こっちへ来い」


「あぁ〜、もう見つかっちゃったか」

「だから、言ったでしょっ。ラウル様に隠れてもムダだって」

「だって、驚かせたいじゃないか!」


 サシャより少し大きな、男の子と女の子。2人で喋っていたかと思うと、クルッとサシャの方を向き、懐っこい笑顔を見せる。


「俺はアドルフ。んで、こっちのうるさいのがナディアだ!」

「うるさいのって、失礼ねっ!」


 また2人で言い合いが始まる。


(2人は姉弟かな?)


「で、お前は?」とアドルフ。


「わ……私はサシャ」

 急に振られて戸惑いながら答えた。


 それでもワクワクを隠し切れないアドルフは、くるくるとサシャの周りを回る。


「サシャは人間なんだろ? 俺、人間の友達って初めてだ! よろしくなっ」

 

(……友達?)


 視線を上げると、ラウルは頷く。どうやらラウルは、今日この2人がやって来るのを知っていたみたいだ。


「よろしくね、サシャ。この里で分からない事があったら私達が教えてあげるわ」


 ナディアはアドルフより落ち着いたお姉さん風で、優しく言った。2人は双子だそうだ。


「ありがとう、アドルフにナディア。よろしくねっ」



 さっそく仲良くなった2人に、里を案内してもらう事になった。


 山々に囲まれた、緑いっぱいの村里。


 主に狼の獣人は、この山の周辺で生活している。山を下りて平地に行けば、他種族の獣人も行き交う街があるそうだ。必要な物は、そこでだいたい手に入るらしい。

 治安の問題から、子供だけでは街に行ってはいけないことになっているのだと、ナディアは教えてくれた。


 キラキラ流れる小川に沿って3人は進む。

 途中で長い枝を見つけたアドルフは、パシパシ草を叩いたり振り回しながら楽しそうに歩いていた。


「なあなあ、ラウル様との生活ってどうだ?」

「えっと、どうって?」

「ラウル様って、すっごい無口だろ? その上、めちゃくちゃカッコイイ!」

「うん、まあ」


 確かにラウルは無口で、整って綺麗な顔をしているし姿勢もいい。年齢は聞いていないが、見た目だけならだいぶ若く見える。


「家だと、うちの父ちゃんみたいにダラダラしてるんじゃないかと思ってさ」


 アドルフはぐふふっと悪戯っ子らしい顔をする。


「馬鹿じゃないの、アドルフ。ラウル様と父さんを比べるのが間違っているわ。比べるなら、ロラン様とラウル様よ」とナディア。


「どうして?」


「あ、サシャはまだ知らないのね! この里で一番強いのがロラン様。で、その次がラウル様よ。だから、皆んなが尊敬しているの。でも……」 

「でも?」

「あっ、ううん。何でもない」


 慌てるナディアに、アドルフは余計な補足をした。


「ほら、エマさんとお腹の子が死んじゃったからさ」

「……え?」


「わ、バカ!!」っと、ナディアはアドルフの頭をパシリと叩いた。


「イテッ! 何だよナディア、本当の事じゃないかっ。エマさん人間に殺されて、ラウル様は笑わなくなって……あっ」


 顔面蒼白になった友人を見て、アドルフはサシャが人間だと思い出す。ナディアが何で怒ったのかも漸く理解できた。


「あー……、ごめんよサシャ。で、でも、サシャは人間だけど違うからっ!」


 必死で言い訳をするアドルフに、サシャは首を横に振る。


「違わないよ。私は人間だもの」

 サシャは、小さく呟くとキュッと口を結んだ。


(どうして……お父さんは私を助けてくれたのかな?)


 普通なら憎くて仕方ないだろう。たまたま瀕死の子供を見つけて、捨て置けなかっただけかもしれない。

 

(もしかしたら……いつか、捨てられちゃう?)


 サシャの頭の中は疑問と不安が渦巻く。それを振り払おうとブンブンと顔を振る。


「お、おい、サシャ大丈夫か?」


 アドルフは薄茶色の瞳で心配そうに、サシャを覗き込む。


「ううん、いいの。教えてもらって良かったかも」


「そ……そうか?」とアドルフ。


「ねえ、サシャ。ラウル様はきっとサシャを大切にしてくれるわ。だから、心配しないで」


 ナディアもサシャの不安を悟ったのか、安心させるようにギュッと手を握ってくれた。


(そうだ、お父さんは愛想は無いけど恩人だもの。きっと優しい人なんだ。……だったら、私が。お父さんが淋しくないように、死んじゃった子供の代わりになればいいんだわ!)


 心の片隅には、捨てられたくないという打算があったかもしれない。

 けれど、サシャは……その決意を胸に、自分は人間ではなく獣人なのだと言い聞かせ、里の民になれるように努力を重ねていった。

 


 ーー数年後には。


 川で洗濯しながら、井戸端会議で盛り上がるまでにしっかりと馴染んでいた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 友達ができて少しづつ世界が広がっていきますね。
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