24. 共に……
これで完結いたしますm(__)m
その日、早朝からラウルの姿は見えなかった。
気配を感じなかったので、家の中に居ないと分かっていたが、サシャは一応声に出して呼んでみる。
「お父さん?」
やはり、返事は無い。
荷造りを終えた広い家は、ガランとしている。窓を開けると、肌寒い空気が部屋の中に入って来た。サシャは簡単に着替えると、ある場所へ向かうことにする。
そこにラウルが居ると分かっていたから。
日が差してくると、朝露で濡れた樹々や草花はキラキラと光る。そんな輝く丘の上。大きな木の下には、ロランとラウルの姿があった。
(居た……)
サシャは緊張した自分の頬を軽く叩く。そして深呼吸すると、スカートを摘み走り出した。
「あー、やっぱりここだった。お二人だけでズルいです!」
エマの墓の前に、サシャも立つ。少し拗ねたような口ぶりで、ロランとラウルを見上げた。
「いやな、母さんとゆっくり話がしたくてな」
サシャに黙って出てきたラウルは、バツが悪そうに言った。
「あ、ロラン様。移住の件で皆んなが探してましたよ」
途中でロランを探すアドルフに会った事を伝える。きっと、ここに居るだろうとのサシャの勘は当たっていた。
「そうか、悪い悪い」と頭を掻きながら、ロランはアドルフ達が待つ場所へと向かう。
ロランが見えなくなると、サシャは両膝をつき手を組んだ。
「私も、お母さんにお別れさせて下さい」
ずっと抱えていた想いを、今日伝えると決めていた。里を出るギリギリまで、ラウルのそばを離れたくなかったから──。ラウルの返事次第では、皆の前から消える覚悟をしていた。
「……サシャ。随分と長くないか?」
ハッとしたサシャは、固く握った手をほどきラウルに向き直る。
「ふふっ、そうですか? たくさん伝えたい事があったのです」
墓の中で眠るエマに……ラウルと一緒に自分の気持ちを聞いてほしかった。
「エマに……?」
「はい。お父さんに助けてもらった事とか、たくさん」
「……いや、あれはロラン様が」
「違います。お父さんが私を守ってくれたのです。初めて会った、あの日からずっと」
そう。あの時のサシャは、絶望と虚無感から生きることを諦めていた。
けれど──
サシャの首に噛みつこうとした、ラウルの瞳に滲んだ痛々しいほどの悲しみは、サシャに父の姿を重ねさせた。そして、無意識にラウルを……父を求めていたのだ。
(でも……)
「一緒に居て……お父さんは、私のお父さんじゃないとよく分かりました」
ラウルの耳には……。どれほど努力しても、あの姿絵の人物に代わることは出来ないのだと──そう言われているように聞こえた。
「だから、今お母さんにお願いしました」
「………」
ラウルは顔を強張らせ拳を握る。サシャは魔界ではなく、帝国へ帰りたいと言うのだろうと覚悟した。
「お父さんを、いえ。ラウル様を私に下さい、と」
「ああ……ん? ええっ!?」
真剣なサシャは、戸惑うラウルから目を逸らさない。
「何を……。本気で……言っているのか?」
「お母さんの前で、こんな嘘言いません。だから、ちゃんと聞いてほしいのです。私は、人間です。どんなに頑張っても、ラウル様より長く生きられません」
「……それはっ!」
人間を子供にと思った時点で、それは承知の上だった。ラウルが言いかけようとするが、サシャは首を横に振る。
「一緒に居たら、いつかまた……ラウル様を悲しませてしまう日が来てしまう。それでも! 私はラウル様と生きて行きたいのです。守られるだけではなく、エマお母さんの様に、私もあなたを守りたい」
涙ぐむサシャは、自分勝手な想いをラウルにぶつけているのだと分かっている。それでも、本心を知ってほしかったのだ。
ラウルが無理だと言うのなら、きっぱりと身を引くつもりでいた。
「私をラウル様のお嫁さんにして下さい」
「……ああ」と呟いたラウルは、震える腕でそっとサシャを抱きしめる。
ラウルもまた自分の想いに気付いて、それを必死で隠していたのだ。サシャと仲良くするロランにまで、嫉妬してしまうくらいに。
「俺は……仮の父親という立場を利用してでも、お前を手放したくなかった。そんな卑怯な男でもいいのか?」
「……ラウル様がいいのです」
サシャは、ラウルの背に回した手にきゅっと力を入れる。
「サシャ。これからも、共に生きてほしい……愛している」
力強いラウルの腕の中で、サシャは頷き声を出して泣いた。
その瞬間──。
どこらともなく風が吹き、二人を祝福するかの様に大量の花弁が舞った。
◇◇◇END◇◇◇
〜おまけ〜
街が寝静まり、霧が視界を曇らせる。
黒紫のローブを纏った男は、歓楽街の寂れた裏路地を歩いていた。酔っている風もなく、足取りはしっかりとしている。目的の、草臥れた木の看板がぶら下がる扉の前まで来ると、不思議なリズムでノックする。
すると、それが合図だったかの様に扉は開いた。
「そろそろ来る頃だと思っていたわ」
カウンターの奥に座る、切れ長の目をした美しい顔立ちの女は、ローブの男に向かってそう言った。
場末に似つかわしくないその女は、慣れた手つきで男に飲み物を出す。
「で、報酬は?」
ローブのフードを後ろに落とすと、長い銀髪を邪魔そうにかき上げる。
「先ずは、こっちを返すわ」と布で包まれた物を、スッと差し出す。
男は予想していたのか、「やはりか」と呟き受け取った。
「花の方は?」
「とても、役立ったわ。だから、報酬は情報の方だけよ」
「わかった」
「獣人の、ある一族は魔界への移住を決めたわ」
「……魔界?」
「そっ。人間である、あなた達が絶対に手を出せない場所よ。安心して、決して悪い場所ではないわ」
魔界と聞いて安心は出来ないだろう……そんな胡乱な目を向けたが、女は何故か自信満々だ。
「では、彼女も?」
「ええ」
「出来れば、貴女にずっと……見守っていただきたかったのですがね」
「私も残念だわ。でも、あんな幸せそうな顔見たら、ね」
女は、ふふふ……と笑う。
「雇い主の、乳兄弟さんに伝えて。彼女は自分で生きる道を……いいえ、幸せになる道を選んだっ、てね」
「やれやれ、また荒れそうだ」
男は口の端で笑うと、綺麗な銀髪を隠す様にフードを被った。
扉に手を掛けると、女に向かって一言。
「あの花は、これ以上絶対に流通させませんから、ご安心を」と。
「期待しているわ」と女は美しい笑みを浮かべる。
扉が閉まるとそこは空き家に戻り、窓から大きな鷹が白んだ空へと飛んで行った。
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
予定より残酷描写が増えてしまい、すみません。
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本当にありがとうございました。
これからも頑張りますので、応援していただけましたら嬉しいです╰(*´︶`*)╯♡




