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19. 嫌な予感

(頭が……痛い……)


 ガンガンとする頭痛で目が覚めたサシャは、ベッドの中で寝返りをうつ。

 こんな状態には覚えがあった。


(そうだ……お祭りで)


 アドルフが持って来た、差し入れのフルーツ盛り合わせ。その中の半分が、果実酒として漬けてあった果実だった。

 パクパクと美味しそうに食べる2人につられて、一番小さな丸い実をかじった。


(違う。嘘だわ……つられて食べたわけじゃない。酔いたかったんだ、私)


 陽気に酒を飲んで笑う、アドルフや大人達のように、サシャもそうなりたかった。酔って、自分の中に沈殿しているモヤモヤとした物を、消してしまいたかったのだ。

 流石に、約束したからお酒は飲めない。漬かっていた果実くらいなら大丈夫だろうと、安易に考えてしまった。


(きっと、ナディアも心配したよね……)


 と、そこまで考えてガバッと起き上がる。


「……っ、痛たた」


 ズキン、ズキンと脈打つこめかみを押さえて、自分の状態を確認する。

 昨日のワンピースのままだった。ウエストのリボンは畳んで、花飾りと一緒にテーブルの上に置かれている。その横には、二日酔いに効くと言う赤い実とコップに入った水が。


(お父さんが運んでくれたのね……飲まないって約束を破って、呆れられちゃったかな)


 もし、サシャを運んだのナディアなら、服もきっと着替えさせてくれただろう。

 窓を見れば、もう日は高い。ラウルはきっと仕事に出かけている。

 サシャはベッドから降りると、赤い実を口に入れガリッと噛み砕いた。


「……苦いな」


 そう感じたのは、赤い実のせいだけではないだろう。水で無理矢理それを流しこんだ。

 

 ひと息つくと、あれっと思う。


「花が……枯れていない?」


 サシャは花飾りに視線を落とす。花は綺麗に咲いている。切り花の飾りは、もう萎れていてもおかしくなかった。

 1番大きな花に触れようと手を伸ばすと、ひょっこり花の後ろから可愛らしい妖精が。


「あっ、妖精さんが居るからなのね」


 サシャに見つからないように、コッソリ隠れて待っていたのだと思うと笑みが溢れる。

 時々、気分で姿を見せる妖精は、とてもサシャが好きらしい。そんな妖精の言葉は、相変わらず聞き取れないが、最近では何を訴えているかは解るようになってきた。


「これを着けろって?」


 妖精は、サシャの髪を引っ張りながら花飾りを指差す。


「ふふっ。じゃあ、私が着けた姿を見てくれる?」


 何だか嬉しくなり、サシャは身なりを整えると花飾りを着けた。ウエストのリボンは無理だけど、お気に入りのワンピースでクルリと回って見せる。


「どうかしら?」そうサシャが言った時、カチャッと扉が開いた。


「サシャ、起きたのか?」


 仕事に行っていると思っていたラウルが、そこに立っていた。


「あっ……お父さん」

 サシャはカーッと赤くなる。妖精の前だけだからと、スカートを摘んでポーズをとっていたのだ。


「具合は……もう大丈夫そうだな」とラウルは部屋を出て行こうとした。すると、ピタッと足を止め──


「……その姿、よく似合っているぞ」

 振り向きもしないで、ラウルは言う。


 お互い、顔を見られなかった。

 ただ、妖精だけが……嬉しそうに真っ赤になったサシャとラウルを見て、楽しそうに舞っていた。


 

 ◇◇◇◇◇


  

 ――あの収穫祭の年から月日は流れ。


 特に大きな変化はなく、平和な日々は過ぎて行った。

 サシャはもうすぐ、18歳の誕生日を迎えようとしている。

 


「最近、おかしな動きがある」


 真剣な表情のロランは、ラウルと2人きりになるやいなや言った。


「おかしな動き?」


 書き物の手を止めたラウルは、長であるロランを見る。ラウルだけに伝えたことから、ロランが言っているのはサシャに関する事だと察した。


「あの帝国か?」

「いや、まだ断定は難しい。だが、人間が『素材集め』なる名目で魔物狩りをしている」

「……そんなのは昔からだろう?」


 人間にとって、魔物には価値がある。魔物から取れた()()は、防具やら装備の材料として使われる。魔物の核は、魔石として高値で取り引きされるのだ。

 

 だが、それが盛んだったのは一昔前。

 魔族によって人間の大国が滅ぼされてから、無闇に魔物を襲わなくなっていた。

 とはいえ、腕に自信のある者や金目当てで魔物を襲う人間はいる。エマの命を奪った人間達も、それが目的だった。


「それが、敢えて獣人の里を狙っているらしい」

「知能の低い、大型のヤツじゃなくてか?」

「そうだ」

「つまり、目的は……」

「素材と──奴隷だろうな」


(……反吐が出る)

 ラウルは顔を顰めた。


「しかも、噂では。金髪に青い瞳の娘を探しているらしい」

「……っ!!」

「人間界に詳しい者の話だと、言語が帝国とは違ったらしいが」


「だが、サシャを! ……そうかっ」

 ハッとしたラウルは鋭くロランを見る。

 

 あの帝国なら、サシャを探すのにこんな回りくどい事はしない。奴隷が禁止されているのも、広く知れ渡っている。それだけ、あの国には力が有るのだ。


「帝国の敵対国なら、サシャには利用価値があるかもしれない。ただ、片腕の無い男だけが流暢な帝国語を話していたそうだ」



 




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