表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/25

17. 収穫祭の始まり

 その日、里は朝から大賑わいだった。 


 里に住む狼の獣人族だけではなく、街で生活している他種族の獣人たちもやって来る。

 流石に誰でも参加という訳にはいかない。あくまでも、この里との取り引きや繋がりがある者だけだ。

 その辺は、ロランや顔のきく者が中心となり、線引きしてある。


「サシャ、準備はどう?」

 

 迎えにやって来ていたナディアが声をかけた。ふんわりとした可愛らしいスカートを揺らし、頭には花飾りを着けている。


「うん、あと少し。んっ……後ろのリボンが難しくて」

「なんだ、早く言ってよ! 私に任せて」


 器用なナディアは、ワンピースのウエストのリボンをキュッと結んでくれた。


「どう、苦しくない?」

「大丈夫、助かったわ!」


 ラウルに街で買ってもらったワンピース。デザインに一目惚れしたのだが、自分でリボンを結べない事に後から気付いた。

 やはり、着替えの手伝いはラウルに頼めなくて、困っていたところだったのだ。

 

「にしても、その服可愛いわね! 街で?」

「そうなの、お父さんが……」


 ほんのり頬を染めるサシャに、ナディアは微笑む。


「で、その髪飾りは?」

「昨日、お父さんが取ってきて。自分で作ったのだけど、変じゃない?」

「とても素敵よ! ラウル様もそう言ったでしょ?」

 

 ナディアは、ラウルの反応がとても気になる様だ。


「それが、お父さんは準備で昨夜は泊りだったから」

「そっか。じゃあ、今日この可愛い姿を初見せするのねっ」

「……うんっ」


 2人は顔を見合わせて、ふふふっと笑う。


(お父さんは無口だから。でも、似合うくらい言ってほしいと思うのは贅沢……かな?)


 準備が完了すると、戸締りをして広場へ向かった。



 ◇◇◇◇◇



 出店が立ち並び、華やかに着飾った人々が行き交っていた。食べ物の、こんがり焼けた香ばしい匂いも漂っている。


「アドルフはどこに居るのかしら?」


 そうサシャがキョロキョロしていると、ナディアは含み笑いをする。


「実は、今年はアドルフが剣舞を披露するのよ。だから、今頃は全身飾り付けされている頃よっ」

 えっへんと胸を張ったナディアは言う。

  

「あっ。今年、成人した中で一番剣術が上手いから!」

「そうなの、大抜擢よ」

「じゃあ、日が暮れるまでは会えないわね?」

「そう、ギリギリまで特訓される筈よ」


 ナディアにとっても、それは誇りであり嬉しい事なのだ。


「おめでとう、ナディア」

「ありがとう、サシャ。少しだけ、覗きに行っちゃう?」

「え、いいのかな……見たいけど」

「遠くからなら大丈夫よ。きっと、ロラン様やラウル様も居るはずだから」

「そうね、じゃあ遠目にねっ」


 サシャとナディアは顔を見合わせ、ニッコリ微笑んだ。



 祭り会場である広場から離れ、2人はアドルフ達が準備している訓練場へと向かった。出入り口ではなく、低い塀の所からそっと覗いてみる。


「あ! あれじゃない?」 

「どこ? 見えないけど」

 サシャは目を凝らすが見つけられない。


「ほらっ、あっちの婦人会の皆んなに囲まれて」

「ああ!」


 ナディアは双子ならではの能力なのか、すぐにアドルフを見つける。サシャは兄弟がいないので、時々そんな2人を羨ましく思う。


 婦人会の着せ替え人形と化しているアドルフには、これ以上近付けない。

 サシャは訓練場を見渡すと、テントが張られた出入り口付近に、ラウルの姿が見えた。


「あ。お父さんも居たわ」

「サシャ、少しだけ会ってきたら? あそこなら、外から回れば声を掛けられるわよ」

「でも……」

「いいから、いいから。私はもう少し、アドルフを見ているわ」

「じゃあ、ちょっとだけ行ってくるねっ」


 

 ◇◇◇◇◇



 出入り口の所には、ラウルだけではなくロランも居た。そして、もう1人──。


「これを見てほしいの」


 亜麻色のストレートの髪を、高い位置でキュッと束ねてある美しい女は、ロランとラウルに一枚の紙を渡した。


「これは……ジギタリスの花に似ているが」とラウル。

「いや、似ているが違うな」

 ロランは顔を上げると、女を見た。


「そう、違うわ。けれど、どちらも毒を持つ花。この花はジギタリスの変異種よ。霊峰の山で咲くと言われている珍しい種類。私達、獣人に効いてしまう厄介な花よ」


「では、これがっ!」

 ラウルはギリッと歯を鳴らした。


「実物はあるのか?」


 ロランが女に尋ねると、女はニヤリと笑う。


「たった一株だけど、ね。オババに届けてあるわ。解毒剤が出来れば、助かる獣人が増えるもの」

「流石だな」

「私達の利になる事に、労力は惜しまないわ。けれど、もっと早くこれの存在を見つけられていたら……」


 女は悲しみを湛えた瞳を、ラウルに向けた。


「悪いが、俺はちょっと本物を見てくる。ラウル、この場は任せるぞ」


 それだけ言うと、ロランはテントを後にした。


「ラウル、久しぶりね」

 2人だけになった女は、ラウルに話しかける。


「そうだな。いつも祭りには来ないのに、あの花を届けに来たのか?」


「まあ、それが一番ね。でも、色々気になる事ばかり耳に入るから」


 意味深長な笑みを浮かべた女は、話を続ける。


「姿絵……あれを手に入れたのは、私よ」

「……そうか」


「色々と、ラウルに聞きたいわ」

 そう言いながら、ラウルの肩に長くて綺麗な指を乗せると、艶っぽく言った。



 ◇◇◇◇◇


 

 ロランと行き違いに、サシャはテントにやって来ていた。

 声を掛けられる雰囲気ではなくて、咄嗟に木陰に隠れたのだ。

 

(あの、女の人は誰だろう?)


 ラウルと女は美男美女で、娘のサシャから見てもよくお似合いだった。


(なんで苦しいのかな……)


 サシャは、チクチクと刺すような胸の痛みに、(うずくま)ったまま身動き出来なかった。

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ