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11. 隠されていた物

「……え?」


 妖精の後から、かつて父が使っていた部屋へ足を踏み入れた時だった。一瞬。サシャの背中をゾワリとした悪寒が走り、全身が粟立つ。


 妖精は気にもとめない様子で、窓辺の近くの机にフワリと立った。


(今の何かしら?)


 キョロキョロと部屋の中を見渡すが、特段気になる所は無い。窓の外が薄暗くなった感じがするが、もうすぐ夕暮れだからとサシャは自分を納得させた。


(異変があれば、妖精さんなら気付くわよね?)


 過信しているわけではないが、ほとんどの人間が遭遇出来ない妖精なら、敏感に人の気配を察知しているのではないかと思った。

 気を取り直して、妖精が見ている先をサシャも覗いてみる。


「これを開けろってこと?」


 妖精が指差すのは机の引き出し。

 たて付けが悪く、左右にガタガタと揺らしながらサシャは引き出しを引いた。

 だが、少し開くがその先から動かない。無理矢理引いたら壊してしまいそうだ。古くなり歪んでしまったせいかと思ったが……。


「あれ? 違うわ」


 引き出しの中で、何かが引っかかっている様だった。開いている部分から手を入れ、動かせる範囲で(まさぐ)ってみる。手首が擦れるが仕方ない。グッと更に突っ込んだ。


(これかしら?)


 引き出しの中というより、引き出しの上。つまり机の裏面に貼られていた紙のようなものが剥がれ、噛んでしまっていたのだ。

 破れないように慎重に引っ張り出す。多少、端が切れたりクシャクシャになっている所もあったが、読むには問題なかった。

 

「どうして、お父さんがこれを──」


 それはまるで、設計図のような物だった。

 真ん中に描かれていたのは、かつてサシャが無くした指輪の絵。その裏の模様をメインに、見た事もない文字がたくさん書き出されている。


 解読しようにも、サシャが習ったのはこの国の文字。それも短い期間だったので、多少の読み書きが出来る程度。本を読んだり、生活に役立つ位の知識しかない。難しい数式や他国の文字はサッパリわからないのだ。


(だけど、この模様の意味は知っているわ……)

 

 紙を両手で持ち、透かすように持って眺める。


(そう、これはこの国の──王家の紋章)


 ――ガタン! と背後で音がした。


 妖精がパッと消え、ハッとしたサシャは振り向き様に机に身をかがめる。


「ここで何をしている?」


 抑揚の無い、平坦で冷ややかな声だった。

 

 今さら隠れた所で意味はなさそうだ。サシャは、諦めて立ち上がる。


 扉の前に立つ男は2人。

 1人は明らかに貴族。しかも白と銀を基調とした、高位の騎士の()で立ちときている。一度だけ、何かのパレードでそれを着ていた騎士を遠目に見た事があった。

 それを纏う、スラリとした黒髪黒目の男から放たれる、威圧感というものに息苦しさを感じた。


 その傍らには、黒紫のローブを被った男が。フードの下には白銀の長めの髪が隠れている。

 どちらも年齢は30歳前後に見えた。


「あの……勝手に、入ってすみません。てっきり、空き家かと思って」


 迷ったが、自分が以前住んでいたとは言わない事にした。もともとが空き家だったのだし、この2人がどんな人物かも分からない。

 サシャを狙った男達とは全く雰囲気は違うが、だからといって奴らと無関係とも思えない。


 幸い……今のサシャは、目立つ髪はコンパクトに結び、動き易いシンプルな服装で訓練で泥も付いている。市井の娘より汚い姿は、寝床を探している家の無い者だと、勘違いしてくれるかもしれない。


 背中にあった大剣は、引き出しを弄るのに邪魔だったので足元に下ろしてある。机の下に足でそっと押し込めば、男達からは見えない筈だ。


「空き家ならば、他人の家に入ってもいいのか?」

「……良くないです」

「ほう、素直に認めるか。では、その手にある物も、お前の物ではないだろう?」

「そ、それはっ!」

 

 サシャは、慌てて背中に隠す。


「それを此方に渡せ」


 仲間を裏切ってまで、自分を守ってくれた父が残した物。何か重要な事が書かれているに違いない。

 紙を持つ手にギュッと力が入る。


 男は気が短いのか、サシャの行動を待たず傍らの男に何か指示した。

 ローブの男は小さく溜め息を吐くと、ボソボソと何かを唱える。


 すると、サシャの手の中にあった紙は宙に浮き男の元へと移動した。

 それを一瞥した男は、フッと鼻で笑う。


「……なっ!?」


 サシャは紙を取られしまったことより、男の態度が気に入らなかった。


「返して下さい!」

 キッと睨んだサシャは訴える。


「……お前の名は?」

「それを言ったら返してくれますか?」

「俺は取り引きなどしていない」


 男は有無を言わせないとばかりに、威圧してくる。相当な手練れの騎士に、術者らしきローブの男。歯向かっても、2対1で勝ちめは無さそうだ。


「……サシャ、です」


 この場を切り抜け、逃げる事を最優先としたサシャは、素直に答えた。


「では、サシャよ。これの実物を知っているな?」


 サシャの考えを察した男は、手にした紙を見せ冷たい笑みを浮かべた。


(この男達は、やはり……敵だ!)


 背中を伝う嫌な汗。サシャの足先は剣に向かっていた。

 



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