5:ヨーホホ
「何しに来た」
俺が到着すると、サルサの前にこれまたラッコの毛皮を被った女性を筆頭に、複数の柄の悪そうな人間達が感知器の手前で待っていた。サルサは俺をボコすか殴った位置で対応していた。
見学者は俺一人だけで、サルサの周りには味方一人もいなかった。
「実家に帰ってきた家族に対して、ひでぇ言い草じゃねえか」
どうやらサルサの身内らしい。にしては敵意剥き出しって感じだ。やはり限界集落だと敵になるのは身内が定石なのかな。
「何しに来た」
「変わんねえな。塊賊がするこたあ、決まっているだろう。ただ昔のよしみで抵抗を許してやろうって事だよ」
「だったら私は務めを果たすだけだ」
サルサは三又槍を塊賊達に構える。これは思っていた通り祭りが始まるぞ。
心を躍らせて待ち望んでいると、祭りの開幕は突然だった。
「やれ」
後ろで控えていた人間達がサルサへと襲い掛かる。迎撃用が発射されるも、矢は全て弾き落とされる。ふむ、ある意味ではこの塊賊も、最初の洗礼を乗り越えたと言えよう。
全員が二又槍をサルサに突きつけられる範囲へと入る。一人目がサルサの腹部を狙って差しにいったのを、三又槍の口金あたりで弾く、そのままの動きの流れを保ち、石突きで、次の攻撃を狙っていた二人目の顎を割る。
息の合ったような二撃がサルサを襲う。三又槍の穂で一つ受けて、もう一撃は太刀打ちで攻撃をずらして避ける。三又槍を下へと叩きつけ、穂と太刀打ちで受けた二人の二又槍は地面にぶつかり、二人は急な力の変化に態勢を崩す。それを見るや否やサルサは一歩踏み込んで三又槍を突き刺し、突き刺した相手を持ち上げて、もう一人にぶつける。
最初の一人目が態勢を立て直しており、そいつを後ろ蹴りで顎下を蹴り飛ばしてしまう。
それでもまだ四人を圧倒しただけである。相手は両手の指では数えられない程の人数。それに対するはサルサ一人、腕二本、足二本、顔一つではやれることが限られている。いくらその動作を最小限に抑えたとしても、人間だからムラがでる。現に五人目、六人目、七人目と倒していく度に、息が上がり、攻撃を貰うようになっている。
十二人目で真面な攻撃を腹に貰って、それを機に残りの数人が猛攻撃をしてきた。だが、残りの数人が宙に舞う。俺にしたように三又槍が手から離れて、独りでに襲い掛かった数人を伸してしまう。
サルサは数分で大の大人二十人を一人で捌いてしまった。
ふぅーと、大きくを息を吐いて、塊賊の頭である人間を睨む。
「結婚して弱くなったと思ったが、未だに番人は健在だな」
「お前はかかってこないのか? 威勢だけが塊賊の取り柄か?」
「ヨーホホ。そう焚きつけられたら、滾ってくるじゃねぇかよ。何がって? 訊くまでもねぇよ」
塊賊も三又槍を取り出して、一触即発の雰囲気。さてはてどっちが勝つのでしょうか。
「殺意に決まってるだろ!」
三又槍同士で槍試合が見れると期待していたのに、この二人の戦闘が始まった瞬間。常人ならば目を疑う光景になった。三又槍が宙を舞い、空中で弾き、いなし、金属音を鳴らす。
当の本人たちは地上で指先を動かしながらその場で立っているだけだ。
あの三又槍は本人たちが魔力か何かを介して操っているのだろう。歴史本で読んだ知識だが、北海の住人の武器である槍は、基本的に狩猟の銛として普段使われている。槍は幼子の時から持ち、社会的地位を与えられた場合に二又槍を持たされる。そして三又槍は社会的地位と、他社から認められる程の強さを持った人間だけが持てる、特別な槍。だからサルサも塊賊の頭も、この地域ではそれなりに社会的地位と力を持った人間なのだ。弟子二人は多分このことを知らない。
二人の攻撃は拮抗しているように見えるけど、どうやらサルサが押されているらしい。僅かにサルサの三又槍がサルサの方へと押し戻されている。
チラリと、サルサが横目で俺を見た。目が合っちゃった。見学しに来た俺を気にしているらしい。どちらかと言うと、俺の位置を確認しているな。うん。成程ね。あの塊賊の頭、俺へと攻撃が当たる様に狙いをつけているのか。それをサルサが無理をして守ってくれているから、押されていると言うわけだ。そうじゃなきゃ、俺がいない状態ならば恐らくサルサが勝っているだろう。
俺のせいか。このことが弟子達に知られたら、俺の人望、もとい神望がなくなってしまう。それを守る為にも言っておくか。
「おーい。俺の事は気にしなくていいから、存分に戦いなよ」
サルサの見える範囲の顔が引き攣る。それができればそうしている。と言いたげな顔だな。自分が招き入れて許可した客人を傷つけることは、仕事としては失敗であるからか。うーむ、気高き戦士だことで。
「じゃあ俺がそっち行こうかー?」
まだサルサは顔を引き攣らせたまま。これはサルサが外へ出ることを許可していないから、勝手に出ることは許されないから。俺が勝手に外へと出れば、規約違反で俺へと何らかの罰を与えなければならないから。そうなれば前門の虎後門の狼。サルサはどっちらの対応にも追われてしまう。どちらかを順番立てしなければならない。そこに思考をさける程の相手ではないだろう。
「許可だしてくれればいいんじゃないのー?」
全てを理解した上での発言です。
「ヨーホホ。あの男はそう言ってるぜ?」
自分が攻め込めている事を実感している塊賊の頭は少し余裕を持った発言をする。
「黙れ。これは私の仕事だ」
「そんなんだから囚われているんだよ!」
塊賊は懐から拳銃を取り出して発砲する。度重なる誰かの邪魔と、戦闘以外に思考を振っていたことのせいで、サルサにとっては不意の一撃となった。
弾丸は脚部を貫いて、サルサの態勢が崩れて、地面に片足を着かせた。できた大きな隙を逃すわけもなく、塊賊の三又槍がサルサを絶命させようと顔面を狙う。
だけども三又槍はサルサの顔面に当たる直前に進路を変えて、俺へと向かってくる。それを俺は何の抵抗もなく受け止める。
「なんだ、お前」
塊族は勝手に軌道が変わった事と、まさか受け止められるとは思っていなかったのか、目を丸くして訪ねてきた。
「ただの観光客だよ」
「ふっ、ヨーホホ。お前みたいな観光客がいるか」
「よく言われる」
完全に敵意と興味が俺に映ったみたい。ようやく俺もお祭りに参加させてもらえるようだ。地方の祭りって疎外感あるけど、輪に入ってみると気さくだよね。
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