序:再会
遥か昔、それはこの世界ができた頃から始まった。それくらいの大昔、神達が自分達の信仰を獲得する為に、あらゆる生命へゲームを促した。ゲームは闘争と言う言葉に変わり、生命達は己が信仰する神を讃え、崇め、賛美し、背反する異教徒達と争い続けた。
普遍神オーレ。天神ワタ=シィ。魔神ボォク。この三神が一つの生命を駒と決め、その駒が死ぬまで戦わせ、勝ち残った者がいずれかの神の信仰と褒美を得られる。神々の代理戦争。
三百年に一度行われてきたその生命と信仰を天秤にかけたゲームは、近代――前回におけるゲームにおいて、生命達は自分達がゲームの駒に仕える雑兵だと意識づけるゲームとなった。
これまでは選んだ駒と共に水面下でゲームを支配してきたが、神々は飽き性であり、負けず嫌いであった為、前回のゲームでは燦々たる結果となった。だから、今度のゲームは三百年越しに復活した前回の勝者であり、転生魔王神と成ったリヴェン・ゾディアックと共に、ゲームの内容を決めることを決議することにした。
「と、言うわけなんじゃ」
「へぇ、つまりは俺を今度の介添神として認めるって事だ。となると、俺はボォク達としのぎを削り合うんだね」
突然、何もなく、仄かに温かみがあるだけの空間に意識が飛んだと思ったら、三百数年前のボォクの声でそう呼ばれた理由を説明された。
「そうそう、リヴェンも今では立派な神様だからね。参加する資格はあるし、参加してもらわないと困るんだよね」
「まぁ今の世界の信仰心は俺が掌握しているようなものだからか」
「さっすがリヴェン物分かりが良い~好き好き~」
頬に引っ付いてくるワタ=シィの声がしている球体を押し剥がしてから、会話に参加して来ずにむっつりとしている球体に視線をやる。
「前回割をかなりくらって信仰が地に落ちたオーレも参加するの?」
「当たり前だ。地に落ちた奴でも信仰を手にした馬鹿もいるしな」
「馬鹿とはなんじゃ! 余は賢いぞ!」
ボォクが頭からぷんぷんと湯気を出すかのように言う。反論する当たり認めていることになるんだけども。
現在の信仰の値を十で割ると、俺こと転生魔王神リヴェン・ゾディアックが七で、魔神ボォクが二で、残りの一をワタ=シィとオーレが貧困層のパイ生地を分け合うかのように取り合っている。
更に最近はそこに二つの神が追加された。それが俺の目の前でコソコソと隠れている球体と、大胆にもいびきをかいて寝ている球体がそれなのだろう。
俺の視線に気が付いたのか、ワタ=シィがそいつらの事を紹介する。
「あ、紹介がまだだったね。そこで隠れているのが猟海神ジィブンだよ」
「ど、どもジィブンって言います。新参者ですがよろしくお願いします」
神にしては、元魔族の俺に対して腰が低い奴だった。猟海神か。海の神であるのは間違いないな。この世界、普遍と魔と天しか神がいなかったのが、そもそも少なすぎるって思っていたところはある。当時は神共のことなんてどうでもよかったが。
「こっちで寝てるのが地獄神ワアレ。ほら起きて起きて皆揃ったよ」
「んっごっ! おぉ揃ったか。我は地獄神ワアレ。とくと覚えよ」
また癖のある神だことで。神だから癖があるのか。神もキャラ付けしないと、印象に残らずに消えてしまうものね。あぁ世の中って世知辛い。
「この二神は俺が神になったことと原因があるってことでいいね?」
「ふむ、衰えてはいないようじゃの」
ボォクはいつもの調子で感心する。
「こ奴等は世界の帳尻合わせに生まれた神共じゃ。今までは余らで回しとったが、主が新たな神となったことで、世界の均衡が崩れたのじゃ。そもそもお主理ぶっ壊したしの」
この世界の信仰を掴んだ暁として、神は信仰を元に理を作り上げることが出来る。理は世界の常識を改変し、世界を作り上げることができる概念。受肉したものには一切見る触れることさえもできない。今も世界のどこかで俺の作り上げた理が漂っていることであろう。
「そんなこともあったねぇ」
「しみじみじゃの。崩れた均衡をそのままにしておけば、世界が崩壊しかねないからの。だからこやつらは生まれたのじゃ。下界でも、こやつらを慕う奴らが出て来ている頃じゃろ?」
ボォクの言う通りに、つい一年ほど前から世間では新興宗教として、このジィブンとワアレを祀る宗教が現れたのを耳にしている。耳にしているだけで仔細は知らない。
「事情は分かった。つまりはこの二神は俺の後輩で、盛り上げる為に追加された神ってことか」
「簡潔に言うとそうなるの」
元から簡潔に言っているようなものだったけど、そこは追求しないでおこう。
「うん。彼等の事は理解した。じゃあルールを決めよう。ルールは前回と一緒で、下界の駒を一人見つける。その一人の介添神となって、駒が死ぬまで見届ける。介添神は駒への攻撃を不許可とし、それが行われた場合は罰が課せられる。駒はゲームが開始日まで開示しない。ゲーム開始までに駒が死亡した場合は、新たな駒を創る事を許す。確かこうだったよね?」
「あぁ。今回も駒と介添神の挿げ替えはありだ」
「根に持つねえ。神様はもっと大らかじゃないと」
「黙れ。次は俺が勝つ」
「おぉ怖」
前回。確定した勝利だったのに俺がオーレを道連れにして、最終的に俺が勝利したことを三百年経っても根に持っているらしい。深い深い遺恨がオーレの心に張ってあるんだね。
「はいはーい。神も増えたし、ワタ=シィが追加ルールを考えてきたよ。なんと、今回は介添神も肉体を失えば失点とします」
「なんじゃと! 聞いとらんぞ!」
「今言ったんだもーん」
「失点ってなんですか?」
「おっジィブン着眼点が素敵だね。罰と同意義だけども、失点は介添神が駒に与えた権能を没収。ボォクなら魔力を没収とかね」
「いいな。神を殺せば、駒は自力で戦わねばならぬという事だな」
「そうなるね。反対意見はある?」
誰も反対意見を出そうとしない。反対はしないが、気になることが一つあった。肉体を失えば。今回も神は受肉して、介添神として駒に付きそうのだろう。だが現状俺は肉体を失うことは到底ない。どこでその肉体を失うという判定になるかは問いただしておきたいところだが、これを言えば不公平との意見も出てくるだろう。
それにこいつら全員、俺の身体がそんな状態だと知っているはずだ。それを踏まえてのこの追加ルールだ。面倒くさいことこの上ないな。
「ん。じゃあ、何もない事だから、一年後の同じ日にまた会おう。解散!」
ワタ=シィがそう言うと俺は無理矢理にも意識を自分の身体へと戻された。
「・・・師匠!」
誰かが俺の身体を揺さぶる。
「ねぇ師匠ったら!」
この独特な甘く幼い声は可愛い弟子一号の声だ。
俺は目を開ける。目の前には神聖な白い服を着た赤髪の女の子が頬を膨らませながら、俺を可愛らしく睨みつけていた。
「あぁ! やっと起きた。もうご飯の時間だよ!」
俺が起きたのを確認すると、両手を腰に置いて無い胸を張る。まさに遺憾の意を示すかのような態勢でそう言った。
「そうか。もうそんな時間か」
俺は玉座の肘掛に力を入れて立ち上がる。
「ねぇねぇ師匠、何の夢を見てたの?」
立ち上がった俺との身長差は三十センチ。頭が俺の肩よりも下にある。俺が高身長でもあるが、弟子一号がまだ子供だからでもある。子供の中では大きいほうかもしれないな。
「懐かしい奴らと会話をする夢だよ」
「へぇー、師匠でもそんな夢見るんだ」
「そりゃあ見るさ、生きてるんだからね」
「それもそうか」
俺達は談笑しながら、本日の食事である罪人を食す為に、白く荘厳に作られた玉座の間を後にする。
またあの生きた心地しかしないゲームが始まるのだと思うと、久々に生き返ったようだった。
初めましての方は初めまして。お久しぶりの方はお久しぶりです。
リヴェンの物語の続編です。毎日更新を心がけますが、余り書き溜めていないので途中で減速します。いつものことです。
お手数ですが、
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今後ともよろしくお願いいたします。