アンハッピーハロウィン
肌寒くなってきた、秋。
毎年変わらない気がする、灰色のパーカーで、灰色の中に立つ。
「あ、また忘れた……」
そう言っても、灰色は答えない。
10月31日。
世間では、トリックオアトリートなどと言ってはしゃぐらしい。お菓子をくれなきゃ、悪戯しちゃうぞ、と。
お菓子を持ってき忘れたのは、今年で何回目だろう。それくらい、俺はそのイベントに興味がないらしい。
「お菓子、ないから。悪戯してくれよ」
物を言わぬ灰色に、緑茶の缶を置く。こいつは昔から、年齢のわりに年寄りくさい味好みだったから、お菓子よりよっぽど喜ぶかもしれない。
「――気が向いたらで良いから、マジで悪戯しに来てくれねえかなあ」
有り得ない希望を吐いて、我に返る。そんなにも現実味がないことを、ここで言ったのは初めてだった。
「……帰る。また来る」
長居をするとダメになる気がして、俺は灰色の墓石の中から足早に去った。
5年前、10月31日。
俺の人生で、最大で、最悪の、妹からの悪戯を、思い出しそうになった。
最高の悪戯は、はたして、したいものだったか。