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01


 「っおらおらおらおらおらおらぁぁぁぁっしゃっぁ!!」

 

 狭い谷を繋ぐ石橋の上で、身の丈180cmほどの男が、大剣を振り回している。男の正面からゴブリンやホブゴブリンが押し寄せているのだ。大の大人が4人は並べる幅の石橋で、男は器用に大剣を振り回し、我先に押し寄せるゴブリン達を切って切って、崖下の川へ投げ落としていく。


 「どんだけいやがるんだよ!どっしゃぁっ!こいつら!キリがないぜ!!おらおらおらおらおらおらぁぁぁ!!ジジイ、まだかよ!?」

 男は、目線だけで後ろを振り返る。

 目線の先では、老人が光輝いていた。

 老人は、長杖を構え、今も呪文を唱えている。足元には、魔方陣が、眩い光を放ちながら、今か今かと完成を待ちわびていた。

 「もう少しじゃ!耐えよ!」


 「たくっ!簡単に言いやがる!どらぁっ!」

 男は大剣を凪払いながら、老人の更に後ろをチラリと見る。

 そこには、女性と少女がいる。女性は倒れ、苦しそうに呼吸している。少女が心配そうにその手を取っている。親子だろうか。

 男は、少しの焦りを覚えて、吼えた。

 「あぁぁ!くそ!もう待てねぇぞ!ジジイ!俺が、全部片付ける!!おらおらおらおらおらおらぁ!!」

 そう叫ぶや否や、男は今まで以上の気迫で、突き進み始めた。ゴブリン達が、なす術なく川に落とされていく。さすがに、前面にいるゴブリン達は恐怖におののき、足踏みしだす。しかし、後ろから来るゴブリン達の勢いに圧されて、前進するしかない。後ろからは、ゴブリンの勢い、前からは謎に叫ぶ男の大剣に挟まれ、ゴブリンは潰され、崩れ落ちていく。

 最初、石橋の真ん中辺りで戦っていた男が、老人達と反対側の端へ場所を移し、もうすぐあちら側の地上に足が届きそうな時だった。


 「ゆくぞい!塵とかせ!」

 老人が、杖を天に捧げ、魔方陣が集束していく。


 「はっ!?おいっ!?ジジイ!ちょっ、待て!!」

 男は、老人の言葉が聞こえるや、大慌てで振り返り、石橋を戻り始める。そして、5歩も進まないうちに、後ろで、雷が爆発した。ゴブリンやホブゴブリンを、数多の雷が蹂躙していく。断末魔すら聞こえないほどに。

 男は、爆風に背中を圧され、吹き飛ばされ、橋の反対端まで転がって、そこでなんとか踏みとどまった。

 「ジジイ、、やりすぎだろ、」

 男、唖然である。


 橋の向こう側は、ひどい惨状と化していた。

 雷で焼け焦げ、元の地面の色もわからなくなっている。


 「ふぅ。どんなもんじゃい!」

 老人は、やりきった顔をしている。

 

 「何が!!どんなもんじゃい!だよ!やりすぎだろ!?この、く○ジジイ!」


 「なんじゃと!?ワシの大魔法にけちをつける気か!?この、○そ弟子!!」


 「師匠を名乗りたいなら、少しは、加減を覚えろ!後始末が大変だろうが!」

 そういって、男は、左手を橋の向こうへ向ける。その人差し指に填まった指輪の宝石が、キラリと輝く。

 橋の向こう。ゴブリン達が押し寄せていた広場は、焼け焦げ。更にその向こう、道があったのであろう森の入り口もわからないくらいに、焼け爆ぜて、今にも火が広まり、火事になろうとしている。

 男が、短く呪文を呟いた。すると、谷底の川から、水が谷を登り、森に移りそうになっていた火を鎮火していく。男の嗅覚は、焼け焦げる嫌な匂いを覚えていたが、我慢して、消火に専念する。


 老人は、弟子なのであろう男の文句に、初めはプンプンしていたが、後ろの女性と少女を思い出し、急いで走り出す。ローブを纏った老人だが、その足取りは意外と速く、しっかりしていた。頭のとんがり帽子を左手で抑え、右手に杖を持ち、ササッと一呼吸で走り寄る。

 杖を地面に置いて、すぐさま、ポシェットからポーションを取り出し、女性の口元へ運ぶ。

 「大丈夫じゃよ。安心して待っておるが良い。」

 老人が、少女に微笑みかけて、少しでも安心させようと、声をかける。

 少女は、今にも泣き出しそうだ。「雷、こわぃ」

 「ほあっ!?雷が恐かったのか!?それは、すまんかった!この通りじゃ!」

 老人は、弟子には下げない頭を、少女には素直に下げた。

 「…うん。」少女も、素直に謝罪を受け入れてくれた。目には、たくさん涙を浮かべながら。

 「いい子じゃ。」老人は、安心させるように、少女の頭に手を置く。目は、女性をくまなく探りながら。「外傷は、腕の切傷だけのようじゃの。失礼するぞい。」そう言って、老人は女性の腕をとり、傷口を確かめる。「毒が塗ってあったようじゃな。うむ、これは毒消しも必要かのぅ。」

 老人は、ポシェットの中をまさぐりながら、女性の傷口の化膿具合を確かめる。そして、楕円形の陶器を取り出して、蓋を外し、中に入っていた軟膏を、傷口の周りに塗っていく。「しみるかもしれんが、我慢じゃぞ。」女性を励ますように、声をかける。そして、包帯も取り出して、腕に巻いていく。「あとは、本人の力次第じゃな。」

 不安そうに見上げる少女を見て、優しく微笑む。この老人、意外とナイスガイである。


 「おい、ジジイ。そっちは、大丈夫か?」

 消火を終えたのであろう男が、歩み寄りながら、声をかけてくる。爆風で一緒に飛んだ大剣も回収して、背中に括ってある鞘に納めてある。

 「ったく!嬢ちゃん、何があったんだ?教えてくれないか?」

 「おい!この子はまだ泣きそうなんじゃから、もう少し優しく言えんのか?!」

 「はぁ?く○ジジイ、あんだけ雷降らせて、爆発させてたの誰だよ?どうせ、あの雷が恐くて、この嬢ちゃん泣き出しんだろうがよ?」

 「ぐぬぬっ、、、」何も言えない老人であった。

 男は、戦いながらも、老人や少女達の事を逐一確認していた。後ろから、ゴブリンが襲ってくる可能性もあったからだ。ゴブリンは、連携に関しては、知恵がまわる。だから、男は前方だけでなく、少女達の後ろへの用心も怠らなかったし、ついでに女性の容態も気にしていた。男は、その時にしっかりと少女の事も見ていた。恐がっていたし、心配そうに女性に寄り添っていたが、その目には涙はなく、むしろ女性を守りたいという強い想いを感じた。その少女が涙を浮かべているのである。安心して、緊張が解けた可能性もあるが、この少女なら、それでも泣かないのではないかと、男は考えた。オラオラオラオラ叫ぶ、恐いだけの男ではないようだった。


 「…私、泣いてない」

 「ぁあ?いや、泣いて」「泣いてなんかない」「っ」「泣いてないもん!」

 少女は、男を見上げながら、泣いてないと主張する。その声は、明らかに震えているのだが。

 「…まぁ、嬢ちゃんがそういうなら、泣いてないんだろう。すまんな。」男も、別に少女が泣いてないというなら、否定する必要もないのだ。ぶっきらぼうに謝って、女性に目を向ける。

 女性は、ポーションを飲んでから、少しずつ呼吸も落ち着き、苦しそうだった顔色も、赤みを取り戻しつつある。それでも、まだ意識は遠いようだ。

 「ジジイ、一個前の村に戻ろう。あそこなら、この女も寝台でゆっくり休める。」

 「そうじゃの。お嬢ちゃん、それでいいかい?」

 老人は、少女に確認を取る。少女は、戸惑いながら、頷いた。

 「ほらよっと!」

 男は、少女が頷いたのを見て、軽々と女性を両手で抱えあげる。少女が驚いて、男の袖を掴む。

 「あんっ?あぁ、安心しろ。別に、悪いことしよってんじゃねぇよ。それより、急ぐぞ。陽が暮れちまう。その前に、村まで戻りてえし、女を担いだまんま、走れねえしな。」男は、女性に目を向ける。まだ意識の戻らない女性の身体に、負担が掛からないように考えているのかもしれない。

 少女も、察したのか、袖を掴む力を弱める。男と女性を交互に見てから、男の前に向かい、女性の片手を握る。

 正直、女性を抱えた男は、歩きにくいが、少女に何も言わなかった。


 老人が、杖を捧げ、何か呟いた。すると、光が集まり、いつの間にか、杖に白い梟が留まっていた。

 「頼んだぞい。」老人が、呟くと、白い梟は飛び立っていった。村へ先に知らせたのかもしれない。


 「行くぞ、ジジイ。」男は、白い梟が飛び立つのを見て、さっさと歩きだす。

 「あっ!待たんか!まったく、お前は、少しは老人を労ることを覚えんか!腰が痛いんじゃぞ」

 「ジジイ。腰が痛そうにしてるとこなんか、ほとんど見たことねぇぞ。」 

 「あぁ、腰が痛いのぉ。腰が、ずぅんずぅんするぞい。」腰をトントンしながら、老人が言うが、男は見向きもせず、進んでいく。

 「これ!置いていくでない。」



 男と老人は、仲が良いのか悪いのか。少女は、女性の手を取って歩きながら、不思議に思っていた。




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