ミリカの受難(3)
「そうですか、ありがとうございます」
「いっ、いえ! お礼なんて……」
収穫、ナシ。決闘を明日に控えた私の現状がそれだった。
王城内で聞き込みを続ける日々。しかしこれといった有益な情報は得られず、進捗はない。
──私の仮説は間違っていたのか。
国を出て色々な経験をした。人間の生活模様を観察し、知見を得た。
そんな私は今までの生も振り返り、父の一挙一動を記憶から引っ張り出してきた。
そして辿り着いたのは、父は浮気の一つや二つしているのではないかということだ。
レナさんの両親然り、ラースさんの父然り。
ある程度の地位を持った者の夜というのは誘惑が多い。
エルフの国には一夫多妻のような制度はないが、特別否定されているわけではない。
なんであれば高貴な者の血は残すべきだという風潮もあるぐらいだし、歴史を振り返ってみれば王に限って側室を持ったケースもある。
父と母はどちらも血の気が多い方で、衝突が多かった。
仲が悪いわけではないが、良いわけでもない。結局のところ政略結婚だし、気が合ってくっついたわけではない弊害もあったろう。
だから、喧嘩をした際にフラストレーションを解消する方法は父は出かけ、母は私に会いにきた。
主に飲食で気を紛らわせる父。それに対して母の拠り所は私だった。
いや、厳密には私ではない。優秀でお淑やかで、王女である私を産んだということが彼女の最大の誇りなのだ。
そんなことはさておき、喧嘩があって夜に外出することもあった父。
誘いはあっただろうし、その行き先が女性の所だったこともある……かもしれない。
と、推理して色々と聞き込みをしているのだが有益な情報は得られない。
「…………」
弱気になった自分の頰をつねる。
完全に収穫がなかったわけではない。表に出さないよう振る舞ってはいるが、動揺を見せた者も数人居た。
つまり、何かある。
理想は隠し子が居れば、それが一番私にとって好都合だ。他に王位を継ぐ者が居れば好き勝手できるのだから。
だけど、高望みはしない。こういった弱味は飽くまで決闘の後に父がゴネた時の保険であり、決闘自体は自力で勝つ。
……それは確定事項だ。
◇
「おや、もうくたばったかい? それじゃあ冒険に連れていけない。この先一生城でお留守番でもしてればいい」
「ぐぬぬ……! なんの!」
レナさんに発破をかけられ、私は立ち上がる。
ついに最終日。多少は実戦に慣れてきたものの、実力はまだまだ足りない。
朝の稽古を経てダンジョンに潜り、かなり奥の方までやってきた。
そこで力尽きかけた私、という構図だったがまだまだ倒れてはいられない。
シトラフィア様の騎士として、いや……共に征く仲間として冒険に出かけるために。
「あー、面倒だねこれは」
レナさんは遠く眺め、ぼやく。
おそらくダンジョンも終盤に差し掛かってきたと予想される。そんな地点で私達の前に立ちはだかるのは、ガーディアン軍団。
一本道の左右に規則的に並ぶガーディアン達。私たちには気付いているのか気付いていないのか、動く気配はない。
「他に道は…………」
「無いだろうね。散々探し回って辿り着いたのがここだし」
私の希望はバッサリと切られる。彼女の言う通り、このフロアは探索し終えた後だ。
隠し通路とか部屋があって、そこから抜けられるようになっていないだろうか。
そんな甘い考えを持つが、首を振って自戒する。
今までの私は正直、困難を避けて安寧の道を生きてきた節がある。
面倒ごとから逃げてはならない。ここで私は前に進む。
「──押し通りますよ」
「フ、言うもんだね。策はあるのかい?」
聞かれた私は自信満々の笑みを浮かべる。
が、策は無い。正直なところ何も考えはなかった。
ただ、視覚的に見える範囲でもいくつか情報はある。
道は一本だが、奥の方に曲がり角が見える。そこも片道で道なりに進む形だが、その先に上に行く為の階段があるとは限らない。
強行突破は愚の骨頂。ある程度殲滅してから先を見ることになるのは必然だろう。
続いて、罠などは無いと断定していい。
エルフは種族的に危機察知能力が優れており、斥候に向いたようなギフトを授かることが多い。
そんな中、私は〈罠探知〉というギフトを持っている。
一言でいえば“直感”というわりとアテにならないものをアテにするものだ。
と、言ってしまえば悪く聞こえてしまうが、私は視界に入れたものの情報処理能力がずば抜けている。
そこから違和感を見つけ出し、罠の有無を見分ける。
これが大まかにまとめると〈罠探知〉だ。活かすにはギフトとは他に罠の知識も必要になってきたりする。
野盗に捕まった時も気づけたんじゃないかと言われればそうだが、頭がパーになって突撃するときにそんなのは注視していないのである。
所詮下賤な人間の蛮族共だと完全に舐め切っていた。
そして、罠の気配もなくあらかた殲滅することを求められるとなればだ。
「ふふふ、強引に行きましょう」
そう言った瞬間レナさんの顔色がすこし曇ったのを見て、私は慌てて「と、言いたいところですが」と訂正を加えた。
「幸いダンジョンの床壁はガーディアン達の光線に耐え切れる仕様になっています。道幅の狭い場所を利用して相手の数を制限しましょう」
「分かった」
道の幅はほとんど等間隔だが、部屋に繋がる場所だけ少し狭い。
その間は図体のデカいガーディアンが三体倒れるかどうかといった程度。三体なら私達であれば余裕を持って処理できる。
「行きますよ!」
狭い道へ引きずり込むためには、まずガーディアン達に気づかれなければならない。
私は魔法を構築──接近のち、先手を打って中級火魔法の〈フレイムノヴァ〉をガーディアンに打ち込んだ。
火球がガーディアンの体に着弾すると、爆発。巻き込んで二体を撃破するが、煙の中から颯爽と他のガーディアンが駆けてくる。
その間に私達は撤退。無人の小部屋まで誘導し、数を絞る作戦を決行する。
「動けてるよ!」
細剣を突き出す私に、レナさんが珍しく持ち上げるような言葉をくれる。
自分でも分かる。自信を持って踏み込めていることが。
魔法と剣で次々とガーディアンを撃破し、十数体居た軍団はあえなく撃沈。
右舷を私が、左舷をレナさんが担当。連携も問題なく、手早い処理。
「もうこの程度では苦ではないようだね」
「それもこれもレナさんの指導のおかげです!」
「フッ、大したことはしてないさ。ポテンシャルはあったから、それを引き出す手伝いをしただけだよ」
謙遜するレナさんだが、ここまでこれたのは間違いなく彼女の力がある。
でも、私の努力があったこともきっちりと肯定していいのかもしれない。
シトラフィア様のために、そして自分のために。
ただひたすらに剣を振り、数日邁進してきた甲斐はあった。そんな手応えを感じている。
「さ、そろそろボスだろう。とっとと終わらせて美味しいご飯でも食べようじゃないか」
先行するレナさんに、私は頷いて着いてゆく。
彼女達と共に立てるようになるか、というのは分からない。
だけど、たしかな成長がある。これを続ければ明日とは言わず、いつかは。
──待っていてください、シトラフィア様。貴女のもとまで、駆け足で登ってゆきます……!




