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至高の

 ギルドであらかた情報を集めた俺達はとある場所へと向かっていた。


「お邪魔しますー」


 アポも無しにやってきたのは、鍛冶屋ベザン・グレードの工房だ。

 〈剛剣フレストリア〉を打ってくれた職人で、根っからの仕事人。

 彼は今日も工房に金属音を響かせており、勝手に踏み入れる。

 勝手と言っても呼び鈴も無いし、仕事中は大きな音のせいで彼に声が届かないので許可なく踏み込むしかないのだが。


「…………」


 踏み入れた俺達の気配に気が付いたのか、べザンさんは一度手を止めて振り返る。

 彼はドワーフと呼ばれる種族だ。長い髭が特徴的で、あとはエルフと仲が悪いとかなんとか。

 持っていたハンマーを置き、ずかずかと歩いてきたベザンさんは俺の前に立つと、じっと顔を近付けてくる。

 眉間にシワを寄せ、俺の顔を確かめるかの如く数秒見つめたベザンさんは……長い髭をさすった。


「ラースか?」


 数年ぶりに会ったので分からなかったのだろう。一瞬で特定されないことにやや嬉しさを感じつつも、俺は頷く。


「フレストリアは元気か」


「現役ですよ。手入れも欠かしてません」


「そうか」


 フレストリアの無事を確認すると、ベザンさんは踵を返す。


「ひと段落するまで待ってくれ。二十分ぐらいかかる」





「それで、今日は?」


 仕事を中断したベザンさんは、椅子に腰掛けて熱い茶を飲む。


「霊体に効く剣があれば、と思って」


「ああ、例のダンジョンか」


 察しがよく、おもむろに立ち上がったベザンさんは工房の端の方に置いてある箱から一本抜く。

 乱雑に突っ込まれた剣の内の一本。本当に対霊作用があるのか怪しいところである。

 しかしベザンさんは自信満々に「ほれ」と俺に突き出してきた。


 手に取ってみると、やはり不安になる。刀身は細く、月の如く反り返っている。

 握った感触も通常の剣より軽く、剣というよりは刀と呼ばれる部類の武器だ。

 ただ、柄に魔核が埋め込まれている。おそらくこれが、対霊の作用をもたらすオプションになっているのだろう。


「そいつは寝不足の時に作って歪な形にしちまったもんだ。冒険者達も騎士達も対霊装備を求めるわりにゃ買いやしねえ。

 だからタダでやる。強度や効果はしっかりしてるし、お前さんなら上手く使えんだろ」


 とんだ無茶振りではあったが、無料で貰えるに越したことはない。


「ありがとうございます。必ずコイツでダンジョンボスをぶった斬ってみせますよ」


 自信はなかったが、大見栄を切ってみる。


「おう」


 ベザンさんはぶっきらぼうに片手を上げ、仕事へと戻る。

 比較的口数が少ない方で、表情も無愛想ではあるがいつも気前はいい。

 刀を貰った俺達は工房を出ようとする……が、戻ってきたベザンさんに呼び止められる。


「そういやお前さんのレナの決闘の話はもう広がっているぞ。どうせお前さんはアイツのことを避けたくて避けたくて仕方ないんだろうが、そろそろ貰ってやれ。世界で一番お前さんのことを想っているぞ、あの子は」


 あまりの情報の早さに驚きつつも、俺はベザンさんの発言に頷くことも言葉を返すことも……無かった。

 ベザンさんが俺とレナの事情に詳しいのは〈剛剣フレストリア〉を作る際にまず、俺の訓練を見て合うであろう剣を考えるところから始まったからだ。

 末期のレナから逃げ出したい気持ちを露わにしていた俺を見ていたので、そこらへんの事情も察しているのだろう。


「お前さんが冒険者になって、あの子は〈剛剣フレストリア〉と同じものを作って欲しいと尋ねてきたよ。

 ワシは素材が必要だと言うと、一人でAランクのダンジョンに潜って踏破してきた。

 フレスト鉱石と上等な“魔核”を持ってやってきたさ。ペアルックの剣が欲しいって言うもんで、ワシは打ってやったよ。

 あの子の想いは本物だし、あんまり無下にしてやんな……ってのは大きな御世話か。忘れてくれ」


 珍しく饒舌に語った後、ベザンさんは再度仕事に戻った。

 知らなかった。一人でAランクのダンジョンに……改めてレナの恐ろしさを実感すると共に、彼女の想いの強さを知る。


 両親を失ったレナに俺がしてやれたことなど知れている。彼女の秘密を守り、彼女を抱きしめたことぐらいだ。

 大きくなったら結婚する、なんて発言はギルフィが取り潰される以前だし、壊れた彼女の為にやれたことなんて精々父に頼んで騎士団に入れてあげたぐらい。


 それは順当に行けば待っている道だったし……恩を感じるほどのことでもない。

 何が彼女に。何が彼女の中に、それほどの愛を植え付けたのか。


 だが、もしかすると壊れているのは彼女ではなく愛を理解できない俺の方かもしれない。

 ずっと主役の陰に隠れ、ただの緩衝材として生きてきた。

 それは自分の欲以外に関心を持てなかったからだ。


 俺の望みはただ、戦うこと。今まで自覚はなかったが、薄々気付きつつある。

 俺という人間の本質は、戦いという悦楽に狂った〈バーサーク〉。

 そんな人間だから他のことにはそれほど関心もないし、レナの愛にも疑問符を打ってしまうのかもしれない。


「…………行こう」


 いくら考えようと答えは出ない。何が正しいか、というのは一週間後に待ち受ける決闘の後に……少しは解明されるだろう。

 俺の催促でパーティーはダンジョンへと向かって歩き出すが、ベザンさんによるレナのエピソードもあって気まずい。


「それ、抜き身のまま持ち歩くの?」


 そんな雰囲気の中、気を遣ったのかは知らないがエルゥが剣を指して指摘する。

 その通りだと思い対霊剣を眺めるが……一体どうすればいいのか。

 元々鞘に入っていないところを見ると、失敗作だと鞘自体作っていないのかもしれない。

 抜き身の対霊剣をぶら下げて歩く俺に周囲の目線は奇異な物体を見るようなもので、あまりにもいたたまれない。


「一度帰ろう。父さんが剣のコレクターだから持っているかもしれない」


 刃物を抜いたままウロウロしていると騎士団に拘束&連行されてしまう可能性があるので、俺は家に帰ることを提案した。

 道中、やはり人々は俺達を避けて通る。

 使えるか使えないかではなくこの時点で大きな損害なのだが、背に腹は変えられない。


「おかえりなさいませ」


 時刻はまだ昼前で、セスに迎えられる。

 もうすぐ食事時なので、ある意味タイミングは良かったのかもしれない。

 屋敷に入り、シトラとエルゥを先に食堂に向かわせ……俺は父のコレクションがある部屋へと向かう。

 屋敷の裏に蔵があり、そこにも武器を押し込んでいるがまずはコレクションが置かれている部屋だ。

 勿論久しく入っていないし、俺自身見たいだけである。


「一応旦那様には坊ちゃまにも触らせないように、とは言いつけられております」


 セスは部屋まで案内してくれるが、釘を刺してくる。


「くくくっ、俺が持ち出して叩き折った時は人生唯一の締め出しを喰らったからな」


「旦那様が娼館に通っていたことを奥様に告げ口した時も追い出されたかと」


「そんなこともあったか」


 昔は案外やんちゃだった、と思い返しながらコレクション部屋を開いた。

 ケースの中に飾られた剣の数々。実戦で使う剣はいつも同じ市販の鉄剣だが、そのクセ色々な剣を所持しては振りたがる。

 曰く、剣と女は同じだとか。本命は一つでも、その時の気分があると。

 その発言は母さんの怒りを買い、一晩中裏の物置蔵にぶち込まれた挙句「やっぱ剣と女は一緒だ。上等なモノは俺を振り回してくる」と言って庭に埋められそうになっていた。


「あれ、この剣は見たことがないな」


 部屋の最奥、孤立して飾られた一つに目が行く。

 あまりに不自然に置かれているモノだから気になり、ケースを外すと……俺はセスの制止を無視して手に取る。

 一見普通のものだが、鞘から抜き出してみるとぎらぎらと光を放っている。

 光沢が、という話ではない。父が使う光剣と同じように剣自体が発光しているのだ。


「……〈魔法剣〉でございます」


「ほう」


 魔法剣は二種類あり、一つは魔法で創造する技術を指す。

 もう一つは古代の技術で、剣に魔法を刻み込み、属性を付与するもの。文献にはあるし実際にそういった技術を者もいるが、あまりに希少なので現代ではそういった意味合いで使われることはほとんどない。


「これは父が?」


「はい、王立図書館の古い文献を参考に何やら夜な夜な励んでおりました。苦節二年、ようやく実を結び……坊ちゃま?」


 剣を鞘にしまい、ケースに戻すことなく抱える俺にセスが首を傾げる。

 おそらく俺は今、気持ち悪いぐらいにニヤけているだろう。

 こういったものに高揚を得るのは血筋かもしれない。そう思いつつ、持って帰ろうとするとセスが立ち塞がる。


「坊っちゃま、その魔法剣〈ウルト・ゼートルト〉の管理は私に一任されております。つまり持ち出して叱られるのは私でございまして」


 手刀を構え、通さないというセスに俺の口角は更に吊り上がる。

 ウルト・ゼーノルト……ゼーノルト家の当主は代々“剣”を冠する名前で呼ばれてきた。

 父であれば〈剣帝〉。先代はもう死んでしまったが、〈剣鬼〉なんて呼ばれていた。

 だから、この剣はさしずめ至高の剣(ウルト・ゼーノルト)といったところなのだろうか。父のセンスが俺と同じであれば、そんな意味合いだろう。


「たまにゃいいだろ、悪さも」


「お言葉ですが坊っちゃま、幼き頃の貴方は思っている以上にヤンチャでしたよ……!」


 構えたセスに、俺は剣を置いて体術を仕掛ける。

 久々の手合わせに心が高まる。やはり、俺は父に似た面があるのかもしれない。

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