武器選び(2)
「私はこれでいいとして、ラース。いつもの長剣はどうしたの?」
エルゥの発言で視線が俺に集まる。今唯一腰に差しているのは小回りの利く、どちらかといえば短めの剣だ。
なんの変哲もない鉄の剣で、使い勝手は良くも悪くもない。手入れは欠かさずしているが、難易度の高いダンジョンや場所で使うには心許ないものではある。
「おう、ラースじゃねえか。いつもの面子はどうしたんだ」
俺の存在に気がついたドリアンさんが尋ねてくる。
「クビになりました」
「お前さんが?」
「えぇ。剛剣フレストリアも置いていけと言われたので、もうありません」
「そうかい」
俺の返答に、ドリアンさんはどこか寂しそうな顔を見せる。
フレストリアを打ってくれたのはこの国〈テルスタン〉の王都に居るべザン・グレードという鍛冶屋だ。
ウチの父が長い付き合いらしく、冒険の門出にと資金と素材を出してくれて特別に打ってもらった思い入れもある一本だった。
また、べザンさんはドリアンさんとは互いにシノギを削る仲らしく、よきライバルでもあるらしい。
初めてここへ来た時にたまたまドリアンさんが店に居たのだが、フレストリアを見て一目でべザンさんが打ったものだと気付いていた。
どこか悔しそうに「良い剣だ」とも褒めていたので、それがぞんざいとも言える扱いを受けていることに思うところがあるのかもしれない。
「これを持っていけ、代金はいらねえ」
どういった意図なのか、ドリアンさんは壁に飾ってある一本の長剣を手に取ると、俺に渡そうとしてくる。
壁に立てかけてあるのは安価なもので、飾ってあるのは高価。そのような印象というか実際にそんな分け方をされているのだが、ドリアンさんが俺にやると言った剣は中々質のいいものだった。
最上級のフレスト鉱石に比べると劣るが、上等な素材を使っている。
これならどこへ担いでいくにも不足はない。しかし。
「いいんですか?」
「その代わりお嬢をしっかり頼むぜ。冒険者としては相当な資質だ、最低でも父親のSランクを超える冒険者に育ててやってくれ」
「ははは……」
剣を受け取った俺の背中をバシンッ、と叩くドリアンさん。
Sランク超えとは、軽く言ってくれる。そもそもSSランクは“Sという枠組みに収まらない化物が現れたから”作られたランクだ。
その域に達しろとは、難題を押し付けてくれる。
「安心して、ラース」
〈プロミネンス〉を軽々と担ぎ上げたエルゥがやはり控え目な胸を張って。
「元より、冒険者としてやるからにはパパを超えるつもりでいた。
そこに辿り着けないメンバーはハナから選ぶつもり、ない」
小さな体躯に、見え隠れする自信と……頼もしさ。
さきほどシトラに堂々としろと言った自分が恥ずかしい。
「やるか」
俺、エルゥ、そしてシトラ。三人が手を重ね、「おー!」と気合を入れる。
目指すはSSランク。誰からも認められる冒険者になり、天辺に立つ。
◇
「よろしく、俺は戦士のアレックスだ」
「私は弓師のシェーラです」
夕暮れ前のギルド。ヴァイン率いる私達パーティーは、新しい冒険者を迎えていた。
「よろしく、ヴァインだ」
「アンよ、見ての通り魔法使い」
「治癒師のクレアです」
ヴァイン、アン、続いて私、クレアが挨拶をする。
新しく入る二人は以前からヴァインが目を付けていて、晴れて仲間になった。
「しかし、同じような役割のラースを外して俺を入れるってのは……何があったのか?」
体格も大きく、大盾を持ったアレックスが尋ねてくる。
「アイツは酷い奴だったよ、乱心して仲間に斬りかかって……精神的に参っていたのかもしれない。だからパーティーから外したんだ。
四人から五人に増やしたのは、今後の活動の幅を増やすためさ」
“それらしい”ヴァインの返答に、アレックスは納得した。
……ラースが私達に斬りかかったのは本当のことだが、それには止むに止まれぬ事情もあった。
五人に増やした理由が活動範囲というのは、彼の方弁だろう。ヴァインは昔から頭が切れる。
頭が切れるからこそ、ラースの穴を埋めるためには二人の人員が必要だと理解していたのだ。
「何よクレア、そんな暗い顔して」
ヴァインがアレックス、シェーラに今後の方針を話す最中、私の浮かない表情を見たアンが囁くような小さな声で話しかけてくる。
私が王都を出ることになったのは、彼女に誘われたからであった。
ヴァインとアンは貴族の出で、ラースは国を守護する騎士の家系。
ヴァインとアンは元々貴族の集まる舞踏会などでの交流があったようで、ラースは彼の父がヴァインの剣の指南をしていたらしく、そういった繋がりで仲を深めたとか。
アンは幼い頃から家の方針で厳しい教育のもとにあったが、よく抜け出しては私の実家の教会近くにある公園に遊びにきていた。
私はそこでアンに出会い、そして二人にも出会った。
初めは四人仲良く旅をし、冒険者として順風満帆な日々を送っていた。
だけど、やがて差が出来始めたのだ。ヴァインとラースの間に、実力の差が。
斥候として先頭を歩くラースは次々と魔物を斬り伏せ、討ち漏らした者をヴァインとアンが仕留めるといった戦術がはまり、それを続けている間にラースはずば抜けて強くなってしまった。
決定的に力の差が顕著になったのは、嫉妬という感情を持ち始めたヴァインが気まぐれでラースにそう長くもない普通の鉄の剣を持たせた時だろう。
失態を晒せばいい、そう思ったのかは知らないが、ラースの無双は武器を選ばなかった。
彼が〈鉄壁要塞〉と呼ばれるのは一人で複数の敵を相手出来るから。
ヴァインの剣技やアンの魔法の方が派手さはあるが、それが活きるのは彼の活躍あってこそだった。
「……私は初めて、アンを恨めしく思っています」
「なっ、なによ。今になっては悪かったとは思ってるわよ、癇癪起こしちゃって。殺されそうになったとはいえ、アイツのおかげで生きてるんだし」
ラースがパーティーを追い出されることになったのは、アンの怒りを買ったことも原因の一つだ。
ギフトだけを見ればラースよりヴァインの方が数も多く、魔法も使える分恵まれたように見える。
だけど彼には無く、ラースが授かったギフトがある。
〈バーサーク〉。
任意で発動させることが出来るギフトをスキルと呼ぶが、これがそう。
使用者の力を爆発的に向上させる代わりに暴走させる諸刃のスキルだった。
一度目の使用時には私達も避難したので事なきを得たが、つい先日のこと。
パーティーの危機に二度目の〈バーサーク〉を発動させたラースは魔物を屠った後、私達を標的として襲いかかってきた。
主なターゲットにされたのが逃げ遅れたアンで、危うく殺されるところだった。
最後にはラースが何とか自我を取り戻して事なきを得たがアンが激怒し、それにヴァインが乗っかった形で追放という話が持ち上がってしまった。
たしかにラースの行いは良きものだとは言えなかったが、〈バーサーク〉を発動させなければパーティーの全滅は免れなかっただろう。
どうせ死ぬ命だったのを、救われた形なのだ。
魔物に追い詰められたのはパーティー全体の落ち度だし、それなのに追放というのは、恩を仇で返すような行為である。
「ま、まぁアイツも立ち直ったみたいだし良いでしょ。実際、活動範囲を更に広げるって意味では頭数は必要だったし、判断が間違っていたか否かはこれからによるわよ。
…………それでもアイツが居なくなったのは確かに損失だけど」
苦し紛れの言い訳の後に、微かに聞こえるか聞こえないかといった声で呟くアン。
なんであれ、私は新しいパーティーを組んだらしいラースに対して健闘を祈る事しかできない。
どうか、神の御加護があらんことを。