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武器選び

「そんなことはともかく、私の武器」


 俺の悩みはそんなことで片付けられ、れっつごーと先導するエルゥ。

 未だにしゃがみ込むシトラも、もう仲間だ。連れていかねばならないのでポンと肩を叩く。


「はわわわわっ! 申し訳ありません!」


 一体何が申し訳ないというのか。

 飛び跳ねる様を見て、がくんと項垂れる。

 立ち上がってもあたふたとするシトラだが、(らち)があかない。俺は彼女の手を取るが、


「あわぁあああああ!!! いけませんいけません! 汗まみれの私の手は汚いのです!」


 すぐに切られてしまう。

 たしかにシトラの手は滴る液体が見て分かるほどだが、俺は革の手袋をはめているのだから気にならないし、そもそもオーバーリアクションが過ぎるだろう。


「はぁ」


 どこからともなくやってきた疲労感に嘆息する。

 魔物と対峙した時にパニックを起こして使い物にならないという未来が脳裏に浮かんでしまう。冒険者としての技術は教えられるが、根本的な精神性のものは……果たして鍛えることができるのだろうか。

 不安がる俺の気持ちを察したのか、エルゥに優しく肩を叩かれる。


「心配ない、この私が選んだ人材」


 自信満々に言い張るが、そもそもエルゥ自体も不安材料の一つなのである。

 とはいえ数々の冒険者を見てきたその眼力は信用にあたる。俺は渋々ながら説得されると、ひとまずシトラを落ち着ける方向に定める。


「シトラ」


 未だあたふたしているシトラの両肩をガッと掴み、しっかりと碧の双眸を見据える。

「はひっ!」と情けない声を上げつつも俺の話に耳を貸す気はあるようで、覚悟を決めたのか歯を食いしばっている。

 改めて間近で眺めると美の魔力が凄まじい。宝石のごとく綺麗な瞳に吸い込まれそうな感覚に陥るが、彼女に説かねばならないのだという自制心で正気を保つ。


「俺は新人の育成という意味合いでこのパーティーに居るが、同じパーティー内で上や下という見方をするのは好きじゃない。

 相手が誰であろうと思った事は言うべきだし、遠慮してはならないと思っている。

 これから俺達は食事を、歩みを、死線を共にする“仲間”なんだよ。

 そこのちびっ子ぐらいとは言わないけど、ある程度堂々としてくれなきゃこっちまで不安になるだろう」


「誰がちびっ子だ、誰が」


 エルゥにびしっ、と可愛らしい裏拳で背中を叩かれるが、気にしない。


「……」


 シトラは俺の話を聞き、少し俯きがちになる。

 しかしすぐに顔を上げると、きりっとした表情を見せて。


「わかりましたわ!」


 鼓膜を破りそうな程の大声で返事をした。

 俺は顔を後方に逸らし、顔に飛んできた大量の唾を革手袋の甲で拭うと、「行こうか」と促した。

 ……我の強いヴァイン、ワガママなアン、全く自分の意見を話さないクレアと難儀なパーティーで過ごしてきた俺としては、仲間は図々しいぐらいでちょうどいいのだ。


 誰がちびっ子だ誰が! といまだ引きずっているエルゥを先頭に、俺達は武器屋へと踏み入れる。


「いらっしゃい……おや、エルゥ嬢じゃないか」


 武器屋に入った俺達を出迎えたのはこの街で一番の鍛冶屋であるドリアン・ゲデルの妻であるホリィさんだった。

 ふくよかなおばちゃんで、いつも元気な人だ。


 俺は普段フレストリアを担いでいたが、場合によっては並の長さの剣も使ったりしたし、上位の魔物と戦うとどうしてもメイン火力のヴァインの剣の消耗が激しかった。

 だからこの店には何度かお世話になっている。


「時が来た」


 エルゥの言葉はあまりにも足りないように見えたが、ホリィさんは察したように笑みを浮かべた。

「あいよ」と返事をすると、奥の方へと引っ込んでいく。


「もしかして冒険者になる時の為に武器を発注していたのか?」


「その通り、スーパールーキーの私の武器は世界に一振りであるべき。ドリアン氏曰く、渾身の出来らしい」


 えっへん、とぺたんこな胸を張って誇らしげに言うエルゥ。

 あのドリアン・ゲデルにオーダーメイドの武器を打って貰うということがどれだけ名誉なことか、この子は分かっているのだろうか。

 ドリアンさんはこの街では一番で、国単位で見ても三つの指に入るほどであろう鍛冶屋だ。

 特別受注は滅多に受け付けない筈だが……コネなのか、エルゥの持ち前の押しの強さなのか。


 なんにせよドリアンさんが直接打って、更に出来も良いと自負するレベルであれば相当な業物なのだろう。

 俺は童心に帰ったような期待を胸に、ホリィさんが帰ってくるのを待つ。


「遅いな」


 数分経つが、中々奥から出てくる気配がない。


「待たせたね」


 それからまた時間が経ち、ようやくホリィさんが戻ってくる。

 その手には武器は握られておらず、頭の中に疑問符が浮かぶ。


「ったく、俺に持たせやがって」


 ホリィさんが横にずれると、エルゥの武器らしき物を持った中年が出てくる。

 鋭い目付きに、鍛え上げられた筋肉。ドリアン・ゲデルだ。


「……凄いです」


 “それ”を見たシトラから漏れた声は、率直な感想だろう。

 かくいう俺も同意見だった。遅かった理由はおそらく、ホリィさんでは“それ”を持つことが出来なかったのだろうと推測する。


「コイツの名は〈プロミネンス〉だ。お天道様みてえな見た目と、嬢ちゃんの小さな身体から漏れ出す強い闘志と力をイメージして名付けた」


 〈プロミネンス〉と呼ばれるそれを床に置いたドリアンさんは、紹介をする。


「しかしエルゥ、持てるのか?」


 俺の疑問はおそらく初見の者であれば皆が持つものだろう。

 黒いボディに、紅く光る先端の突起。

 柄も合わせるとエルゥの胸元まである長さの巨大な──鎚だ。


 黒いハンマーの片面は平たくなっているが、逆サイドは鋭利に尖っている。

 一際異質なのは紅色の先端部分だろう。ボディとは違う素材で、本体の中から突き出るようにして一体化している。


 おそらく〈マグナース鉱石〉と呼ばれる鉱石だろうか。

 火山系のダンジョンなどで取れる鉱石だが、強い熱気の渦巻く場所にしか埋まっておらず、入手が困難なものだ。


 硬度は確かだし、威力は十二分と言える。

 ただ、それは振ることが出来ればの話である。

 筋骨隆々のドリアンさんでも重そうに持ってきた代物だし、小柄のエルゥにはやや厳しいように思える。


 そんな俺の懸念を嘲笑うかのようにエルゥは〈プロミネンス〉の側に歩み寄ると、太さのある柄を両手で握り締めると。


「私は〈剛力〉や〈武具適性〉のギフトを持っている」


 悠々と持ち上げ、天へと掲げた。

 ギフトというのは天から与えられた資質のことだが、どのようにして確認するのかというと……なんと直接神に尋ねるのである。

 テザリーン。そう名乗る神様が自らの写し身を世界各地に設置しており、自分のギフトは何だと尋ねると教えてくれるのだ。


 話だけを聞けば眉唾ものだが、テザリーンは文献によれば少なくとも数千年前から存在が確認されている。

 歴史もあってか、正式に神として認知されている。告げられたギフトが虚偽だったということも聞かないし、本当に神様なのだろうと人々は認知しているのだ。


 ただ、ギフトにはレベルがあったり、後天的に発現したりというイレギュラーもある。

 レベルはそれに適したこと……例えばエルゥの持つ〈剛力〉なら力を使っていれば向上し、効力も増す。

 後天的に発現するギフトの実態はあまり解明されていない。

 何か条件を満たせば適したギフトを手に入れることが出来るようだが、それに関してはテザリーンが一切の黙秘を貫いているので謎も多い。


 ちなみに武具適性は持っているだけであらゆる武具を扱うことができるレアスキルだ。

 修練を積まなくても、武器を持てばその使い方を本能が知らせてくれるらしい。

 理屈は分からないが、ぶっちゃけズルいと思う。

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