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パーティー結成

 エルゥに指定された場所にやってきた俺は、柄にもなく緊張していた。

 待ち合わせはギルドでもなくダンジョンでもなく、武器屋の前。

 鍛冶屋イコール武器屋、防具屋となるケースもあるが大抵は別個としてある。


 ただ、卸しているのではなく大体が身内が経営していたりする。

 職人は気難しい者も多いので、商売に関しては別のものに任せる形態を取っているということだ。

 工場に武器防具を置くと邪魔になるというのもあるし。


「ラース」


 ぼうっと武器屋を眺めていた俺だったが、エルゥの声で我に帰る。

 声のした方向を向くと、いつも着ている可愛らしいメイド服のような格好でエルゥがとことこと近づいてくる。

 隣には俺と同じ二十歳前後ぐらいの、背の高い銀髪の女の子を連れている。彼女こそ俺が育成を担当する新人なのだろう。


「……?」


 俺はとある違和感に気が付く。

 エルゥの服装がいつもと少し違う。受付嬢は納品を取り扱ったりするのでいつも何かしら手袋をつけているが、今日は手袋というか鉄の甲を装着していた。

 靴も女の子らしいものではなく、膝下まで伸びた鉄のレギンスを履いている。

 それはまるで、冒険に向かう格好のようで。


「彼女は新人冒険者のシトラ」


「よっ、よろしくおねがっ……しましゅ!」


 新人冒険者のシトラは俺の緊張を吹き飛ばすほどの上がり様で、噛みっ噛みの挨拶をかましてくる。


「あぁ、よろしく」


 それを受けて俺の緊張も適度にほぐれ、笑いを堪えながら手を差し出した。

 見た感じ、アーチャーだろうか。太ももがあらわになった、やや目のやり場に困るというかよく言えば身軽な格好をしており、背中には矢筒と弓を背負っている。


 整った顔立ちにすらりと伸びた脚、発育のいい胸……はともかく、尖った耳に透き通るような白い肌。

 彼女はエルフという種族だ。エルフは純数な人ではなく亜人という分野に分けられるが、獣人などとは違い差別は少ない。


 容姿は綺麗だし、姿形が人間に近いからであろうか。

 何にせよ、身なりが違うだけで差別する者や土地があるというのは嘆かわしいことではあるが。


「あっ、あの〈鉄壁要塞〉と名高いラースさんとの握手…………あぁっ、ダメです! 私には緊張して握れません! 申し訳ございませんわ!」


 手を伸ばし握手する寸前のこと、シトラは大声を上げながら身体を翻し、しゃがみ込んでしまう。

 何が彼女をそれほど緊張させるのかは知らないが、非常に変わった子であるということは理解した。

 初対面がこれだと、先行きが不安である。俺はどうにか間を取り持ってくれないかとエルゥへと縋るような視線を向ける。


「そして私が超超、超期待のスーパーウルトラギガンティックルーキー、エルゥ・グランダーソン。よろしく」


 ふんすっ、と鼻息荒くどこか誇らしげに自分を紹介しつつ、手を差し出してくる……自称大型新人のエルゥ。


「………………………………ちょ、ちょっと待て!」


 あまりにも衝撃的な出来事に俺の思考は停止してしまったが、やがてラグを乗り越えて訪れた事実に声を荒げた。


「エルゥ、冒険者になるつもりなのか!? 親父さんが許すわけないだろ!」


 エルゥの父、バリス・グランダーソン。

 かつてはSランクのパーティーに所属した大物冒険者で、今はこの街のギルド〈EL(イーエル)〉のマスターを勤めている。

 ちなみにELはエルゥ・ラブとエルゥの名をかけ合わせた、親バカを拗らせに拗らせたダブル・ミーニングだ。


 ギルドに自分の娘に関連した名前をつける親バカっぷりから分かる通り、バリスさんはエルゥを溺愛している。

 危険と隣り合わせの冒険になど向かわせるなんて、許すはずがない。


「来る時がくれば私は冒険者になると、昔からパパには言ってある。泣いていたけど、ママと力を合わせて説得した」


 Sランク冒険者も娘や嫁には勝てないという事実。しかし、強面で威厳のある彼が涙する姿は想像し難い。

 俺は重い案件を受けたものだと後悔の溜息を吐き出し、エルゥを見つめる。


 道理でおかしいと思った。シトラは既に武器を背負っているし、それでいて武器屋の前で待ち合わせるだなんて意味がない。

 武器屋の前で待ち合わせたのは、おそらく彼女の武器を買うためなのだろう。

 小柄なエルゥには何を持たせるべきなのか。ギフトにもよるかもしれないが……一つ一つの選択があまりにも重責である。


「さっき改めて尋ねたけど、ラースなら任せても良いと言っていた」


 それを聞いて驚く。

 俺のいい噂は出回っていないだろうし、バリスさんは何を意図して娘を送り出したのか。

 元々の出身である王都を出て国内を転々とし、行き着いたこの街〈サージェスト〉。

 かれこれ二年ほど拠点として住んでいるが、その間に信頼を得ることができていたのだろうか。

 とすれば嬉しいことこの上ないが。


「ただし怪我をさせたら殺すとも」


 天国から地獄とはこのことである。再び重くのし掛かるプレッシャーに、噴き出す汗。

「緊張しますわ!」と震えるエルフに、「私は超優秀だから大丈夫」と謎の自信に満ち溢れた少女。

 加えて、滝汗男。異質な三人のパーティーの行く末は一体。

 ……あまりにも不安な先行きに、流れる汗は更に加速した。

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