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第6話 ゲット「10匹の羊」

ノルンが狩りイベントのMVPになったことで、僕とリオンの掛けは僕の勝ちが確定した。

新参者の僕に賭けた村人は、掛け金の5倍配当になった様でうれしそうに報告に来た。


「おっさんのおかげで大儲けできたぞ。ほら、酒を持ってきたぞ。オレたちのお礼だ」


僕の周りには賭けに勝った連中が集まって酒を飲んでいる。

もちろん、つまみは今日の狩りで得た肉を焼いた物だ。


「ほら、一杯飲めよ」


さっきから、盃が空になる前に酒が注がれてしまうので、いくら飲んでもきりがない。

それほど飲めるほうでもない僕は、もう真っ赤になってしまっている。


「今日はありがとう。おじさんのおかげでMVPを獲れました」

「いや、僕だけじゃないでしょう? ノルンの弓が元々よかったのと、腕もよかったし」


まだ15歳のノルンはMVPになれると考えたこともないらしく、いつもは大物狙いはしていなかったらしい。

狐やウサギなど、小物の獲物は毎回獲るらしく、腕が悪い訳じゃなさそうだ。


今回は僕が強化した弓があるから、賭けに勝つためにも大物を狙ったらしい。

それも誰よりも早くね。


「今回はボクの負けだ!」


リオンがやってきた。正式に負け表明をしに。


「生意気なことを言ってごめんなさい。おっさんが強化した弓はすごいな!」


いきなり素直になられると調子が崩れるな。

生意気ざかりなんだから、もっと生意気言ってもいいんじゃないか?


「それで、負けたボクは何をしたらいいの?」


そういえば、僕が負けた時は他の村人と一緒に農作業をすると決まっていたが、勝った時の条件はなかったな。

うーん、何を要求しようかな。


よし、これがいい。


「では、負けた罰としてリオンの弓と矢を寄越すように」

「ええっ。ちょっと待ってよ。弓はまたつくればいいけど、矢の鏃は父さんに買ってもらったものだからダメだよ」

「あなたは勝負に負けんです。ごちゃごちゃ言わずに寄越しなさい」

「ちぇっ」


諦めて、持っていた弓と矢筒を差し出してきた。

うん、素直でいいね。


「そうだな、今から1時間後にまた来てください」

「えっ、なんで?」

「それくらいで弓と矢の強化が終わるからです。これからは狩りをするときは、必ず、僕が強化した弓矢を使うこと。それが負けた罰です」


ちょっと混乱しているリオン。

面白いな、目を白黒させている。


「それって、もしかして。ボクの弓矢も強化してくれるってこと?」

「そうです。その弓矢以外を仕使用するのを禁止します」

「やった!」


とても嬉しそうにガッツポーズをしている。

まぁ、村から見たら新参者の僕だし。

リオンと一緒で特別待遇されているのを本心では良く思っていない村人もいるだろう。


関わりがあった人に嫌われない様にする。

それが街での処世術だった。

きっと辺境の開拓村でも一緒だろう。


「さて。ちょっと酒が入っているけど、弓矢を強化してしまいましょう」


これ以上、酒を飲まされるより弓矢を強化していたほうが楽だ。

まぁ、こんな性格しているから、仕事中毒になってしまった気がするけどね。


☆  ☆  ☆


翌日は狩りに参加した男衆の弓矢の強化で終わってしまった。


剣にくらべて強化箇所が多いから、時間が掛かってしまう。

1日かけてできるのは30人ぶん。ざっと1/3だな。


まぁ、狩人をしている人の分は午前中に終わっているから、残りは焦らずにやっていこう。

どうせ使うのは1カ月後の狩りイベントだろうし。


気楽に弓矢の強化をしていたら、少年達のさわいでいる声がする。


「あっちらしいぞ」


その声はリオンだな。そういえば、今日は畑仕事ではなく村の警備だと言っていたな。

大人の男がすべて畑にいくと村の警備が手薄になるから、10人ほどは村に残る。


警備と言っても何も起きないことが多いから、半分休みのようなものだ。


「何があったんだろう」


強化の作業を中断して、様子見にいくことにする。


せっかく辺境の開拓村に来たんだから、仕事より好奇心を優先することにしているんだ。

うん、スローライフだからこそ、できることだね。


「どうしたんです?」

「あ、2割おっちゃん。羊だよ、羊」


リオンの指さす方をみると確かに羊がいる。

それも10匹くらいか?


「あれは野性の羊なんですか?」

「そんな訳ないじゃん」


このあたりで野性の羊がいることはないらしい。

羊は酪農動物で財産でもあるから厳重に管理されている。


「じゃ、どこかの牧場から逃げてきたんですかね」

「そうかもね」


とにかく羊を捕まえようと村にいる人達が総出で羊捕獲が始まった。

残っていた男衆と女性連中も一緒になって20人ほどで囲って村の方へと誘導する。


「ほら、そこ、逃げられるぞ」


羊ってのんびりしているように見えて、走り出すとなかなか速い。

村人の間を見つけて走り抜ける。


「うわっ、逃げられた!」


もっとも、村人が多いから鬼ごっこをしているようなものだ。

さのうち10匹とも村の囲いの中に入れられた。


「この羊、どうするんです?」

「もちろん、食べるしかないだろう。うまいんだぞ、羊肉って!」


いいんだろうか。牧場を逃げだした羊を勝手に食べてしまっても?

どうなんだろう? 辺境のルールはよく分からないからな。


そんなことを考えていると、遠くから声がした。


「あのー、羊、見なかった?」


おっと、ずいぶんとカワイイ美少女がやったきた。

大きなコートを着て、木の杖を持った羊飼いの恰好をしている。

綺麗な金色のショートカットの髪、蒼い瞳の12歳くらいの美少女。


だけど、ひとつだけただの美少女じゃないことを示している物。

それが髪がぴょこんと出ている三角の耳だ。


獣人の印だ。

この大陸では獣人は沢山すんでいるらしいが街では見たことがない。


街には住まずに自然と共に生きていると聞く。

辺境まで来れば獣人と出会うのも珍しくないのかもと思う。


しかし、美少女の三角耳が気になる。もふもふしているぞ。


開拓村に迷い込んだ10匹の羊は獣人の羊飼いの羊なのだろう。

ちゃんと返してあげないとね。


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