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第5話 オーダー「弓矢の多所強化」

「なんで、こいつだけ特別扱いなんだよ」


僕は15歳という半分くらいの男の子になじられている。

成人しているとはいえ、背が低く童顔の彼は男というより男の子って感じだ。


「だから言ったろう。彼は特別なスキルがあるんだ」

「スキルくらい持っている男は一杯いるじゃないか。どうして、こいつだけ農作業しなくていいんだよ」


少年よ、そこ違うぞ。

農作業しなくていいんじゃなくて、大して役立たないってことなんだ。

情けないけどさ。


「彼には農作業より大切なことをしてもらっているんだ」

「そんなの農作業の合間にさせたらいいんじゃないかっ」


この開拓村では、男は10歳になると農作業を始める。

狩人のスキルがあっても、狩りだけやっていればいいのではなく農作業も行う。


農作業は村の男達すべてが参加する共同作業だ。

それは村長も例外ではない。


この村で生まれ育った少年にとっては、それは絶対的な掟だと信じていた。

実際は村ごとに違う、習慣でしかないことだったが。


「もし、お前がすごい男だったら、特別扱いも認めてやる」

「あ、それなら何か強化してみせましょうか」

「そんなの知らん! 男なら剣で勝負だろう」


おいおい、そんな野蛮な。僕は冒険者じゃないだって。

剣の強化競争なら負ける気はないけどね。


「あ、そうだ。明日の狩りがいい! 大物を仕留めた方が勝ちだ」

「えっ、狩りをするんですか?」

「明日は満月だろう。月に1回の狩り日だよ」


この開拓村では満月になる日は、村の男総出で狩りをする。そんな習慣がある。

貴重な肉や毛皮等を得るという理由もあるが、誰が一番の大物を獲るか、そんなゲーム的要素もあるらしい。


「それいいですね」

「おっ、やるか? 言っとくけど、オレは若手の中じゃ弓は一番だぞ」

「それなら、若手の中で。。。そうだなぁ…三番手って彼でしょう?」

「三番手はあいつだ!」


ひょろっとした感じの男を差す。18歳くらいかな。


「じゃあ、彼と組んで若手の一番を目指そう」

「はぁ? いいか、一番かどうかは数じゃないぞ。大物を仕留めた奴が一番だ」


うん、そのルールでいいだろう。

僕は別に狩りに直接参加する訳じゃない。弓矢を強化するだけ。

強化した弓矢で彼が大物を仕留めたら僕の勝ちってルール。


「うーん、なんか情けない参加の仕方だな。しかし、いいだろう。それでお前が負けたら、ちゃんと農作業するんだぞ」


いいんだろうか、こんな勝手な勝負をして。

ちょっと気になったから、村長さんの方をみた。

そしたら、他の村民と話していた。


「よし、おっさんに賭ける人はいないか? いまだと4倍だよ。当たれば大きいよ」

「おれは、リオンに大銅貨1枚だ」


あれ、いつの間にか村長さんは賭けの元締めになってしまっている。

要は勝負は歓迎ということか。


「よし、一緒にリオンを越える大物を仕留めよう」

「無理だよ。リオンって年下で小さいけど力があるし、弓もうまいんだ」

「だったら、一回くらい勝たないと」


もう勝負は確定したから、本気で彼、ノルンの弓矢を強化しないとな。

僕はノルンと一緒に弓矢の強化を始めた。


ノルンの弓矢は手作りだけど、なかなかしっかりとしている。

開拓村では弓矢は買う物ではなく、自分で作るものらしい。


「ボクの弓と矢はどうかな?」


僕ができる強化は2割だけ。それで勝負に勝てるかというと微妙だな。

だけど、ひとつアイデアを持っている。


それが多所強化だ。


剣の場合、強化ポイントが鋭利さしかなかった。刃を鋭利にして与えるダメージを増やすだけだ。

弓矢だと強化ポイントはいくつかある。


まずは弓の本体。より強くすることで飛距離を伸ばせそうだ。


次に弓の弦。これの精度を上げれば命中率を増すことができる。


そして矢の鏃。これを鋭利にすれば、深く獲物に刺さるだろう。


この三点を強化すれば、飛距離、命中率、与えるダメージ、それぞれが2割増しになる。

それだけあれば、ノルンがリオンに勝つかもしれない。


もっとも、勝負は時の運。後は本人の勝つ意志だな。


「よし、弓矢を強化できましたぞ」

「いくらいい弓矢を持ってもリオンには勝てないよ」


うーむ、ノルンには勝つ意欲がないな。

これでは、いい弓矢も生きないな。


「まぁ、勝つかどうかはおいておいて。この弓矢を試してみましょう」

「もちろん、それはやってみるけどね」


的を大きな木に取り付ける。


「どのあたりだと当たると思う?」

「これくらいかな」


びゅん。

おっ、いい音がするな。

ノルンが放った矢はまっすぐに飛んで的のど真ん中を射抜いた。


「すごいな」

「うわぁ、当たった!!」


的を二人で調べると、的は貫通して後ろの木に刺さっている。

これで本当に2割増しなのか?


「きっと、もう少し後ろでも当たると思いますよ」

「やってみる!」


丁寧に矢を抜くと、先ほどの位置より2割ほど距離を増やした位置に立つ。

狙い定めて、矢を放つ。


びゅん。

またいい音がして的に命中する。


こんどは中心から少しずれている。的を貫通するまでは行っていないが、鏃の先は的の裏から出ている。


「飛距離が2割増しで、命中率が2割増し。威力も2割増しってとこですか」

「うん、そのくらい。でも、すごいよ。こんなすごい弓矢は見たことない」


聞いてみると、ノルンの弓矢は村の中でもトップクラスに良い出来らしい。

それなら、他の人の分も作ってあげたらと思うけど、この村では自分の弓矢は自分で作るのが習わしのようだ。


「どうですか? この弓矢だったら、リオンに勝てますか?」

「うん! 絶対に勝ってやる!! そうしないと強化してくれたヒューゴさんに申し訳ない!!!」


うん、いい感じだな。

勝負に対する意欲は2割増しどころじゃなくて何倍にもなっているみたいだ。


☆  ☆  ☆


翌日は村の男衆が総出で狩りをするイベント日だ。

娯楽と言っても、ほとんどない開拓村では、月に一度の狩りイベントはとても楽しみにされている。


若い衆とおっさん衆とが、代わりばんこに、追い役と仕留め役を勤める。

今回の狩りでは若い衆が仕留め役だ。


狩場は大きな森のはずれで、追い役は森に入って獲物を音を立てて仕留め役がいる方に追い立てる。

森から飛び出した獲物を仕留めて、その日の一番大きな獲物を仕留めた男がMVPとして表彰される。


表彰は女性や子供達も参加するパーティで行われる。

この日だけは、肉を焼いて食べるという贅沢も許されている。


だから、男衆は誰が一番大きな獲物を仕留めるために必死になる。


「あまり運が影響しないように、リオンとノルンは隣同士だぞ」


場所を決めるのは、村長の役割だ。

仕留め役は一直線に並んで獲物が追い出されてくるのを待つ。


追い役は仕留め役の並んでいる真ん中に向かって追い立てる。

仕留め役の列の真ん中が一番チャンスがある。


今回は村人すべてが、リオンと僕の賭けのことを知っている。

イベントのひとつとして見られているから、村長さんはリオンとノルンが一番いい場所に配置している。


「まだ、ですかね」

「そろそろ、来るよ。ほら、追い役たちの鳴らす木太鼓の音が聞こえるよね?」


確かに、遠くで音がしていてだんだんと近づいてくる。

どんな獲物が飛び出してくるか。楽しみだな。


僕は邪魔をしてはいけないとノルンの横から少し下がったところで見学だ。

まだ狩りに参加できない男の子供たちと一緒にね。


「きたぞー」


その声を合図に、森から獲物が飛び足してくる。

ウサギに狐、おっと鹿がいるじゃないか!


獲物に鹿がいるのは珍しいらしく、仕留め役の誰もが鹿を狙っている。


「まだだ。無駄打ちするなよ」


審判役も兼ねる村長さんがはやる気持ちの若い衆を押しとどめる。

しっかりと近づくの待たないと無駄打ちになるんだ。


「いけーーー」


最初に矢を放ったのは、ノルンだった。


「バカ、まだ早い!」


村長さんが声を荒げる。

しかし、ノルンの矢は力強い音で飛んでいき、鹿の首の付け根に当たった!


「よし!」


思わず僕は声を出した。


致命傷ではないかもしれないが、鹿は足をもつれさせて倒れた。

そこに矢が何本も飛んできて刺さる。

他の獲物もそれそれ矢が放たれて倒されていく。


「やったよ、ヒューゴさん」

「ああ、見事でした」


最初の追い出しでは、ノルンの勝利だな。

まだ、狩りは続くからもっとデカい獲物が出るかもしれないが。


その後も狩りは続いて、今回の狩りイベントは大成功になった。

そして、一番でかい獲物は最初の鹿で、一番矢を打ったノルンがMVPになった。


弓の強化は剣より効果が高いらしく、主人公はまた役立つ男になったぞ。


役立つっていいことだよね。で、↓で☆を押してもらえると、とっても役立つんだけど…ダメかなぁ?

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