第4話 オーダー「村の鍬を全て」
「ふぁー、いたた」
「どうした?」
「いや、筋肉痛らしいんですよ」
開拓村の最初の夜は、大部屋で過ごした。独身男が集まるこの大部屋は8人が暮らしている。
もっとも、30歳の僕以外は皆10代後半だろう。
開拓村では男は20歳より前に結婚するが普通で、結婚するとこの部屋から出ていくことになる。
「さて、今日はどうするかな」
大部屋の男達は決まった仕事を持っているらしく朝になると出て行った。
昨日は様子見で開拓の仕事を仰せつかったが、今日はまだ決まっていない。
まずは村長のとこに行って、仕事をもらわなければな。
「おー、来たか。ヒューゴ」
「はい。寝るところと食事ありがとうございました」
宿屋がある訳でもないので、寝るところは村長にお願いして用意してもらった。
辺境の開拓村なので、シンプルな物だったが、元々仕事場でごろ寝があたり前だったから十分だ。
「いや、いいんだ。それよりも荷車の強化、助かったぞ。相当ガタがきていたが修理しようにも技術者がいないからな」
それまでは街に運んで修理してもらうしかなかった。
剣くらいになると持ち主が整備ができるのが普通だが、それ以外の道具は整備が追い付かない状態だ。
いろんな人が足りていないが、特に各種専門家が足りない。
「それでちょっと聞きたいのだが。農具とかの整備、強化はできるのかな?」
「やったことはありませんが。できるんじゃないかと」
「それはいい! ちょっと見て欲しいんだが」
村の入り口にある大きめの小屋に連れていかれた。
そこは農具置き場らしく、大小さまざまな農具が置かれている。
「これらを強化してもらうことはできないだろうか?」
「いいですよ。時間は掛かるかもしれません」
「すぐに、とは言わないさ。これだけあるんだからね」
どのくらいあるのかは、一度外に出して数えてみないと分からないが、鍬だけを見ても100本くらいある。
この村は住人が300人ほどいるらしいから、全員分の農具だろう。
「ただ、料金を払うにしても秋の収穫まで待ってもらえないだろうか」
「いや、住むところと食事を提供してもらっているからそれを料金としてみなしましょう」
「ええっ、本当か! それだけでいいのか?」
「あ、できたら洗濯とかもして欲しいかな」
「もちろんだ。生活に必要な物や人手は用意しよう。住むところも新しく作るとしよう」
あ、なんだか、急に対応がよくなったぞ。
そんなに価値があるのかな、農具の強化に。
「まぁ、やってみましょう。ただ、農具強化は初めてですから、どのくらい上手くできるか分かりませんが」
「それはやってみてもらえば分かるだろう」
「そうですね」
村長さんの依頼でまずは鉄製の鍬から強化をすることになった。
鍬と言えば鉄製だろうと思ったのだが、木製の物もあるらしい。
鉄製の鍬だと値段が高いから全員分はまだ手に入っていないのだ。
僕は倉庫の中から鉄製の鍬を運び出した。全部で32本あった。
鉄の部分は綺麗に汚れは落とされ油が塗られていている。農作業が終わった後、ちゃんと整備して大切にしているのが分かる。
しかし、ずいぶんと古い物のようであちこちガタが来ている。
「これを補修、強化すればいいんだな」
鍬を解析して内部構造を理解する。比較的新しい鍬を解析すれば本来の姿が分かる。
多くの鍬に、あちこち壊れかけて応急処置をした跡があったりする。
「まずは応急処置の跡を取り外すとしよう」
余計な物があると強化の邪魔になるからね。
「では、強化魔法をかけるとするか」
両手で鍬に触れて魔力を流し込む。あるべき姿をイメージすることで魔力が内部構造を変えていく。
まずは補修が掛かり、刃先が鋭利になっていく。
「うん、思ったより簡単にできたな。剣よりずっと簡単だな」
できあがりの状態を知りたくて、村長さんを呼びに行く。
「もう、できたのか?」
「最初はテストで1本だけですが」
「もしかして、その鍬がそうなのか?」
僕が手にしている鍬をみて村長さんがびっくりしている。
いくら整備が良くても随分と使い古された鍬だったから、表面は黒さびが出ていた。
それが補修・強化したことで、ぴかぴかに輝いているのだ。
「ええ。綺麗になったでしょう」
「こんな綺麗な鍬をみたことがない」
「それは言い過ぎですよ。買ったときはこんな感じじゃありませんか?」
「いやいや。こんな辺境の村では新品の鍬など買えはしないよ。壊れかけの鍬を手に入れて、直し直し使っているのさ」
あー、そういうことね。だから、ほとんどの鍬がボロボロだったのか。
補修して強化しているから、新品の状態より2割は強化されているはずなんだけど。
それは使ってもらわないと分からないね。
「ちょっと、それを使ってみてもらいたいんですが」
「こんなに綺麗にしてもらって。すぐに使うのはもったいない気がするんだが」
「ただ新品みたいにしただけじゃなくて強化もしています。そのあたりを確認して欲しいんです」
「おお、そうだった」
村長さんは道の横にある土の部分に鍬を入れてみる。
ぐさっと気持ち良い音でしっかりと地面に刺さっている。
「おおーー、すごい。軽い力でやったのにこんなに深く入っているぞ」
「普段より深いんです?」
「他の鍬でやってみせよう」
倉庫の中から別の鍬を持ち出してきた。
さっきと同じように地面に鍬を振るう。
「どうだ? 全然違うのが分かるだろう」
「へえ。全然違いますね」
鍬の刃部分の2/3くらい刺さっている強化した鍬に比べて、元の鍬は1/3ほどだ。
一見すると倍くらいに見える。
「倍、ですか?」
「ああ。倍はありそうだ。もっとも新品の鍬だとこの間になると思うが」
あー、そうだろう。新品に比べて2割くらい強化されているはずだ。
だけど、ボロ鍬に比べると倍なのか。
「では、30本の鉄鍬を強化するのに何日くらいかかりそうか?」
「思ったより簡単みたいで、たぶん鉄鍬は半日もかからず終わります。木鍬も入れて鍬100本いけるかなと」
「本当か! それはすごい。せびやって欲しい」
「任せてください」
鉄剣よりも鉄鍬の方が楽というのは、間違いない。
きっと、剣に比べて鍬の方が最初に作るときも簡単なのだろう。
行程が多かったり、手間が掛かったりする物は強化するのもパワーがいるからな。
匠の作という剣を強化したことがあって、普通の剣の10倍も時間が掛かってしまった。
出来のよい剣だとそれだけ強化も大変なのだ。
鍬となると間違いなく剣の数分の1で強化できてしまう。
実際やってみたら、余裕で日が傾くまでに鍬100本を強化することができた。
強化スキル、なかなか便利なんです。
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