第22話 ミーティング「原因追及と言う名のつるし上げ」
「どうして親分。役人さんに告発してんです?」
「そんなの決まっているだろう? 御気に入りの女を取られたんだぞ。普通ならどうする?」
「えっ。取り返すとか、です?」
「だろう? あの役人の怒りの矛先がなんで村長の親父に行くんだ? おかしいだろう」
「でも……嘘をついたのは村長ですし」
「そんなの関係ないだろう。女を獲った男を恨まないでどうする?」
要は、親分がそうだった、ってことだな。
意外とソフィちゃんを気に入っていたみたいだし。
「で、これからどうするんです?」
「まぁ、街に出ればなんとかなるだろう。後は臨機応変にだな」
「はぁ」
うー、親分についてきたのは失敗だったかも。
村にいるときは、村人相手には好き勝手できる人だから便利だったけど、街だとどうなのか。
もし、ダメなようだったら、親分を捨てて村に帰るとするか。
「いいか。今は俺とお前のふたりだけだ。ここから、でかいことをするんだ。俺たちは一連托生だからな」
「ええ」
まぁ、場当たり的に応えておこう。
どうせ、親分は村には帰れないから、僕が逃げ帰っても追いかけてこれないしな。
「とにかく街だ。俺みたいな大きな男にはあの村は小さすぎたのさ。いつか街に出ることは考えていた。それが早まっただけだ」
「はぁ」
☆ ☆ ☆
「で、村長さんよぉ。どうしてくれるんだ?」
今は村の広場で村人を集めて集会をしている。
開拓村のこれからを決めるというテーマになっていたが、実際に起きたのは村長をつるし上げることだった。
「どうして、と言われても」
「役人を怒らせたのは、あんたの計画をやったからだろう。責任を感じてないのか?」
「それは…」
問題が起きたら、責任者をつるし上げる。
街でもよくあったことだが、開拓村ではもっと過激だ。
「だいたい、お前の息子、何を考えているんだ? どうして村が損することをしたんだ?」
「それが分からなくて。いくら探しても村にはいないし」
「村長! あんたの教育がなってないからじゃないのか?」
どこの世界にも、文句を言うのが好きな人っているんだな。
僕は街では文句を言われないように、完璧な仕事を目指していた。
それこそ、寝ないで納期を守ることもしてきた。
だけど、今は文句がでないことが良いことだと思っていない。
やるべきことと、ヤるべきじゃないこと、それをまず考えるようになった。
スローライフは、やるべきことを減らすことなしに実現しないしね。
「たしかに、村長さんの計画も息子さんの行動も問題があったかもしれませんね」
「なに偉そうに言っているんだ? 元はと言えば、お前のワガママが原因だろう」
そう。
僕のワガママだ……ただし、そのワガママは第一優先にしたワガママなのだ。
「分かりました。原因は僕と村長さんにあるとしましょう」
「ん? 責任を認めるのか?」
「ええ。僕のワガママを通すと決めた時、役人を怒らせることは想定していましたから」
「じゃあ、お前が責任を取ってくれよ。できるのか?」
「どう、責任を取れはいいんですか?」
「どうって。そのくらい自分で考えろよ」
うん、あなたは何も考えていないということで。
「村長さん。僕は役人が前に言った通り、協力しますよ」
「ああ、頼むぞ」
「おいおい。簡単に言ってくれちゃってさ。年貢が今年の3倍の2割マシだぞ。そんなのできる訳ないだろう?」
「できないと決めつけるはどうでしょうか」
村長さんを見ると、見返してくる。
どうも、村長さんに何か計画がある訳でもなさそうだ。
「ふざけるな。今年の3倍も4倍も収獲できるはずないだろう」
「えっ、そんなはいらないんじゃないですか?」
「役人がそう言ったんだよ。できなきゃ、誰か奴隷になってでも払うしかないんだよ」
「そうではなくて。収獲がある程度増えれば、大丈夫ですよ」
「どうして、そんなことが言えるんだ」
あ、分かってきたぞ。
この村人も村長さんも、年貢3倍の2割増しって、どういうことかよくわかっていないようだ。
算数の問題なんだけど、村人は算数の教育受けていないだろうしな。
村長さんはどうなんだろうか。
ただ、村長さんも村人と同じ表情だから、よくわかっていなさそうだ。
「えっと、去年が年貢が1割だったから、村に残るのは収獲の9割ですよね。麦がどのくらい残りました?」
「たしか、年貢分を引いて、50㎏袋で720袋だったはず」
「すると、収獲で800袋で年貢が80袋ですね」
「その通りだ」
もし、年貢の率が3割になって作付面積が2割増しと計算すると。
「来年は年貢が80袋の3倍で240袋。作付面積2割アップとして年貢も2割アップで、288袋です」
あ、村長さんも含めて目を白黒させている。
本当に算数が苦手な人達みたいだ。
「もし、今年と同じだけ720袋を村に残すためには、1008袋の収穫があればいいんです」
「へっ? それだと2割しか増えていないじゃないか。おかしいだろう」
「えっと、計算は正しいと思いますよ。もう一度確認してみますね」
「2割アップでいいなら、なんとかなるよな」
「だな。発芽率もあがっているし、何よりも南エリアが使えるのがでかいぞ」
あれ?
風向きが変わってきたぞ。
あ、もうひとつ、抜けていたことがあった。
「そうそう。発芽率が上がったので、来年の種籾で残す小麦の量は減らせますよね。今年の種籾が800袋の1/3で266袋。53袋減るから収獲は955袋でいい計算です」
「あー、ややこしい。要は2割くらい増えればいいってことだろう。それなら出来る! やってやるさ」
「素晴らしい! みんなで力を合わせれば大丈夫だぞ」
おー、村長さんも元気になってきた。
要は年貢が3倍で2割増しというとこだけ見ていて、実際の数字が把握できてなかっただけか。
すでに南エリアの畑づくりが始まっているし、発芽率が増えたってことは収穫量も2割増やすことができるかもしれない。
作付け面積があがり、単位面積当たりの収獲もあがれば相当増産できるはずだ。
「どうでしょう? 小麦の生産目標を立てませんか?」
「目標? なんだ、それは?」
「私も聞いたことないな」
あれ。目標も計画も西のハズレの開拓村に来ると、考えもしないらしい。
街ではなんでも目標、計画、改善だったからな。
もっとも、計画があっても、後から追加が出るからあんまり意味なかったけど。
「来年の夏、どれだけ小麦を収獲するかっていうのが目標です」
「そういうものが必要なのか?」
「ええ。村の人達が協力して小麦の収獲を増やす。そのために必要なんです」
まぁ、目標だけじゃダメだけどな。
そのあたりはおいおい話していくとしよう。
「で。村長。来年はどのくらい小麦の収穫をするつもりですか?」
「2倍だ! 街に出た元村人も呼び戻したいんだ。だから2倍はいる」
「おー。じゃあ、街で娼婦になってしまった俺の幼馴染も呼び戻せるのか?」
「ああ。仕事はあるぞ。なんと言っても南エリアは一番肥沃な土地だ。それもある程度開拓されてある。ゴブリンに占領させる前は素晴らしい畑だったんだからな」
おー、そういうことか。
ゴブリン襲撃で南エリアを失ったことが、そんなに村にとって大きな損失だったのか。
「あと、発芽率と収獲率も2割アップできます。もちろん、農具の強化も」
「それを考えたら2倍は難しくないはずだ。あのデブ役人をギャフンを言わせてやろう」
「そうだ、村長。あのデブに年貢をバッチリ納めて、驚かせてやろう」
「そうだ、そうだ」
おー、村長も村人も、やる気になったようだ。
僕は、がんばって、スローライフを実践していこう。
ソフィちゃんと一緒にね。




