第21話 イベント「殲滅戦」
ここは開拓村から北へ歩きで2日ほど行った高原の地。
今、13頭の馬に乗った狼獣人の隊が走っている。
「ルナ姫、あの大木が目的の場所ですぞ」
「姫と呼ぶな。今は隊長だ。うむ、間違いない。狐の旗が立ててある」
この高原には、数多くの獣人が放牧をして生活をしている。
草原のそれぞれのエリアには先祖代々、どの獣人が仕切るか決まってきた。
旗が立てられた大木は、本来、狼獣人達のエリアであり、隣のエリアの住人である狐獣人は立ち入り禁止となっていた。
ところが最近、狼獣人のエリアに狐の旗が立っており、挑発がされている。
その大木から300メートルほどのところで隊を止めた。
「やはり、やつらは戦いをしたいとみえますぜ」
「そうだな。そのために私達が派遣されたのだ。どうせ、近くに狐の奴らがいるはずだ。少し騒げば出てくるだろう」
「でしょうね。しかし、戦力的には敵の方が多いかもしれませんぜ」
私の隊、ルナ隊は騎兵が13名。よく訓練をした熟練兵ばかりだ。
その上、装備する短弓は3か所の強化がされた特別性。
強化に合わせて、戦いのフォーメーションの変更が完了し、同数の敵なら負ける気はしない。
「まずは強行偵察だな。計画通りのフォーメーションで行くぞ」
作戦の目的は狐の旗を折り、持ち帰ること。
旗を折られた隊の隊長は獣人の世界では、大きな恥になる。
それを阻止するために、陣を張っているはずだ。
「よし、私に続け!」
フォーメーションと言っても、今回のは単純だ。
隊長の私を守る小隊3人と、続く3つ小隊が攻撃を仕掛ける。
まぁ、力づくで旗を折りに行くということだ。
「「「おーーー」」」
馬で走り出すと、大木の向こうから馬が走ってきた。
ひと際大きい馬に乗った狐獣人が12の騎士を引き連れて現れた。
「そこにいるのは、狼氏族の姫だろう! 女が隊を率いるとは狼の連中はよっぽど、人が足りないと見える」
「私はこの隊の誰よりも短弓をうまく使う。最強の者が隊長になるのは当然だろう」
「ははは。聞いたか? あの12人は女より劣る奴ららしいぞ」
狐の奴らは大笑いをしている。
よし、力の違いを見せてやるとするか。
「御託はたくさんだ。騎士は言葉ではなく弓で会話するものだろう。こっちからいくぞ」
「無理すんなよ、お嬢ちゃん。さっさとおうちに帰りなさいな」
「ふざけるな。いくぞ!」
馬の腹を蹴り、敵に向かって走り出す。
後ろの連中も続いてくる。
副長が横に来て、話しかけてくる。
「隊長、攻撃のタイミングは計画通りで?」
「そうだ。短弓の射程が2割伸びているのは知られたくないからな」
「では、強化前の射程のギリギリで撃ちます。あいつらの弓は届いても当たりはしないから心配ないですぜ」
「そう願いたいな」
もちろん、私も同じ考えだ。
最初の一射は、普通ならけん制のために撃つ。
しかし、今回は十分損害を与えられる距離で撃つことになる。
結果が楽しみだな。
移動している私達に比べて敵は止まって弓を構えている。
移動目標を当てるのは止まっている目標より難しい。
しかし、走りながら当てることができるのは馬上の短弓の扱いになれた者だけだ。
やつらが走り出さないのは、大した兵ではないのかもしれないな。
「いまだ!」
副長の合図で一斉に矢を放つ。
敵も同時に矢を放ってきた。
「全員、散開!」
副長の合図で決められた方向へと散り散りになる。
敵の矢は一本も当たることはなかった。
「いいぞ。当たった!」
敵の馬から3人が落馬した。矢が馬に当たったのだ。
矢を受けた馬は暴れて乗っていた人を振り落とす。
これで敵の戦力は25%減だな。
「よし、突っ込め!」
残った敵を蹴散らすために、散開した隊員がまた集まって突撃を開始する。
距離が近づけばそれだけ命中率があがる。
「やばい! 全員退却だ」
「させるか!」
敵はもうフォーメーションが保てていない。
それぞれが逃げることだけ考えて馬を走らせている。
敵の隊長を目指して馬を走らせる。
しかし、この強化短弓は大したものだ。
あれだけ距離があるところから命中し、ダメージを与えることができるのか。
この短弓と我が隊がいるかぎり、勝ちは決まったようなものだな。
「隊長! ですぎです。もっとスピードを落として」
「うるさいぞ、副長。敵の大将はあそこだ」
「無理してはダメです。もう敵は壊滅状態です」
「あのバカを倒さなければ、この戦いは終わらないのだ」
確かに狐のやつらを私達のエリアから追い払うことは成功した。
しかしそれだけでは、またやってくるのは目に見えている。
「あいつは私が倒す!」
馬の腹を強く蹴り、やつを追い詰めることにした。
主人公が強化した短弓の活躍でした。
狼と狐が戦っています。(笑)
次の話は開拓村に戻ります。はい。