第20話 オーダー「おいしい料理」
デブ役人は開拓村で楽しく過ごしているよ。
もう2日経ったから、明日には帰る。
このままいけばミッションコンプリート。
今年の村の年貢と、僕とソフィちゃんのリア充が両立できる予定。
もちろん、そのために僕はちゃんとがんばっているんだよ。
デブ役人に出す飲食物の多くは僕が強化を施している。
基本は味を2割強化しているだけど、お酒は酔いやすくするための強化をした。
他にもスタミナが付くように強化したり。
おかげで、街でうまい物を食べているデブ役人も「美味いじゃないか」と喜んでいる。
村の出す食事は材料が限られているから、豪華にはできない。
だけど、新鮮な物は手に入るから素材を活かした料理を出す。
味の強化もあって、食べたことがない物になっている。
身の回りの世話をしているセクシーメイドさんにも、いろいろと頼まれて強化してる。
夜着は手触りをよくする強化をしたり、お肌がすべすべになる化粧液も強化した。
「どう? 美人になったでしょ」
と、迫ってくるから、丁重にお断りした。
あのデブ役人に、見つかったら困ることはソフィちゃんのことだけにしたいのでね。
「あと、1日。なんとか問題が起きなきゃいいんだけどな」
どうも悪巧みは、僕には向いていないな。
心臓に悪すぎる。
だけど、ソフィちゃんとのリア充のために、明日までがんばるぞ。
☆ ☆ ☆
「いよいよですね」
デブ役人を迎えに馬車がやってきた。
少しは歩いた方がいいと思うんだが、あの身体じゃ少し歩くとぜいぜい言いそうだ。
「あと少しだ。年貢のこともうまく話しがついたから」
「税率が3倍になるんですから、耕作地の面積は少なく見積もってもらわないと、ですね」
「ああ。そのあたりはうまく話しができた。とにかく村で楽しくすごせたのが大きい」
「じゃあ、耕作面積は去年と一緒ということで済みそうですか?」
「いや、去年の8割で話が決まった。税率3倍は大変だろうと気を利かせてくれたのだ」
なんと!
去年より面積が少ない評価となったのか。
やるなぁー、村長さん。
「それなら、なんとかなりそうですね」
「ああ。増産計画がどこまで成功するかにもかかっているが」
「間違いなく可能性があがったということですね」
「もちろんだ。ただ、あと少し。あの馬車が出ていくまで気は抜けないからな」
うん。その通りだろう。
お土産に渡す強化精力剤はもう用意してある。
村長さんが渡すだけだ。
「おー、出てきたみたいですね。僕は隠れます」
「そうしてくれ」
向こうから、デブ役人が女性3人を連れて上機嫌でやってくる。
セクシーメイドだけでは足りなくて、追加で身の回りの世話をする女性を2人追加したらしい。
デブ役人は40代だから、彼から見たら相当若い女に囲まれて本当に楽しそうだ。
村長さんがやってきて、挨拶をしている。
女性達はキスをしまくって最後のサービスをしている。
「これはお土産です。夜のためにお役立てください」
「ん? なんだ、これは」
「精力剤です。そろそろなくなるかと思いまして」
「おー、気が利くな。その件を相談しようと思っていたのだ」
「前にお渡しした物の3倍入っていますので。当分の間は足りるかと」
「うん。苦しゅうない。だが、無くなったらどうしたらいい?」
「使者を寄越してくだされば、用意しておきますよ」
「よし。そうしよう」
そんな話をしているらしい。
離れて隠れているから、声が聞こえないが手振りで分かる。
お、御者が呼びに来た。
そろそろ時間だろう。
最後に女性3人に抱擁とキスをして馬車に向かっていった。
村長さんと女性3人は深々とお辞儀をしている。
ふぅー、終わった。
「ちょっと待ってください!」
ん? なんだ。デブ役人に向かって走っていく奴がいる。
それもデブ役人には敵わないが、そいつも相当太っている。
うわっ、村長さんの息子じゃないか。
何をしようとしているのか?
村長さんが止めようとしているけど、突破した。
手に手紙みたいな物を持っているじゃないか!
手紙を受け取ってデブ役人が読みだすと、みるみるうちに顔が赤くなり、村長に向かってどなり始める。
「お前! 俺に嘘を言っていたのが? ソフィーはこの村にいたそうじゃないか!」
「そ、そんなことは」
「お前の息子だろう、こいつは。すべてばらしたぞ。お前達の嘘は」
「そ、それは…」
なんてことしてくれるんだ、あのバカ。
何、にやにやして、こっちを見るんだ。
それもドヤ顔で。
こういう嫉妬心ですべてを壊す奴がいるんだよな。
僕はそういうことに巻き込まれたくなかったから、街では工房に籠って強化ばっかりしていた。
もっとも、侯爵様の跡目争いに巻き込まれて、ここに逃げてきたんだけどな。
たった一人の暴走で、村が危機になってしまったじゃないか。
「あー、もう時間がない。出発せねばならない! 上に報告しておくからな。今年は耕作面積は2割アップだと」
「ええっ、2割減の約束ですよ、2割減の」
「ええい、うるさい。役人の俺を騙す奴らはきつい思いをするがいい。耕作面積2割アップに税率3倍だ。びた1文まけないからな。収獲の時、しっかりと用意しておくように」
村長さん、すがりつくようにしていたが、蹴られて倒れた。
役人は馬車の乗り、馬車は出発した。
「どう責任をとるつもりか」と、村長さんの息子の方を見たら、もう逃げていなかった。
 




