第14話 テンプレイベント「村長の息子登場」
「おとうさん。おかあさん」
崩れかけの小屋の前でソフィが涙を流した。
きっと、昔を思い出しているのだろう。
「ありがとう。やっと帰ってこれたわ」
ここはソフィが両親と兄と一緒に住んでいた小屋だ。
ゴブリン襲来によって、ソフィ以外は亡くなり、小屋がある南エリアは立ち入り禁止になったのだ。
「みんな喜んでくれていますよ。天国で」
「うん、私もそう思うの」
家族で暮らしてきた土地が魔物が徘徊する場所になるのは悔しいよね。
その地が解放されたんだから、嬉しいに決まっている。
「それも、ぜんぶ。あなたのおかげよ」
「いや、僕というよりルナさん達でしょう」
「もちろん、ルナさんにもお礼を言ったわ。でも、ルナさんが動いたのはあなたのおかげ」
うー、美少女に感謝されるって、こんなにうれしいものなのか。
癖になりそう。
「ねっ、キスをして」
「えっ、ここで?」
「お父さん、お母さんにも見てもらうんだ。私、今、幸せだって」
目を閉じて待っている。
そりゃ、するでしょう。
やさしくキスをしよう。
「おー、いたいた」
なんでそんなラブコメのテンプレみたいな邪魔をするんだよ、村長。
それもすごい笑顔ってどういうこと?
「今、村のみんなに手分けして調べてもらった結果が出てな」
「あ、あれよね、村長さん。今年の小麦の作付け面積」
あー、そんなことを朝言っていたな。
農民じゃない僕は関係ないから、ソフィといちゃいちゃしてたけどね。
「そうだ。今年の小麦作付け面積。どうなったと思う?」
「まさか、2割アップとかじゃないですよね」
そんなところにも2割強化スキルが効果を発生したのかもしれない。
「残念っ、はずれ。もっと多くなったぞ」
「そうなの? もしかして。5割アップとか。なったらいいなと」
「残念っ、はずれ。さらに上だぞ」
「それならば。2割じゃなくて2倍とかですか?」
「正解! 耕作予定地の調整が終わってな。集計してみたらほぼ2倍という驚く数字がでたんだ」
2倍って、そんなに増やして大丈夫なのか?
農民たちがブラック労働になったりしないのか?
「2倍の作付けをするためには、農地の堀起こしをしないといけない。特に南エリアな」
「そうでしょう。無理しすぎはよくないから、もう少し減らしたら?」
「減らす気はないよ。村人全員が増やしたいと言った結果だからね」
おー、無理やり増やした訳じゃないのね。
まぁ、農民って土地が多くなるとそれだけ収入も増えるしね。
「村長さん。掘り起こしってことは馬につける犂を使うのよね」
「そうだ。そこで相談なんだが。村が持っている5つの犂を強化してくれないか?」
「もちろん、やりますよ。お安い御用です」
それだけで2倍の畑を耕すことができるのか?
どうしても信じられないからソフィを見てみた。
「この辺りは畑だったの。ゴブリンが襲ってくるまでは」
「あー、ソフィの家族で耕していたんですね」
「私の家族だけじゃなくて、第3期の入植者10家族でね」
「それなら、畑に戻すのは簡単なのですか?」
「そうだ。今、村には畑を持たない者も多い。開拓で一番有望だった南エリアを封印せざるを得なかったからな」
このあたりは確かに黒い土で雨が降ると保水される感じがする。
牛に犂を曳かせると耕すのも簡単そうだ。
「畑を思うように増やせず、仕方なしに街で冒険者をしている農家の次男坊、三男坊もいる。南エリアが解放されたから、街から戻ることができる」
「そういうことなんですね」
朧げながら、村が開拓困難になった原因がゴブリンの巣にあることは分かってきた。
しかし、そうなると別の疑問が湧いている。
「それなら、領主様に冒険者か兵士を派遣してもらって討伐したらよかったんじゃないですか?」
「もちろん、要請はずっとしている。毎年、要請をしているが『今は無理だ』の繰り返しだ」
うーん。こんな辺境の開拓村、討伐隊を派遣する価値がないと判断されてしまったのか。
もしくは、直接領主様に直訴はできそうもないから、間に入った者が握りつぶしていたのか。
とにかく、ルナ達に感謝しないといけないな。
村長とこれから起きる村の新しい世界の話を聞いていたら、僕もソフィも元気になってきた。
がんばってくれよ、村長。
まぁ、僕にできる2割強化はガンガン使っていくけどね。
「おーい。オヤジ」
開拓村の方から一人の若い男が走ってくる。
「おー、ダイナ。どうだった?」
「ほら、みてみろよ。まずは20人の若者を連れてきたぞ」
「でかした!」
でっぷりした村長の息子が20人の男を引き連れてやってきた。
あいつが、ソフィの最初の男だな。
まぁ、出会う前のことだから、どうしようもないが、なんとなくむかつくな。
「あ。誰だ? こいつ」
「この方が村の恩人の強化職人さ」
「あー、畑も耕さず、ただ飯食っていると噂されている男か」
僕がなんとなくむかつくと思ったら、村長息子の方もむかつくと感じたようだ。
お互いに視線をぶつけて睨みあった。
「そんなこと言わないで。私の家族の家や畑を取り戻してくれたのよ」
「何言っているんだよ。取り返したのは狼獣人達だろう。こいつは何もしていないぞ」
そういうお前はもっと、何もしていないだろう。
「そんなことない! 彼が来なかったら、年貢があがる今年は村が大変なことになっていたの」
「はん。そんなの知らないね。とにかく、言われたとおり若い男を連れてきたんだから、歓迎の集会を開いてくれ。おい、ソフィ、お前も手伝え」
村長の力をバックに今までやりたい放題してきた感じだな。
だけど、今はソフィは僕の身の回り世話係だ。
お前の好きにはさせないぞ。
「ソフィはダメです。勝手に命令しないでください」
「あっ、逆らうと……」
「どうしても、ソフィを手伝わせたいなら村長に言ってください。村長が了解するなら、ソフィを渡しましょう」
「バカか。新参者のお前と息子の俺、オヤジがどっちの肩を持つが決まっているだろう」
「それはどうでしょうか。ちなみに、ソフィを村長が僕から取り上げるというなら、僕は別の村にでも行きますよ」
「あー、どこでもいけ。なぁ、オヤジ、それでいいだろう」
「バカモン!!」
あ、村長さんが怒った。
もちろん、僕に、じゃなくて、息子にだけど。
村長さんって、いつも腰が低い人だと思っていたけど怒ると怖い。
いつも怒っている人より、たまにしか怒らない人の方が怖いというからな。
「何事もお前の思い通りになると思うな。この強化職人さんはな、村の救世主だ。お前みたいに楽ばかりしようとするお前とは違うんだよ」
えっと。楽、ということなら、僕も楽しているな。
最近はそれほど多くの強化は必要ないし。
仕事時間だって、そんなに必要ないから、ソフィと一緒にいちゃいちゃする楽してリア充だからな。
「お前も自分の力をしっかりと強くしていかないと、これから困ることになるぞ」
「ふん。知るか! おい、帰るぞ」
取り巻きらしき3人の男を連れて村に戻っていった。
村長は息子が連れてきた元村人の若者に状況を説明しはじめた。
僕らは、僕の部屋に戻るとしよう。
お前の思い通りになると思うなよ!
ってことで、自己評価は大切ですって話でした。
もちろん、☆評価も大切です。よろしくです。