王都へ
アルファに転生者である事打ち明けて更に数ヶ月が経ったその間にもロザンヌは4歳となっていた。
ロザンヌの住む町から少し離れた森の近く家である。周りには幾つかの家の集落があり程よく静かなところである。
そんな風景には似つかわしくない厳しい声が聞こえる。
「二人とも腰が引いている!ダメだ!そんなに剣を下げるな。剣先が目線より下がっている!」
ロザンヌがラッセンとアルファに向かって怒鳴りつける。ラッセンがロザンヌに抗議を申し立てる。
「ロザンヌ、かれこれ3時間も剣を下ろしていないんだぞ。いくらなんでも腕がもたない」
「実戦では剣を下げたら命取りだ。死にたくなければ剣を下げるな」
アルファはラッセンを睨みつけるとそのまま稽古続けた。アルファがラッセンに小声で言う。
「もう少し辛抱だ。もう少ししたらサラさんが昼ごはんで呼びにくる」
ラッセンは厳し過ぎる稽古に舌打ちをすると同時にサラが昼ご飯に呼びに来た。ロザンヌも更には逆らう事は無かったので午前の稽古が終了した。
アルファと稽古や勉学する事でラッセンも飛躍的に先に進んだロザンヌは思った。元々、アルファなり独学で計算や文字を学ぼうとしていたのでそれなりの教材を持っていたが上手く進められなかったらしいくロザンヌが指導する事でアルファも伸びた。
剣術もさほど体力よ差が無いかったのでお互いにいい練習相手だった。ただ、ラッセンに関しては衛兵や文官で王宮勤めをする事に対してまだ抵抗がありロザンヌに対して反発を時々見せてくる。
ロザンヌはこれは想定内の事なので特に問題視はしていなかった。最近はアルファも一緒にロザンヌ達と食事をする。サラもアルファを息子の様に可愛がっていたから大喜びでアルファの分も支度をする。
早速さとラッセンは早速さと食事を終えてアルファと庭先へ出て行く。
「また、昼からはロザンヌの学習だ。毎日毎日と息が詰まる」
ラッセンは少し捻くれた言い方で言う。
「俺は、学校とか行けないから勉学とか教えて貰えて助かるけどなぁ。ラッセンは衛兵試験は受けたくないのか?」
ラッセンは答えに詰まってしまった。正直、最初に文官や騎士とか言われてもよく分からなかったが、剣術や勉学も分かるようになってからはそれも悪くないとは思うが何かが気に入らなかった。
「嫌とかじゃない。この頃ははアルファと一緒に衛兵の仕事をする事も悪くないかもとも思うけど…なんだかロザンヌの思う通りにいくのが気に入らない」
アルファは笑いながら言う。
「ラッセン、ロザンヌちゃんに反抗期?まぁ、確かに厳しいけど俺達、確実に強くなってるし勉学も出来るようになっている。兵士の試験も軽く通るぐらいだと思うよ。始めは正直に転生者で記憶持ちなんて信じてなかったけどここ数ヶ月でロザンヌちゃんに色々教えて貰って頷けたよ。前世ではきっと凄い人なんだろうなぁって思った」
ラッセンはアルファの言葉にハッとする。
「あっ、それだ僕が気に入らない事って、ロザンヌこそ庶民やってないで王宮で偉い人間なればいいのになんで俺達の事を構うのかなって思うんだ」
「ラッセン、それはロザンヌちゃんに全てを押し付けていない?俺達は俺達で出来る事をしないと出来る奴がやればいいって言うのもなぁ。俺達が衛兵になってもロザンヌちゃんは大人しく遊んでないと思うぞ」
ラッセンはロザンヌが大人しく遊んでいる姿を想像しようとしたが何も浮かばない。そもそもロザンヌは遊ぶのか?
「確かにそうだな。そう言えばロザンヌが遊んでいるところを見た事がない」
「だろう?」
アルファが言うと後ろからロザンヌが声がした。
「休憩は終わりだ。さぁ、午後の授業を始めるぞ」
ラッセンがアルファに小声で言う。
「きっと、僕たちを鍛えるのがロザンヌに取っては遊びなんだね」
「同感」
三人は家の中へ入って行った。その日の夜、ゼンはご機嫌に夕食の席についた。
商人とのロザンヌの鹿の皮のやり取りの後、他の獲物も高値で買い取ってくれるようになった。時折、付いてくるロザンヌを恐る恐る商人は見ながら交渉するらしい。ゼンの家もかなり生活が楽になった。
「皆で王都へ買い物へ行こうと思う。丁度、王都では花祭り行われるからな。サラと相談して皆で行こうと思うが…」
ゼンは子供達の様子を横目で見る。ロザンヌは何やら考え込んでおり、いつも余り考えずにノリの良いラッセンも硬直している。
「お前たち、余り嬉しそうではないなぁ…」
ゼンはラッセンとロザンヌの反応に少し悲しそうに言う。ロザンヌはハッとゼンの存在を思い出し慌てて言う。
「いえ、父上、嫌ではなく。初めての王都への旅なので色々、喜ぶ前に何をしようか計画しておりました」
硬直していたラッセンは我に返り笑って誤魔化すがロザンヌはラッセンの態度を不審に思った。
「兄上は嬉しくないのですか?何か別の事を考えてた様子ですが…」
「いやいや、嬉しいけどアルファと遊べなくなるなぁと…」
ロザンヌがラッセンを怪しんで見るがそれにお構いなくサラが嬉しそうに言う。
「王都なんて貴方達が生まれて久しく言ってないわぁ」
ラッセンは前世でもナディアが4歳だった頃に王都に行っていた。丁度、花祭りの真最中に…そして、ナディアは運命の出会いがあった。本来ならそれをロザンヌに伝えなければいけないがラッセンは伝えるつもりはなかった。ロザンヌにもこの運命の出会いをして欲しかったからだ。少し罪悪感があるが決して知られないようラッセンは心の中で思った。
今日の朝からサラは大忙しである3日間程の旅行である王都までは馬車を使って半日もあれば着く距離である。
ロザンヌは朝早く起きて、ラッセンとアルファの朝の稽古をつけようと外に行こうとするところにサラに呼び止められ部屋に連れて行かれた。そして鏡の前に座らされる。
「さぁ、ロザンヌ、貴方も4歳になって髪も伸びて外見も女の子らしくなったわ。さぁご覧なさい。素敵なウェーブのかかったブロンドの髪に翡翠の瞳。色白で頬も可愛らしい紅色。唇も愛らしいのよ。洗い晒しの髪を振り回して走る貴方の姿を見て可愛らしいとはいえ胸がいたいわ。今日はきちんと髪もといておしゃれをしましょう」
「母上まだ、私には早いです。年頃になれば外見を構いますのでご安心を」
と、ロザンヌはサラから逃げようとするとサラはロザンヌの肩しっかりと掴み逃がさない。
「いいえ、早くはありません」
ロザンヌはサラに抵抗する事が出来ずに朝の稽古は諦めた。
サラが言うようにロザンヌは美しいかった。庶民にもかかわらずに寵妃として迎えられるぐらいだ。寵妃を生んだサラも美しかった。特にナディアはサラに似たのであろう。ゼンも赤毛に青い瞳で狩人という職人柄、眼光も鋭く体格も良く顔も整っている。ラッセンは父親によく似ていたが体格は母親譲りで鍛えても筋肉が付きにくい細身である。
ロザンヌは改めて家族を見ると整った容姿の一家だと気付く。
(不味いな、王都に行けば目立つ容姿だ。国王に見つかる事はないと思うが目立たないに越した事はないだろう)
サラから解放されるとツバの広い麦藁帽子を手にする。
そして一家は、王都へ向かった。