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魔王の2歳児

ようやく、ロザンヌは2歳半を超えようとしていた。ガーネル国では小悪魔の2歳児、悪魔の3歳児と言われている。

しかし、ロザンヌは魔王の2歳児を過ごしている。標的は父親のゼンだった。ゼンは男兄弟で育ち、小さい女の子は初めて接するに等しいかった。ましては自分の我が子だと思うと抱きしめても抱きしめ足りないぐらいである。しかし、既に中身は大人でしかも元皇女のロザンヌはゼンが苦手だった。


「ロザンヌ、()()()()()お父さんと一緒に湯あみをしよう」


「………嫌です」


「遠慮するな身体も洗ってやろう」


「遠慮ではありません。一人で身体も洗えるし父上の体は大き過ぎます。風呂場が狭いです。父上こそ遠慮せずに一人でお入り下さい」


2歳半のロザンヌがナメクジでも見るような目でゼンをみる。


「………分かった。でも、お父さんはロザンヌに服を着せたりご飯を食べさせたり、色々やってあげたい…」


「父上は人形遊びされたいのですか?となりの二日前にリリー殿が人形遊びの相手を探してましたが…」


リリーはロザンヌと同じ歳でよくロザンヌの家に遊びに来るがいつもリリーは一方的に話をして満足気に帰っていく。何故かロザンヌに懐いていた。


「それもいいなぁ。ロザンヌとリリーとお父さんとで遊んでやる。ロザンヌは人形遊びを一緒にしないのか?あ、人形がなかったな。ロザンヌに人形を買ってやらねば…」


「私は人形遊びは出来ません。動かないものに話しかけるのは苦手です」


「ロザンヌ、違うぞ!人形遊びは人形を愛でるんだ。人形を見て可愛い、可愛いと…」


2歳半のロザンヌは意識していないが知らないうちに軽蔑した眼差しで見ていた。


「私にそれをやって欲しいと父上は望んでいるのでしょうか?」


「女の子の遊びは見ているだけ癒される」


2歳半のロザンヌはゼンをナメクジからウジ虫を見る目で見ている。そして、サラに助けを求めるようにして言う。


「母上!お願いがあります。父上、人形を買ってあげて下さい。なんだか父上が不便になりましだ」


「お、俺の?俺はそんな趣味はない!サラ、誰があんな冷たい話し方を教えた?なんだか幼児の話し方じゃないぞ!普通は、人形買ってやると言えば『わぁーパパ、嬉しい。チュッ』ぐらい言うよな?」


「そんな事は普通は言ないわ。まぁ、ゼンが言うように確かに変わった話し方だけどわざわざ直さなくても…行儀正しい話し方だし私は好きだわ」


「……俺はもっとロザンヌに甘えて欲しい。ラッセン、父さんと風呂に入るぞ」


「僕、一人でゆっくりはりたい」


ゼンの後ろ姿は寂しかった。


それでもめげずに翌朝またゼンはロザンヌに付き纏う。


「ロザンヌ、今日はお父さんと町に行かないか?」


「町ですか?」


ロザンヌの目が光る。珍しい反応にゼンは少したじろぐ。だがそのすぐ後、ロザンヌはニコニコと愛嬌を振りまく。


「あ、ああ。たまにはどうだ。あまり高いものは買えないが菓子の一つや二つは買ってやる」


そして、ロザンヌは顎に手をやり考える。ロザンヌのその姿がゼンには愛らしく見えてニタニタしている。


「そういえば父上、納屋に先週、狩りで狩った鹿の皮がありましたよね。それを商人の店に持ち込むと言っていませんでしたか?」


「ああ、確かに言っていたが…」


「私は父上と商人との鹿の皮の取引を見たいです!」


「そんなの見ても面白くないだろう?」


「見たいです!」


目を輝かせて今にも飛びつきそうな顔でロザンヌはゼンを見つめる。ゼンはまたもやにやける。


(可愛い…)


ロザンヌが目をキラキラさせながら見てくるのがゼンは嬉しい。もう、渋る理由は何もない。


「分かった!よし!お父さんが連れて行ってやろう!」


「僕も行く!」


ラッセンが便乗して言った。


ゼンはロザンヌとラッセンを乗せてに荷馬車を走らせる。

荷台にロザンヌとラッセンは座っていた。小声でラッセンがロザンヌに話しかけてくる。馬車の揺れる音で馬を引いているゼンには話し声が聞こえない。


「ねぇ、ロザンヌなんで言葉とか年相応の喋り方をしないの?」


ロザンヌは不思議そうな顔をする。


「何故、そんな面倒な事をしなければならない?」


「変わった子だと噂になるし、転生した事が周りにバレるのもまずいでしょう?」


「変わった子と思われても構わない。現に父上や母上は私の事を変わっていると思っていても放任している。それに私は年相応の話し方を知らない。バレるとか以前の話だ。こちらから転載者だと言って誰が信じると思う?せいぜい変人扱いされるぐらいだ。それぐらいならわざわざ装う必要もない」


ロザンヌは目下の者か目上の者に話す話し方しかする気はなかった。ロザンヌにとって、既にラッセンは兄から下臣に降格したらしい。


「それはそうだけど…責めて普通にした方が暮らしやすくない?」


「私は普通の基準がわからない。今でも充分、暮らしやすい」


話している間に馬車が止まった。どうやら目的地に着いたようだ。ゼンは約束通りいつも皮を買い取る商人の所へ行った。

商人は小太りで目つきも悪い。無愛想な顔でゼンを見る。

鹿の皮を見ると商人はため息を吐く。


「ゼン、鹿の皮なんて買い取る事すら普通はしないんだ。こんなものに値なんて付かない」


「この季節は鹿が狩りやすいんだ。それにこの前は買ってくれたじゃないか。鹿の角も荷馬車積んである。何とかならないか?」


「角なんて誰も買わないがお前との仲だ、しかたがない」


商人は馬車まで角を見に行った。馬車の前で商人何か言われたのであろうか真っ青な顔でゼンが戻って来た。


「しかたがないな、お前と俺の仲だ。特別だ鹿の皮10枚と角が8つで銀貨一枚ってところだな」


いっきにゼンの顔が明るくなった。


「銀貨一枚なら…」


ロザンヌは眉を寄せやり取りを聞いていた。銀貨一枚だと二週間分の食料だ。ゼンは思ったよりも稼いだと思ったので内心は喜んでいた。商人がニヤリと笑った。ロザンヌは見逃さなかった。


「ゼンと私の付き合いの中だ。今回だけだぞ」


どうもゼンには商人が苦心な表情に見えたがロザンヌは商人が笑いが込み上げているのを必死に我慢しているように見える。流石にロザンヌは我慢の限界だった。


「父上!銀貨一枚…皮と角は一づつの値だと幾らになるのでしょう?」


商人は無愛想の上に更に不機嫌となった。何故なら適当にゼンの頷く値を言って計算など鼻からするつもりがなかったからだ。


「何だいお嬢ちゃんはゼンの娘かい?そんな難しい事、お嬢ちゃんには分からないだろう?」


「皮一枚当たりの値段と角一つの値段が難しいのですか?皮が10枚と角8つ、直ぐに銀貨一枚と答えが出せる貴方は優れた商人なんでしよね。どんな計算で出た答えか興味深いだけです」


こんな幼児に計算なんか出来る訳がないと商人は思った。ゼンは計算が出来ないので適当な破格の値段で売らせていた。まさかこんな赤坊と変わらないガキに面倒だがゼンという鴨をこれからも使う為に仕方なく説明する。幼児の戯言、どこかで聞いた会話を真似して言っただけだろう。適当に説明すれば良いと商人は面倒くさそうに説明した。


「皮一枚じゃ値段が付かないから皮が3枚銅貨20枚角は2個で銅貨20枚だよ。銅貨100枚で銀貨一枚だよ。分かるかな?お嬢ちゃん?難しかっただろう?」


商人は品のない笑い方でロザンヌに話す。ロザンヌは商人を馬鹿にするような顔で見上げる。


「おかしいですね…残りの皮一枚は何処にいったのでしょう?その計算だと皮9枚でしょう?」


「うっ。そ、それは値段が付かないから引き取ってやる分だ。元々無理に買ってやっている」


ロザンヌがため息を吐くと…。


「どんなものもただで引き取るのかどうかは交渉条件に入れないといけません。無理に買ってもらっている鹿は帝国では牛や馬の皮よりも鹿の皮は重宝されています。その鹿の皮が馬や牛より安いとは…。それに鹿の角はこのガーネル国ではあまり馴染みがないようですが鹿の角は鹿茸といって薬の材料として高額で取引されている。まさか、商人のあなたが知らないわけないですよね。私は銀貨一枚では納得出来ません。父上、少し遠いですが日を改めて王都に売りにいきましょう。ガーネル国にも帝国と取引している外国人の商人がいるかも知れません。それから決めても遅くないでしょう?」


「えっ、いかのか?銀貨一枚だぞ」


商人はロザンヌが惜し気もなく、出て行ってしまうので慌てる。


「仕方ありません。父上が命を張って狩った物を適当な値で決められては…父上の狩ったしかは鹿は上物です。帝国の市に出してみればわかります。あーもし一文にもならなければその貴方と父上の仲という物で宜しくお願いします。たぶん貴方のお力を乞うような事はないと思いますが…」


ゼンもどうしたらいいか分からず狼狽える。ロザンヌは構わずゼンの手を引く。商人は青い顔してゼンを引き止める。


「まって、まってくれ。分かった皮一枚につき銀貨一枚、角一つで銀貨3枚でどうだ?頼む売ってくれ」


ロザンヌはゼンの顔を見る。ゼンはあまりの金額の差に声が出ない。


「父上、どうしますか?これは父上の仕事です。父上が決めて下さい」


と、ロザンヌはゼンにニッコリと笑う。ゼンは我に帰って言う。


「それで、手を打とう」


ロザンヌとラッセンは店のすぐ外でゼンが金の取引を終えて出てくるのを待っていた。


「ロザンヌ、やり過ぎじない?あんなに値を上げて次から買い取ってくれないかも知れない」


ロザンヌはふふっと笑った。


「あの商人は父上の様な人が良くて文字が読めなくて計算が出来ない狩人に対してはタダみたいな値を付けて売っている。いまの値も相場の5分の1だ。それでもあの商人は5倍の儲け得てる。喉から手が出るほど欲しいはずだ。鹿の皮や角はそれだけ貴重だ」


「あれでもまだ5倍も値が付くの?あの商人!今まで父さんを騙しいたの!」


「父上の狩った鹿は若い鹿が殆どだ。若い鹿はなかなか狩るには難しいから特に高値が付く。本当はもう少し値を上げたかったが父上が気を失いそうだったからな」


「まぁ、確かに父さん、口から泡が出てた」


「それに引き際も大事だ」


ラッセンがロザンヌを見つめるとゼンが店から出てきた。


「ロザンヌ、お前のおかげだ。菓子だけと言わず洋服でも人形でも何でも好きなもの買ってやる」


「本当ですか?父上!」


ロザンヌが目をキラキラさせながら言った。ゼンは胸に矢が放たれたようにデレデレしている。


「ああ、ラッセンも遠慮するな。母さんにも何か買って行こう」


するとロザンヌは本屋に行きたいと町には小さな雑貨屋しかなかったが、雑貨屋の隅にあった古本の中から絵本と歴史書を数冊と何度も使える黒板と石炭岩を買ってもらったそれでも大した値段ではないとゼンがロザンヌに洋服を買おうとしたので、それなら木刀をラッセンとロザンヌの分で欲しいとゼンは首を傾げながら承諾した。

後はサラに土産を買ってラッセンもいくつか洋服を買ってもらったそれでもまだ銀貨20枚も余っていた。数ヶ月分の生活費には充分だった。


帰りの馬車の中でロザンヌが買ってもらった物をラッセンは不思議そうに見ている。


「凄く嬉しそうだね。服とか人形とかじゃなくていいの?」


ラッセンが言うとロザンヌは珍しく子供らしい笑顔で言う。


「私は成長期だ。服を買っても数ヶ月の事、必要ない。それよりも今日の一番の目的が達成できた」


「もしかして、それを強請る為に商人の所へ行きたいって言ったの?」


「他に何の理由がある?しかし、全て揃うとは思わなかった古本や黒板の単価までは頭に入ってなかったからな」


「そりゃ、元皇女様が古本の値段まで知ってたらびっくりだよ。そんなに絵本が読みたかったの?」


ロザンヌが眉を寄せる。


「何を言ってる。これは私が使うものではないぞ?」


ラッセンが驚く。


「えっ、誰かに上げるの?」


「兄上の為のものですよ」


「えっ、僕?何で?文字、読めないからいらないし」


ロザンヌはラッセンの顔を見て不適に笑う。


「兄上は今年で9歳、数ヶ月もすれば10歳ですよね」


「そうだけど…」


「ならば、将来の事はこのまま何もせずって事はないですよね。父上の狩人の仕事も覚えようともせず常々、心配しておりました」


ラッセンは背中から汗が吹き出してくるのが分かった。


「心配しなくてもそのうちロザンヌが国王の寵妃となれば家は安泰じゃないかハッハッハ」


ロザンヌはラッセンを一瞥し静かに言う。


「兄上、私は寵妃になるつもりは心の片隅もございません。しかし、生活には稼ぎが必要、高給取りになるには王宮で働くのが手っ取り早いのです。しかも、兄様が王宮に上がればどこぞの御令嬢と縁がありますし国王陛下の情報も頂けます。一石二鳥ですね。出来たら文官か騎士になっていただければ家計は潤うし国王から逃れる為の情報も手に入ります」


ロザンヌはラッセンに微笑んだ。可愛い笑顔だが。ラッセンにはロザンヌから悪意しか見えない。


ロザンヌの魔王の2歳児を目の当たりにしたラッセンだった。



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