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プロローグ

ここガーネル国はサルバール帝国の配下である小さな王国の一つである。

ガーネル国の王宮の一室、国王の執務室の執務机に書類の山に埋れながらコツコツと書類丁寧に裁くのはこの執務室の主の国王ではなく第一王妃、ロザンヌの姿があった。


ひたすら書類を読み仕分けをしていくロザンヌを満足気に見守っているのはガーネル国の宰相であるクラウスである。


サルバール帝国の第十二皇女として生まれたロザンヌは、帝国の支配下であるガーネル国が王妃として迎えるには帝国とっては余りにも釣り合わない勿体ない身分である。ロザンヌがガーネル国に嫁ぐには理由があった。

サルバール帝国は皇族は皇帝をはじめとする皇后、及び第七側妃までおり、皇子が13人皇女が12人と皇族の数も多い。

サルバール帝国は皇太子始め皇帝の子供たちは幼い頃から、厳しい皇族教育を受ける事を義務付けられている。どの皇子、皇女も脱落を許されない。

その皇族の中でも一際、目立ったのが末娘の皇女のロザンヌであった。何をやらせても飲み込みが早く、家庭教師でさえ驚く程である。ロザンヌが皇子ならば将来の帝国の為には優秀な人材として喜べたが、皇女であるが故、優秀過ぎるのも問題があった。ロザンヌの勝気な性格と能力ならば他国や国内の貴族に嫁げば反乱の原因にもなり得る。優秀な人材を求めた皇女や皇子とて皇太子以上に目立ってはいけない。目立つからと言って皇帝はロザンヌが可愛くない訳でもなく寧ろ可愛くて仕方ない。他の皇子、皇女も末娘のロザンヌを可愛がっていた。


年頃になったロザンヌが嫁ぎ先に白羽の矢が当たったのがガーネル国だった。

サルバール帝国の配下でもっとも弱小の国でつい最近、国王も死去しまだ24歳と若く美しい()()の王子が国王となったばかりの国である。

王子も戦いを好まなく政務にも関心のないお飾りの国王と聞いている。反乱を起こすには弱小すぎる。

何よりもサルバール帝国に歯向かえない国なのでロザンヌを重宝するであろう。ロザンヌが多少好き勝手にやっても何も言えないだろうと皇帝は考えた。

ガーネル国はサルバール帝国の要求通り素直にロザンヌを受け入れた。


そして、今、ロザンヌは国王の影武者として淡々と政務をこなしている。


そもそも、ロザンヌを国王の影武者に仕立てあげたのは宰相のクラウスだった。クラウスは前王の宰相補佐を経て現国王の宰相を務めている。ガーネル国の王族は最小限の政務しかしない。今年で36歳とまぁ、若くして出世頭といえば聞こえがいいが他国の宰相に比べたら仕事量は遥かに多い。

(自分の屋敷に帰ったのは宰相になってからあったのであろうか?)

その忙しさのお陰で、麗しい貴公子から疲れ果てたやつれたおじさんの仲間に入りそうだ。折角、出世しても結婚すらする暇もない。王宮から出れないのだから…と全てを諦めかけた所に救世主が現れた。ロザンヌが、ガーネル国へ来てからクラウスの生活の全てが変わった。


ロザンヌがガーネル国に嫁いだ日は、華やかな結婚式で若くて美しいだけの国王とまだ18歳らしい愛らしさ残したロザンヌの花嫁姿は国民を魅了した。


そして、国王とロザンヌはその日、夫婦として結ばれる筈であった。だが、国王とロザンヌは夫婦として結ばれる事はなかった。

嫁ぐ前にガーネルの国王の事はロザンヌなり調べ尽くしていた。

サルバール帝国の皇女ならばガーネル国に探りを入れる事は容易い事だった。そしてすんなりぼろは出た。国王は王太子時代から付き合っている女性がいたのだ。王妃に迎えられなかったのはその女性が庶民だったからだ。王妃を迎えたのなら一年二年もすれば側妃として迎える事は可能だ。

ロザンヌから見てもガーネル国の国王は金髪に翡翠の碧眼で確かに美しい。しかしそれだけだ。サルバール帝国の皇子皇女の兄や姉は美しい上にあらゆる事に関して優秀である。そんな兄、姉達を見て育ったロザンヌが美しいだけで惹かれる事はない。

ロザンヌ自身も美しい漆黒の絹の様な黒髪に黄金の瞳を持つ美女であった。

ロザンヌは夫婦の閏房の事は重々承知であったが夫を共有すると言う事は不潔に感じた。数刻まで他の女性と…と思うととても交わる気にはなれなかった。考えた末に閏房事の前になると極度な緊張を理由に閑所に閉じこもっていた。

流石に閏房は無理と言う事で国王と馴れ緊張が解けるまではロザンヌの所へ国王が通う事はしなくてもいいと言うことになった。


ロザンヌがガーネル国の後宮に来て数週間が過ぎた頃後宮の予算と使用人の給金の明細を持ってくるようにとクラウスに要求した。

これを見て女性が理解出来るのか?と思いながらもクラウスは素直に提出した。

そして、翌日には後宮の予算と使用人の給金を改めるようにと修正された用紙を渡してきた。

後宮の予算は不必要なもの家具な丁度品の入れ替えの周期を長くし建物の不必要な修繕を減らし装飾品を減らす代わりに庭園の草花を増やしそれを後宮内の装飾品にする事で使用人の給金が仕事の内容によって上がっている。今まで無駄に多かった修繕費や装飾品の予算が給金に変わっても大幅に後宮の予算に余裕が出た。

ロザンヌは後宮内でも的確に使用人達に仕事の指示を出していた。


クラウスは、前任の宰相から国王の政務は宰相の仕事と言われており殆ど寝ることもなく国王代わりに報告書を国王は署名するだけの状態にし、会議の際には国王は座っているだけで終わるように取り計らい事前に根回しをし、諸国の来賓にはどんな人物でどんな挨拶をしたらいいか予めメモを渡しておく。

そして、国王はそれを読むだけである。

そんな、クラウスは日常にうんざりしていた。後宮内で王族以上に動くロザンヌを後宮だけに置いておくのは惜しいとクラウスは思った。クラウスは手始めに国内の麦の豊作の為に麦の単価が著しく落ち倉庫も豊和状態で逆に維持費がかかると相談をロザンヌに持ち掛けた。案の定、ロザンヌは即答で答えた。


「リベラル国が今年は麦が不作ではなかったですか?破格の値段で売っても国内で売るより高値で売れる筈です。破格価格で売る代わりに運搬費はリベラル国へ賄って貰えば良いのではないでしょうか?それでもリベラル国に恩を売れると思いますが…」


クラウスは驚愕した。クラウスも学園に通っていた頃は首席で卒業している。宰相補佐官、5人で悩まされていた事をお茶をすすりながら軽く解決した。あの話しぶりだと運搬費まで即座に計算されている。それからはクラウスは事がある度にロザンヌの所に通う様になった。


暫くするとロザンヌの方から政務の書類を見る方が早いと言い出した。クラウスと宰相補佐官、5人で1日、仕分けるのが精一杯の方々の書類も半日で裁いてしまう。しかも、この書類は計算間違いでやり直し、収支が合わない、市場価値が不明だなど指摘をする。クラウスの政務の仕事は減ったが本来の宰相としての仕事は増えたが王妃が指摘した報告書の修正の指示や国庫の管理、後回しにしていた事が容易に出来るようになった。


そして、それから2年過ぎれば国王の政務はほぼ王妃が行なっていた。相変わらず国王は政務に無関心でまさかロザンヌが影武者になっている事すら知らないし知ろうともしなかった。更には国王は側妃に愛人であった女性、ナディアを側妃に迎えて寵妃として扱った。

クラウスはロザンヌが国王の代わりに政務をこなしているのに王妃として扱わない国王に軽蔑していたがロザンヌに影武者でいてもらわないと既に困る状態であった。ガーネル国の内政は確実に良くなっている。ここで訳の分からない国王に口出しされたくはない。クラウスは最近週に一度は屋敷に帰る事が出来るようになったのだからもう、元の生活には戻りたくない。

この、若くて美しくて優秀なロザンヌに仕えた後に使えない国王に仕える事が出来よう?とクラウスは日々思っていた。


今では文句も言わず当たり前の様に国王の代わりに玉璽を片手に書類を読み込む王妃がいた。


「これくらいただの暇つぶしだから気になることではない」


ロザンヌは軽く言う。

当の国王は寵妃の所へ入り浸りである。

クラウスは不当な状態に持ち込んだのは自分であっても執務室に国王の影武者として座る優秀な王妃の側にいられる事を心から喜んでいた。


ロザンヌの手が僅かに止まった。一瞬で宰相は緊張する。


「クラウス、あなたの眼は節穴なのか?この様な書類をよく私に出せますね。何ですか?この造幣は、銅貨ばりが造幣されていると言う事は銀貨、金貨が全く動いていない…銀貨、金貨は一体何処に溜まっているのでしょう?」


宰相は少し青ざめる。その事に全く気が付かなかった。


「それは…」


「銅貨への両替が多いのは安価な物しか流通していない。高価な物は流通がしていない。ようは貴族らが資産を貯め込んで可能性があると言う事です。貴族らの夜会、茶会が減っていないか調べなさい」


「あっ、はい、すぐに…」


「この国の貴族は何の為の貴族か全くわかってない。高価な物を購入する事で布地から針子、宝石商、鉱山、商人の皆が潤う。夜会わ茶会に外国の来賓を呼べこの国に金を落としていく…それを備蓄するとは…」


と、ロザンヌらため息を吐く。ロザンヌが飾らない口調になるのはクラウスの前だけである。その事もクラウスにとっては優越感で満たされていた。

クラウスは早速、ロザンヌの要求した造幣の資料を集めに執務室を出た。

入り違いにメイドがロザンヌにお茶を運んで来たようだ。


(見た事がないメイドだ。新入りか?)


首を傾げながら横切るクラウス。

資料室に行く途中、メイド長を捕まえる。


「妃殿下にお茶を持って来たメイドがいつもと違う顔だったが新入りか?」


「いえ、そのような者は雇っていません。お茶なら今、私がお持ちしようとしていましたが…」


クラウスは、顔が青ざめた走って執務室に戻った。時はもう既に遅かった。


クラウスの目の前には執務机の上でロザンヌは既に息絶えていた。


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