会議室4
「佐藤センパイ、そういえば、アタシも相談したい事ありました。ここだと話しづらいんで、『会議室4』に行きませんか?(大嫌い)」
ちなみに会議室4はこの会社で1番小さい6人用の会議室だ。
佐藤センパイは少し戸惑ったように、
「か、会議室は密だから避けないと――」
とらしくない弱気な事を言うので、アタシが、
「窓を開けましょう。外気を取り込めば大丈夫ですよ(大嫌い)」
といつもと逆の立場になって説得する。
「わ、分かった。移動しよう……」
会議室4に入り、アタシは窓を大きく開き、そのまま窓側の1番奥の席に座った。
2M離れないと……。
佐藤センパイはどこかオドオドしながら対角線の1番入り口側に腰かける。
ああ。やっぱり佐藤センパイはカワイイなぁ。
アタシがそうやって佐藤センパイの事を眺めていると。
佐藤センパイの方から切り出した。
「ど、どっちの用件から話す?」
「では、アタシの方からで良いですか(大嫌い)」
「……ど、どうぞ」
アタシは最近考えていたことを話し始める。
「前から進めていたリモートワークの案が上に通ったと聞きました。おめでとうございます(大嫌い)」
「! あ、ありがとう……」
「それで、前にアタシが佐藤センパイにアイデアを出した、常にテレビ電話を繋げておく件は必須ではないと聞きました(大嫌い)」
「そ、そうだね。チーム毎にリーダーが決める事になってる。でも、この案は上の人には誉められたよ。ちゃんと吉田が出した案というのも伝えたからね」
「うちの課ではどうしますか?(大嫌い)」
「勿論、うちでは取り入れる予定だよ」
アタシは呼吸を落ち着けて、ゆっくり口を開いた。
「アタシだけ、テレビ電話のグループから外して頂くことはできませんか? 考えたんですけど、やっぱり都合が悪くって(大嫌い)」
「ど、どういう理由で?」
「いや、ちょっと個人的な理由で……(大嫌い……だから……)」
「! そ、そうか……」
お、我ながら意味不明な言い訳かと思ったが、佐藤センパイは思いの外、理由として受け取ってくれたようだ。
「こんな理由でいいんです?(大嫌い)」
「い、いや、まずいけど理解した。何か俺の方で説明考えておく」
「それは……ありがとうございます(大嫌い)」
佐藤センパイは何かひとりで納得している。
「それで、佐藤センパイの方は何に困っているのでしょう?(大嫌い)」
最後にアタシが佐藤センパイの悩みを解決してみようではないか。
アタシに出来ることなら。
今までお世話になった恩返しで。
佐藤センパイは躊躇いながら、漸く悩みを口にした。
「さ、最近、急にある人の態度が変わったんだ」
アタシは口パクで「(大嫌い)」と言いながら無言で次を促す。
「最初はその人は俺に好意が有るのかと思った」
「その人……というのは女性なんですか?(大嫌い)」
「う、うん。で、でも、本当に急に態度が変わったんだ」
「続けてください(大嫌い)」
「お、俺、実は読唇術が出来て……」
「はい(大嫌い)」
「む、昔の映画を見て憧れて……」
「それは凄いですね(大嫌い)」
「何を言っているかマスクしている位だったらわかるんだ」
「そうなんですね(……)」
えっ、……えええっ!?
え、そんな人、リアルで存在する訳無いよね!?!?
「その人はずっと俺としゃべる時とか、会話の途中で『大好き』って声を出さずに言ってくれていたんだ」
これ、アタシの事言ってる……!?
「ずっと俺の事からかってるんだろうかと思っていたけど……」
思っていたけど……?
「3日前くらいから言ってくれる言葉が『大嫌い』に変わって。それで、何か悲しげに見えて」
いやいや、結構楽しみながら「大嫌い」言ってましたよ。
「吉田――さん、コレ、君の事何だけど、心当たりある?」
ありますけどっ!
いやいやいや、あり得ない。
偶々好意を寄せた相手がそんなレア能力持ちってある!?
ここは悪いけど試させてもらいましょう。
「(佐藤センパイ大嫌い)」
「佐藤センパイ大嫌い」
!?!?!?
「(マジに分かるんですか?)」
「分かるんです」
サノ◯ビッチ!!!!!!!!!!!!!!!