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ミジンコ

　今日の佐藤センパイは荒れている。

　どうも上の方にリモートワークの導入を訴えて却下されたらしい。

　顔に出さないよう努力しているようだが、佐藤センパイ検定２級のアタシには通用しない。

　――ちなみにリモートワークとは、アタシたちのようなPG（プログラマ）やITエンジニアなどの職種の人が、オフィスに出社しないで、在宅だったり別の場所からオンラインで業務に就く働き方の事だ。

　アタシはそっと佐藤センパイに口パクで慰めの声を掛ける。

（要は声を掛けていないのだが。ノミの心臓ならぬミジンコの心臓のアタシでは慰めるなど無理だ。）

「（佐藤センパイが頑張っているのは、同じ課の皆にはちゃんと伝わっていますよ。佐藤センパイは頑張った）」

「（佐藤センパイのリモートワークの案、アタシは断然推していますよ。あれは良い）」

「（佐藤センパイはこんなブラック企業でよく上に頑張った方ですよ。偉い偉い）」

　アタシはこんな慰めの言葉を口パクで佐藤センパイに掛けてあげていたのだが、佐藤センパイがアタシの方を見ていたことに気づいた。

「佐藤センパイ、どうしました？（大好き）」

「い、いや、吉田が何か言いたいことあるんじゃないかと思って」

「特に……無いですよ？（大好き）」

　佐藤センパイは、

「そ、そうか……」

　といいながら、透明なフィルムの向こうから何かの資料を見せてくる。

「この提案書を見て、問題点を指摘してくれないか」

　リモートワークの提案書だった。

　ああ。前に佐藤センパイが「上に掛け合う」とか言っていたアレですね。

　うーん何々……？　目を細めて防護フィルムの向こう側の提案書を読む。

「……何でもいいんですか？（大好き）」

「！　な、何でも言ってくれ……！（小声）」

　アタシ的にはリモートワークじゃなくても問題はないし、佐藤センパイの近くに居れる分、今のままが良い。

　でも、以前に佐藤センパイが同じ課のメンバーの誰それの両親がご高齢だから――とおっしゃられていたのを聞いているので、素晴らしいと思ったのだ。

　ここは素直に佐藤センパイを応援したいと思う。

「では、僭越ながら……。リモートワークを導入する事での会社にとってのメリットが書かれていないと思います（大好き）」