【おまけ】(第一部最終話改稿前)デジャブ
第一部最終話の改稿前ver.です。
数ある別の並行世界の出来事という事に……。
サノバ○ッチ!!!!!!!!!!!!!!!
「(佐藤センパイ、いっそシんでーーっ!)」
「おわっ!?」
アタシはテーブルを回り込んでの渾身の右ストレートを佐藤センパイに放ったが、佐藤センパイは佐藤センパイのクセに躱した。
「(よけるなーーっ!)」
「吉田っ、頼むから、落ち着けっ!」
アタシは絶望した。
少し違う世界に行っていたようだ。
アタシの右手を佐藤センパイが抑えている事実。
これは濃厚接触ではないか。
そして、先程の記憶がよみがえってきて、気絶しそうになる。
いや、いっその事、してくれ。
「それで、吉田、さん。ちゃんと理由を教えてくれると嬉しい」
アタシはこの佐藤センパイという男をどうしてくれようかと考えてみたけど、本当に腹が立ってきたのでハッキリ言ってやった(口パクで)。
「(その前に――。新城さんとはどうなっているんですか? 付き合う事になってるんじゃないですか? それとももう付き合っておられる?)」
すると、佐藤センパイは驚いた顔をして、
「な、ないない! 新城さんとはなんとも無いよ!」
と弁解する。
「(そうですか? 新城さん、完全に佐藤センパイの事狙ってますよ。社内イチの美人と佐藤センパイ。佐藤センパイなんかモテないチョロインなんだから、即落ち間違いないでしょう!?)」
アタシは思わず大声を出してしまった――が、口パクなので実際には静かに息だけを荒くしていた。
すると――。
「あ、新城さんは、俺にとって、ありえないんよ!」
せ、佐藤センパイ――?
佐藤センパイの説明によると、実はマスクの下で、社内の多くの人が口パクで色々言っているらしいのだ。
アタシが知らない間に、ブラック企業×パンデミックという環境が多くのウチの社員をダメにしてしまっていたらしい。
例えば、ある営業部長はマスクの下で役員に対する罵詈雑言を笑顔でずーっと口パクしていた――。
隣の課の田中君は推しのアイドルに長い事会えないストレスから、そのアイドルに対しての妄想をずーっと口パクしながらキーを叩いているとか。
新城さんも例外ではなく、男を口パクで点数付けをしていたとの事。
佐藤センパイ的にはとても恐ろしい女性に見えたとの事。
あ、あ、あ、アブなかったーーーっっ!?
アタシだって普通に殿方に点数なんていつも付けてますけどっ!?!?
「そ、そんな皆がおかしくなっていく中、よ、吉田だけは普通――ではなかった、俺をからかってくれている様な感じで……それに癒されていて」
か、か、か、からかってなんて……本心だったんですけど。
「な、なのに、急に『大嫌い』って言われる様になってっ。何度も何度も笑顔でっ……俺、なんか嫌われる様な事しちゃったのか!? 理由を教えてくれっ、謝るから! 悪かった!! この通りっ!!!」
目の前の必死になっている佐藤センパイを見つめながら、この時アタシは、『アレっ? この風景前にも見たことあるような……?』という既視感のような感覚を覚えていた。
その時見えた風景の中には、アタシが男で佐藤センパイが女になっているものも見えた。
もしかしたら数ある並行世界のアタシと佐藤センパイ……?
――なんちゃって。
それらの風景を感じながら目の前の男の佐藤センパイを見つめていると、いつも以上に愛おしく想え、懐かしさまでも感じた。
「(さ、佐藤センパイ。アタシ本当は――)」
アタシは改めて佐藤センパイに本当の告白をした。
そしてこの後めちゃくちゃ濃厚接触した。
超ブラック会社であるウチの会社はリモートワークの許可が結局下りなかった。
上に通ったという話は一体何だったのか――。
佐藤センパイもアタシとそういう関係になったからか、上への訴えを妥協し、危険手当をもらう方向に舵を変更したようだ。
(佐藤センパイ、それってセンパイのポリシー的にどうなんですか? アタシはいいんですけどっ)
例の出来事以来、アタシはマスク越しに口パクでいうとバレる事が分かったので何も言えなくなってしまった――と言うことはない。
アタシはマスク越しに、秘密のメッセージを送ることを楽しみにしている。
「(佐藤センパイ、今日の帰り、途中まで一緒に帰りませんか)」
「(佐藤センパイの手、暖かいですね、濃厚接触ですね)」
「(章センパイのスケベ章センパイのスケベ章センパイのスケベ//////)」
「(あきらセンパイっ、――自主規制――!!)」
アタシは不謹慎だけど、このご時世とマスクと佐藤センパイに出会えた事、佐藤センパイが読唇術を覚える切っ掛けになった映画に感謝している。
佐藤センパイ、今度映画のタイトル教えてください。
今度、いっしょに見ましょう?
「佐藤センパイ、この書類チェックお願いします(大嫌い大嫌い大好き)」
~第一部 完~