時間逆行 Re:デジャブ
今日も、アタシは画面上の佐藤センパイの美しいお鼻を見ながら、粛々と爆速でキーボードを叩いていた。
時々、『あの時なぜ佐藤センパイに本当の告白をしなかったのだろうか』と考えてしまう。
そんな事を考えないように、アタシは仕事に、キーボードに打ち込んだ。
もうすぐ、国の出勤自粛要請期間が終了するという噂だ。
アタシはきっと何事も無かったかのように、自分の席に座ってキーを叩くのだろう。
画面の向こうの佐藤センパイに、もう告白する事はできない。
佐藤センパイは総務課の新城さんと付き合う事になったのだ。
あれほど怖がっていたはずなのにと理由を聞いてみると「ちゃんと話してみたら、意外にちゃんとしていた」だそうだ。
佐藤センパイはやっぱりチョロインだった!
気が付くと、つー、と涙が頬をつたっていた。
アタシは佐藤センパイに本当の告白をしなかった事にこの時、心底、後悔した。
でもどうしようもないのだ。
あたしは、おもむろにテレワーク中のPCの電源を落とした。
暗いモニターに暗い目をしたアタシが写っている。
「会社やめよっかな」
暗いモニターの中の暗い目をしたアタシを長いこと見つめていた――。
あれから、何度かサイレントにしているスマホが瞬いたが、しばらくすると静かになった。
不意に、モニターの中のアタシがブレる感覚があった。
この感覚は――。
『アレっ? 今までの、この瞬間までが……既視感?』
そんな長い既視感があるのだろうか。
アタシのアパートの自室が2重3重に歪み、かすれる中、アタシは突然、あの『会議室4』にいた。
「――、急に『大嫌い』って言われる様になってっ。何度も何度も笑顔でっ……俺、なんか嫌われる様な事しちゃったのか!? 理由を教えてくれっ、謝るから! 悪かった!! この通りっ!!!」
目の前の必死になっている佐藤センパイを見つめながら、この時アタシは、『アレっ? この風景前にも見たことあるような……?』という既視感のような感覚を覚えていた。
――いいえ、これは『既視感』ではないと分かっている。これは『時間逆行』――もう2度と訪れない蜘蛛の糸!
そして並行世界の無数のアタシ達が、男のアタシ達も、諦めようとしているアタシを口パクで応援していた。『ふざけんなオレっ! オレ諦めんな!』という心の声が聞こえた気がした。アタシも土壇場で読唇術を身に付けちゃったのかな?
――そして、この後アタシがやるべき事は分かっている。並行世界のアタシ達と声を合わせるように、アタシは言葉を絞り出した。
「「「「「「佐藤センパイ。アタシ本当は――」」」」」」
アタシが並行世界のアタシ達と声を合わせ、佐藤センパイに本当の告白をした瞬間、何重にぶれていた世界が1つに戻った。
アタシはあの時の『会議室4』に戻ってきていた。
「佐藤センパイ。アタシ本当は、――佐藤センパイの事が本当に大好きなんです」
アタシの頬を、次々に、涙がつたっていく。
~第一部 時間逆行 Re:既視感 完~
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