会議室3
「佐藤パイセン、そういえば、オレも相談したい事ありました。ここだと話しづらいんで、『会議室3』に行きませんか?(大嫌い)」
ちなみに会議室3はこの会社で2番目に小さい8人用の会議室だ。
佐藤パイセンは少し戸惑ったように、
「会議室は密だから避けないと――」
とらしくない弱気な事を言うので、オレが、
「窓を開けましょう。外気を取り込めば大丈夫ですよ(大嫌い)」
といつもと逆の立場になって説得する。
「分かった。移動しよう……」
会議室3に入り、オレは窓を大きく開き、そのまま窓側の1番奥の席に座った。
2M離れないと……。
佐藤パイセンはどこかオドオドしながら対角線の1番入り口側に腰かける。
ああ。やっぱり佐藤パイセンはカワイイなぁ。
オレがそうやって佐藤パイセンの事を眺めていると。
ああ来た。あの既視感が来た。
無数の佐藤パイセンが不安そうに対角線に腰かけてる。どの佐藤パイセンもカワイイなあ。ロングもショートもええなあ。男の佐藤パイセンも発見。男の佐藤パイセンも愛おしいなあ。あ、あっちは会議室4じゃね? ああ。このシーン知ってるしってる。この後、佐藤パイセンから切り出すんだよね。
――既視感治まった。
佐藤パイセンの方から切り出した。
「どっちの用件から話す?」
――ほら。
「では、オレの方からで良いですか(大嫌い)」
「どうぞ……」
オレは最近考えていたことを話し始める。
「前から進めていたリモートワークの案が上に通ったと聞きました。おめでとうございます(大嫌い)」
「! ありがとう……」
「それで、前にオレが佐藤パイセンにアイデアを出した、常にテレビ電話を繋げておく件は必須ではないと聞きました(大嫌い)」
「そうね。チーム毎にリーダーが決める事になってる。でも、この案は上の人には誉められたよ。ちゃんと吉田君が出した案というのも伝えたよ」
「うちの課ではどうしますか?(大嫌い)」
「勿論、うちでは取り入れる予定」
オレは呼吸を落ち着けて、ゆっくり口を開いた。
「オレだけ、テレビ電話のグループから外して頂くことはできませんか? 考えたんですけど、やっぱり都合が悪くって(大嫌い)」
「……どういう理由で?」
「いや、ちょっと個人的な理由で……(大嫌い……だから……)」
「! そうか……」
お、我ながら意味不明な言い訳かと思ったが、佐藤パイセンは思いの外、理由として受け取ってくれたようだ。
「こんな理由でいいんです?(大嫌い)」
「……いや、まずいけど理解した。何かわたしの方で説明考えておく」
「それは……ありがとうございます(大嫌い)」
佐藤パイセンは何かひとりで納得している。
「それで、佐藤パイセンの方は何に困っているのでしょう?(大嫌い)」
最後にオレが佐藤パイセンの悩みを解決してみようではないか。
オレに出来ることなら。
今までお世話になった恩返しで。
佐藤パイセンは躊躇いながら、漸く悩みを口にした。
「さ、最近、急にある人の態度が変わったんだ」
オレは口パクで「(大嫌い)」と言いながら無言で次を促す。
「最初はその人はわたしに好意が有るのかと思った」
「その人……というのは男性なんですか?(大嫌い)」
「うん。でも、本当に急に態度が変わったんだ」
「続けてください(大嫌い)」
「わたし、実は読唇術が出来て……」
「はい(大嫌い)」
「昔の映画を見て憧れて……」
「それは凄いですね(大嫌い)」
「何を言っているかマスクしている位だったらわかるんだ」
「そうなんですね(……)」
えっ、……えええっ!?
え、そんな人、リアルで存在する訳無いよね!?!?
「その人はずっとわたしとしゃべる時とか、会話の途中で『大好き』って声を出さずに言ってくれていたんだ」
これ、オレの事言ってる……!?
「ずっとわたしの事からかってるんだろうかと思っていたけど……」
思っていたけど……?
「3日前くらいから言ってくれる言葉が『大嫌い』に変わって。それで、何か悲しげに見えて」
いやいや、結構楽しみながら「大嫌い」言ってましたよ。
「コレ、吉田君の事何だけど、――心当たりある?」
ありますけどっ!
いやいやいや、あり得ないって。
偶々好意を寄せた相手がそんなレア能力持ちってある!?
ここは悪いけど試させてもらいます。
「(佐藤パイセン大嫌い)」
「佐藤パイセン大嫌い」
!?!?!?
「(マジに分かるんですか?)」
「分かるんです」
◯ーーーーーッデム!!!!!!!!!!!!!!!