解への過程
ユーリーは完全に憔悴しきっていた。
いろんな方法を試したがいずれもうまくいかない。しかしユーリーには、世界の破滅に対してこのまま手をこまねいている余裕はなかった。
「そういえば、マリーに親族はいないのだろうか」
親族なら何らかの事情を知っているだろうが、しかしモルデンツ家と言えばメール財閥の印象しかない。
「マリーがメールの家の人間ならば、余程不仲でない限りメール家の者が豪勢な墓を建てるはずだ。しかしK・G州のあの古びた墓からはどうもメールとの関連性を見出せない。しかし他に血のつながった人はいないはず...」
待て、違う。
ユーリーは目をかっぴらいて、本の山の中から「モルデンツ家の呪い」を手に取った。
「デイビッドの家系だ!!」
ユーリーは解決の糸口を探り当てたことに興奮を抑えきれず、無意味に書斎の中をぐるぐると歩き廻った。
「デイビッドの子孫なのかもしれないんだ!!」
彼はデイビッドの子孫について書いてある項目を舐めまわすように読み返した。
「デイビッド、メイ、サラ、ケイシー、エルマ、ヘナ...おい、次はどうした」
ヘナ以降の子孫についての記述がない。
「クソ...いいところで役立たずになりやがって」
落胆したユーリーは、音を立てて本を閉じた。
ふと、背表紙を見る。
「そういえば、作者名が非公開なんだな...」
思えば、第1のモルデンツ家についてここまで詳細に記している本は他にない。
どうやって資料をそろえ、情報を集めたのだろうか。並外れたリサーチ力だ。
「もしや、この作者、第1のモルデンツ家と繋がりのある奴か...?」
この作者に訊けば何かしらヒントが得られるかもしれない。
ユーリーは明後日、出版元の帝央書房本社へ向かったのであった。
―――
「あの、すみません」
受付の女性はユーリーの声に驚いて目を見開いたが、「失礼しました、何でしょうか?」と返す。
「この本の作者さんと話がしたいんですが、連絡先とかわかりませんかねえ」
「えっ...『モルデンツ家の呪い』ですか...?少々お待ちください」
そう言って周りにいるほかの嬢とガヤガヤ話し合った後、パソコン画面をガタガタと打ち、どこかに内線をかけて神妙な顔つきで喋った。
受話器を下ろし、ユーリーの方を見上げて
「文化部魔術課に在籍している当時の担当職員を呼びましたので、あの、詳しいお話はそちらでお願いいたします」と言う。
「それはどうも」
ほどなくして、例の担当職員と思しき中年女性がユーリーのもとへやってきた。
「こんにちは、出版当時担当をしておりましたアレクサンドリア・クラインと申します...」
「これはお仕事中失礼します、あの、『モルデンツ家の呪い』についてお聞きしたいことがあって...」
「ええ、伺っていますわ、よかったら後30分程待っていてくださいませんか?仕事を終わらせて、ゆっくりお話しできますので」
「ええ、勿論です」
クラインを待つ間、ユーリーは何だかソワソワして、自動販売機で缶コーヒーを二つも買って飲んだ。
―――