第2章 弐
第3項 禁忌魔術(黒魔術)について
いくら万能の正当魔法とはいえ、その活用は十分な倫理観と誠実性を備えた者にのみ許されるべきものだ。
モルデンツ家においても、横暴な人間が魔法を扱ったために人命が奪われることがあったという。
正当魔術書には一応禁忌魔術の解説がなされているが、魔法庁の指令のとおり、現代において禁忌魔術の使用は違法である(教育・研究機関などでの特別な事情を除く)。
遊びで詠唱したら取返しのつかないことになるので、諸君も十分注意してほしい。
また正当魔法協会は、魔法取扱資格の制定に向けて尽力しているようだ。この資格は、正当魔術を取り扱う上での適性検査とともに、取扱者としての倫理、そして正当魔術の歴史、分類に関して問われる予定だ。おそらく制定間近の魔術法(仮)に関する問題も出題されるだろう。...
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ビルは勢いに任せてここまで読み進め、栞を挟んだ。
猫が鳴く深夜2時。寝不足気味のビルは明日の仕事に備え、寝床に体をねじ込んだ。
一方。全ての真相を知ってしまったユーリーは、あれから毎日マリーの墓に参っている。ユーリーの秘書や部下は、「最近のユーリーは怯えたような仕草ばかりする、どうしたものか」と嘆きあっている。彼らは無知ゆえにのんきなことが言えるのだ。
「もうすぐ世界が終わるとは、誰も知らないのだ...僕は...僕は」
仕事終わりの彼は正当魔術書の複製本、大学の魔術教科書、その他あらゆる<魔術もの>を書斎にぶち込み、食事も忘れて、あの「伝染する死の魔法」をどうにかして食い止められぬか苦悶した。
どれだけ研究しても、文献をあさっても、コンピューターでシミュレートしても、毎回結果は同じ。
「この魔法に対する有効な解除法、対抗魔術を検出できませんでした」
「この魔術の解除方法は非公開である」
「シミュレート失敗」
それでもユーリーは、どこかに解があると信じて健気に挑むのであった。彼を突き動かすのは、ドス黒い罪悪感と、尊大な恐怖心のみだ。