第2章 壱
第2章
第1項 第1のモルデンツ家の消息
さて,弟方とは正反対に,兄方については文献が非常に少ない。世間でも離散したといわれているほどだ。
ただ,私が入手した文献によれば,
セレン公の死後,その息子であるデイビッドは町外れでひっそりと生活していたようだ。彼は3人の娘を持ち,長女を跡取りにするため婿を迎えたという。
長女メイは娘2人を産んだ。メイの長女サラにも婿が迎えられた。サラはケイシーという娘1人を産み,ケイシーはセレン時代からモルデンツ家に仕えていた家臣の家の男子を婿に迎えることになった。
ケイシーは日記の中で,「我々の家には女しか産まれない。私は,クロン公が我々に禁忌の黒魔術を用いたという仮説を立てている。これが事実であれば,血を分けた者同士とはいえ許されないことだ。我々の心はかのステッキと,セレン公,ガブリエレ公の御加護にのみ向かう」と述べている。
ケイシーは娘2人を産み,長女のエルマに婿を迎えた。
エルマはビッセル市の市役所職員を経た後,一人娘をもうけた。
娘のヘナは大学講師としてシュメルク語を教える傍ら,極秘に「魔術解析」という新しい分野を編み出した。ヘナの手記の中に,以下のような記述がある。
「私は自分自身に魔術をかけられていないか確認したところ,禁忌の黒魔術の一つである『シラモンテ・スバン』―産まれる子どもの性別を操作する魔術と,『ハンナムスコッテ』―かけた魔法を子どもにも受け継がせる魔術にかかっていることが判明した。しかし,もう一つ,一般魔術の中の『セルバクソン・イクサム(イクサムは強化文言)』―即ち病を遠ざける魔術もかけられていた。私の母,祖母も同様であった。だが父には,魔術病院でかけられたであろう『セルバクソン』と猫アレルギーに対抗する為の『ギロンド・カト』がかけられているのみだった。
禁忌の黒魔術をかけるのは,現在違法とされている。
私の祖母は,我々はクロン公に黒魔術をかけられたという仮説を立てていたが,今回の解析でその仮説は支持されたことになる。
なお,私は死ぬまで『魔術解析』を公にしないつもりだ。これは悪用される可能性がかなり高いので,モルデンツ家の中で一子相伝とする。」
第2項 魔術ステッキの行方
さて,ガブリエレ公の時代に遡るが,彼が東方の老人から貰ったステッキは,未だ行方が分からない。
「正当魔術書」やマスターのマントなどは既に見つかっているが,そのステッキだけは所在が明らかでない。
(2017年)現在のメール財閥総裁のメール・アマンヌ7世の話によると,兄弟分裂が起きた際には,セレン公の死後,クロン公は幾ら探してもステッキを見つけ出せなかったという。即ち,セレン公の息子,デイビッドの元に渡ったのではないかとアマンヌ氏は話す。
(アマンヌ氏らはステッキの「返還」を求めて活動を行っているようだ。)
(著者個人の意見ではあるが、アマンヌ氏らがステッキの行方を深追いする必要はないと思っている。)
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