行き止まり
一時間、一日、一週間、一ヶ月。
一年……歩き続けた。
ひたすら、歩き続けた。
震えた右手で銃を持ち、構えた頃が懐かしいとさえ思える。
どこで擦りむいたかわからない新しい傷に、かつて切った傷痕、手に巻かれた血で薄汚れた包帯。
同じ様に破れ、中身が出つつあるダウンジャケット、土か埃か黒く汚れたそれに身を包み、それを見やればつくづく文明人が居れば笑われそうな格好だ。
……まあ、そんなことを考える必要なぞ、ないだろうが。
背中に背負ったバックパックが今日はなぜか重たかった。
前へ進もうにも、足も鉛の様だ。
けれど気分は良かった。
理由は言うまでもない――言う相手もいないが――強いて口にするならば、この無意味な旅の終わりが、そこにあるからだ。
希望か絶望か。
それはこの二つの眼で見た後にわかる。
一歩、また一歩と足は進む。
ゆっくりと、だが心は踊る。
――――最後の、一歩。
その一つが異様に長く、浮いた足裏に地面の感触を伝わらせるのに、数時間という時が流れたようにさえ思えた。
転がった石が、ふっ、と無くなった地面の先へ。
冷たい風が、額を流れていく。
希望か絶望か。
私はそれをやっと……目にできた。
荒れた土地、荒んだ人の心、死して尚歩く者達。
けれど……けれど、私の目前には煌々としたネオン、嗅いだ事のある排気の臭い、長らく見てこなかった人々の喧騒が、あった。
捨てず良かった、信じて良かった。
私がこれを、ただ知らなかっただけだ。
なぜ、あの場所だけ文明が残っているのか……そんな事はどうでもいい。
周囲を見る必要も、注視する必要もない。
私は右手に握った拳銃を強く握りしめた。
そして、銃口を口腔へ突っ込んだ。
躊躇うだけ、無駄だ。
男の亡骸が、地面へ伏した。
血が破裂した水道管の様に噴き出る。
最後まで男が感じた感情は、絶望、それだけだった。
希望を抱き、文明が破壊されたあの日から、ただ必死に生きていた男が最後の最後まで感じたものは、絶望。
当然と言える、だろう。
元々は繋がっていた筈の、男が歩いていた道路は、目的地の目前で大きく抉れていた。
それも濁流が流れる川を挟んだ、決して一人では渡れない川。
信じた、よりも信じる事が、男にとっては幸せだった。