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SCENE850  作者: ぽんこつ
エスパーリミット850秒!
17/82

エスパーリミット850秒!―1

 突然だけど、告白しよう。

 私、朝倉真美子あさくらまみこは超能力者である!


 ……といっても、使えるのは一つだけ。


 一日に三回、三分だけ少し先――具体的には850秒後の未来が見えるのである。


 どうも東北にあるかぐや姫? みたいな伝説やら不思議な昔話が残っているお母さんの出身地ではそういう人が稀にいるらしい。


 だから、私が幼い頃にこの能力を自覚し始めて打ち明けた時も大して驚かれはしなかった。

 お母さんいわく「正直未来なんてわかってもどうしようもないしねー」とのことだ。


 その時はそんなことないのにとも思ったが、年を経るにつれてなんとなくその意味がわかってきた。


 850秒後の未来がわかる。


 未来予知といえばかっこよく聞こえるが、実生活で超能力なんてたいして役に立たないのだ。


「うーす、じゃあ今日はまず小テストからだぞー」

「えーーー!?」

「ほら、さっさと机の上を片付けろー」


 例えば、今。


 冬の肌寒い教室。数学担当の明石先生が一時限目からいきなり小テストを始めると言い出して、クラスのみんなは不満気。うちは一応市内でもそこそこの進学校なのでこういうことがたまにあるんだけど、私はうろたえない。


 なぜなら、私はチャイムが鳴る前の休み時間に見ていたのである。

 明石先生が小テストをおっぱじめる850秒後の未来を。


「お前らぐずぐず言うなー。入試本番は待ってと言われても待ってくれないんだぞー、ほら、始め! 9時10分までな」


 そう宣言され、クラスのみんなが慌てて問題を解き始める中、私は裏返しにされた答案用紙を優雅にひっくり返しさらさらとシャーペンで右上に氏名を書く。


 そうして問題へと取りかかり始め……そのまま5分が経過。


 皆様、お気づきだろうか?


 そう、別に850秒――約十四分後に小テストがあるのがわかったところでどうしようもない。

 なにせ問題の解答まではわからないのだから。


 あー、これから受けるテスト0点取るな……という覚悟が完了するだけなのだ。


「よーし、集めるぞー。後ろから回せー」


 そのまま無慈悲に時は流れ明石先生の非情な声が響く。

 教室は阿鼻叫喚とまではいかないけど、どことなくみんな諦めムード。


 良かった。この感じだと私以外にも一問も解けなかった人いるでしょ、たぶん。


「これは基礎問題だからなー。もう高2の冬なんだし、解けなかったやつはきっちり復習しとけよー」


 ……いや、どうだろう。


 ちなみに私の数学の成績は5段階の評価の2。

 つまり、ぎりぎり最低じゃないレベルなのだけど、まあ、そういうことにしたい。いや、そういうことにしよう。


 だけど、こんな能力でも少しは使い道があったりする。


「まみー、アカシーの小テスどうだった?」

「サイアク! マジで一問も解けなかった!」

「あー、まみ数学やばいもんねー」

「ちょっと! わかってて聞いてるでしょ!」


 数学の次の休み時間。

 隣の席のサッチーが早速さっきのテストの感触を聞いてきた。サッチーは去年も同じクラスで部活も同じ写真部。高校では一番仲良しだ。


「そういえば昨日ホッシーの新曲PV上がってたよね!」

「あー! あれでしょ!? めっちゃ良くなかったー?」

「だよね!」


 ホッシーとはサッチーが最近一押しの男性シンガーソングライター。サラリーマンをやりながらネットに動画を上げているうちに徐々に評価され、メディアへの露出は少ないものの今では日本で一番楽曲が再生されているという異色の経歴の持ち主だ。

 若い子の間ではけっこう人気があるし私も好きだけど、はっきり言って昨日の聞いた新曲は微妙だった。


 だけど、そんなことは正直に言わない。


 なぜなら数学の授業が終わる前に見ていたのである。私が遠回しに微妙だったことを伝えて、サッチーが少し不満気になる850秒後の未来を。

 こればかりはあまり役に立たないこの能力に感謝だ。代わりに授業の最後の方はあまり聞いてなかったんだけど。


 でも、今日はもうこの力は使えない。

 なぜなら、絶対に850秒後の未来を知らなくてはいけないビッグイベントが控えているのだ。


「そういえばさ」


 サッチーはそう切り出すと、声のトーンを落とし、周りに注意するような素振りでこそっと本題に移る。


「篠山先輩の件、どうすんの?」

「あー」


 篠山先輩は写真部の先輩。

 部活にはもう来てないが三月で卒業してしまう。


 そして、私の本日のビッグイベントの相手。そのご本人なのである。


「一応今日の昼休み部室に来てくれるようラインした」

「マジ!?」

「うん。今日……コクる」


 そう宣言するとサッチーはなぜか私よりテンションが上がる。

 まあ、この手の話は誰でも好きだから仕方ないか。


「でも、その割にはテンション普通じゃない?」

「う~ん、いやまあ、そうかなぁ。なんかあんまり緊張してないんだよねー」


 だけど、サッチーの言う通りそのビッグイベントの当事者である私は、なんだか自分でも不自然に思えるくらい自然体だ。明石先生じゃないけどこれが受験とかならベストコンディションなのかもしれない。


「お、自信ありって感じー? 余裕だねー」

「べつにそういうわけじゃないんだけど……」


 私がうーんと唸り釈然としない感じで答えると、サッチーはぽんぽんと頭を軽く叩く。


「まあ、もしダメだったら週末食べ放題おごってあげるからドンと行きなさい」

「えっ!? じゃあ、むしろダメでいいかも!」

「いや、あんたねぇ……」


 思わず食い意地を覗かせてしまう私の言葉とサッチーのため息が重なった時だった。


「おーい、朝倉。なんか弟君が来てるぞー」

「えっ? ほーい」


 そう呼び掛けた最後尾の席の男子が指差す先。開け放たれたスライド式ドアの向こうで不満気な顔をした一年の男子が立っていた。


「どうしたの和樹(かずき)? 人生相談?」

「そんな重い話廊下の立ち話で済ますわけねえだろ、ほい」


 そう言うと男子――滝畑和樹たきはたかずきはずいっと袋に包まれた重量感たっぷりの物体を突き出してくる。その正体はいつも昼ごはんを食べてるグループの皆から「解体場のおやっさん弁当」と非常に不名誉な名前がつけられている我が母の愛が詰まった弁当だ。


 それはともかく。

 今朝リビングの上にあったその弁当が今目の前でぶら下がっている理由は一つしかない。


「いやぁ、毎度ご苦労様です。印鑑ないんでサインでも大丈夫ですか?」

「……俺は宅配サービス始めた覚えないんですけど」

「じょーだん、じょーだん。いつもお母さんが頼んじゃってごめんねー」

「その原因を作った張本人とは思えないすがすがしさだな」


 どうやら予想通り。

 話を聞くと、私が弁当を忘れたのに気づいた母がこれから登校しようとしていた和樹に持っていってくれないかとお願いしたらしい。


「てか、俺なんで未だにまみ姉の弟になってるわけ?」

「説明がめんどくさくて」


 ちなみに名字からもわかるように別に私と和樹は姉弟でもなく親戚というわけでもない。

 家が隣同士なだけの他人。漫画とかでよく見る幼なじみというやつ。


 でも、ずっと家族ぐるみの付き合いもしてきたし他人っていうのはちょっと違う気がする。

 それよりももっと近い。それこそ私にとって弟みたいなもんだ。

 だから、ある意味この勘違いはけっこう当たっていなくても遠からずだと私的には思ってる。


「まあ、いいじゃん。これからもよろしくねー」

「あー、へいへい」


 私がそう言って見送ると和樹はそのまま視聴覚室のある西棟の方へ向かって行った。どうやら移動教室の途中だったらしい。


「あー、危ない。昼ご飯忘れるところだった」

「いや、忘れてたんでしょ、実際。てか、昼休み部室で先輩待たなきゃいけないのにその量食べれんの?」

「……まあ、なんとかなるよ」


 その背中を見届けてから教室の自分の席へ戻り、いそいそと机の横に引っ掻けている鞄に弁当をしまうところでサッチーに突っ込まれる。


「あれ、例の幼なじみくんだっけ? あの子も大概かわいそうだよね。優しいから損してそう」

「そう! なんやかんや言いつつもいい子なんだよね、和樹は。どう? 今ならたぶんフリーだよ」

「えー、いい子そうだけど別にそういう対象にはならないかなぁ」


 サッチー切れ味鋭い!


 と思いつつも、確かに和樹は童顔で身長も私よりちょっと高いぐらいで別に目立つ運動部という訳でもない。人のことを言えた質じゃないが、残念ながらあまりモテるとも言い難い容姿だ。


 だけど、成績はああ見えてトップクラスだし、まだ小さな私の妹の扱いもうまい。将来的にはいい旦那になりそうな投資物件なのだが、世の中うまく需要と供給のバランスが取れないものである。


「それに……」

「ん?」


 サッチーは私の方を見て何か言いたげだったけど、会話を遮るようにチャイムが鳴り同時に古文の先生が入ってくる。そこで会話は打ち切りになった。

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