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第八話 呪いは鶏のようにねぐらに帰る

 マルツェルの眉間にしわが寄せられる。担いでいたラッパ銃を構えると「ナメてんじゃないわよ」と静かな怒りを燃やして引き金を引いた。今度は派手に店が吹き飛んだが、リリオラは一瞬のうちに店主とフェヴローニャ、ドミニクの三人を自分の傍に引き寄せて、マルツェルが放った弾丸の全てをぎりぎりの距離でフェヴローニャに防がせた。

「ドミニク、二人を連れて安全な場所まで行け。マルツェルは私が殺す。十五分ほどで片付けるから、そのあとはお前のいうパンケーキとベーコンを奢ってもらおう。もちろん高級なものをな」

 彼女の指示にドミニクは「わかりました」と頷き、フェヴローニャと店主の男を連れて場を離れていく。残ったリリオラは、マルツェルたちの前にマスケット銃を握り締めて立ち上がり、「ようやく遊んでやれるな」と犬歯をむき出しにして笑った。

「バリー、あなたは連中を追いなさい。このちんちくりんはあたしが相手しておくから」

「……チッ。相手はリリオラだぞ、死んでも責任は取らないからな」

「んもう、あなたっていつもリリオラのこと怖がってるわねぇ。大丈夫よ、負けたのなんて昔の話だから」

 バリーと呼ばれた男はまた頭をがりがりと掻いて、リリオラと目が合うとため息を漏らしてドミニクたちを追いかけていった。リリオラはそれを止めもせず、マルツェルと向き合って「自分で命綱を切るような真似をするとはな」とせせら笑う。

「失礼しちゃうわ。言ったでしょ、昔とは違うの。術式の性能を最大限まで引き出すことが、今のあたしにはできる。あなたはどう、リリオラ? 自分の才能に怠けて、こんなところでコーヒーとケーキなんてずいぶん余裕ねえ」

「もちろん私は天才だからな。お前たちのように努力をしなければ……おっと失礼、努力をしても大した結果にはならなかったような連中と一緒にしないでもらいたいものだ。惨たらしく殺したくなってしまうだろう?」

 今度は言葉を返すことなくマルツェルは引き金を引いた。本来は再装填しなくてはならないはずのラッパ銃から無数の弾丸が飛び出す。それをリリオラは動揺もせずに、その範囲のぎりぎり外側へと避け、壁にあいた穴から脱出をして走り出す。

「あら、逃げる気? 達者なのは口だけかしら、リリオラ。まあ逃がしたりなんかしないけどね」

 マルツェルは彼女を追いかけていく。周囲にいる人々に構いもしないで何度だって引き金を引いた。そのたびに銃を彼の腕から発生したと思しき青白い光が纏わりつく奇妙な光景が見られた。

 町中は大騒ぎになっていたが、マルツェルは被害に構うこともせず、リリオラを執拗に追いかけて射撃を続ける。耳を貫くような悲鳴の数々を彼は自分を讃えているかとばかりに恍惚に満ちた表情で歩いた。

「さあさあ、どこまで逃げる気かしらねぇ? 臆病者のリリオラちゃんは。いい加減飽きてきたわね」

 時折、リリオラが振り返ってマルツェルの追跡を確認しながら逃げていく。しかしそのうち、彼女は近くの地下駐車場へと駆け込んだ。頼りない照明がやわに照らす地下の中、まっすぐ進んでいくと壁に突き当たり、そこでぴたりと足をとめる。

「はい、残念。行き止まり。観念して死になさいな、リリオラ。あなたの運もここまでよ。……ふふふ、最高だわ。あなたの肉がばらばらに飛び散るのをこの目で見届けられるなんてね」

 口を広げたラッパ銃はリリオラを捉えている。マルツェルの腕から放たれる青白い輝きは緩やかに銃へと纏わりつき、彼は歯をむき出しにした気味の悪い笑みを向けながら、引き金にかけた指に力をゆっくりとこめていった。

 無数の弾丸が破裂音と共に飛び散る。当たれば蜂の巣は免れない――いや、マルツェルの使うラッパ銃の場合に限ってはカタチがまともに残るかどうかすら怪しいほどの貫通力と威力を誇っている。背中を向けたままのリリオラはそれを視認などできず躱す手段も持たない。彼は確実に殺せるという自信からその光景を目に焼き付けようと見開いて、驚愕した。

「な……んです、って?」

 放たれた弾丸。その全てが、リリオラの傍まで飛んで空中に浮いたまま静止したのだ。だがマルツェルが驚いたのは止まったことそのものではない。先ほどはフェヴローニャにとめられたことも踏まえてリリオラも最低限の何かしらの対策はしているはずだと考えた彼は、つまり術式の性能を自分にできる限界まで引き出して撃ったのだ。

 にも関わらず、それは容易くとめられてしまった。

「いい顔だ、私の期待通りで実に素晴らしい!!」

 リリオラはゆっくりと振り返る。そしてぱちぱちと手を叩いて讃えて満足がいくとパッと手を広げ、にたぁと笑った。

「気分が良すぎてもう少し眺めていたいくらいだが、そろそろ惨めに死んでもらおうか、マルツェル?」

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