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狼は哭かず牙を剥く  作者: 智慧砂猫


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第六十話 志ある者は事竟に成る

「なん、だとッ!? どこにそんな魔力が――ッ!」

「耳障りだ、と言ったはずだが?」

 ディオールとリリオラ。魔力を比べれば当然ディオールのほうが上回り、発揮できる限界も違う。ただし限界まで(・・・・)の話だ。リリオラの異質さに彼はすぐに気づいたことだろう。

(こ、これは……箍を外したのか!? 自力で、術式もなく!? ありえない。術式を使ったとしても、理性の崩壊や肉体的な負荷の掛かり方が常識を外れている。それほどに無理のある行いだ。なのにこいつはなぜ、意識を保っているッ!?)

 初めてだ。初めて、彼は退いた。損傷を受けた肉体を即座に再生させ、リリオラを相手に距離をとったのだ。すぐさま展開式を用いた魔力の強力な結界を張って、リリオラの追撃に備えてみせた。しかし、それがまずかった。

「こんなにも怒りを覚えたのは初めてだ」

 上着の胸ポケットの中から取り出した八枚のドッグタグを宙に放り投げ、彼女はマスケット銃を構える。微量の魔力を帯びたタグは彼女が構えた銃の射線上にずらりと等間隔に並んだ。瞬間、リリオラの体から黄金色の巨大な魔力が放たれ、銃の中へと収束して消えていく。やがて銃そのものが黄金色の輝きを帯びると、彼女はタグの向こう側にいるディオールへと精確に狙いをつけ――引き金を引いた。

「――詠唱式。〝牙を研げ〟、〝牙を剥け〟、〝唸り声を上げろ〟」

 発射された魔力の弾丸は、ひとつ詠唱が進むたびにドッグタグを撃ち抜きバラバラに砕いていく。ひとつめはドミニクから回収したタグ。ふたつめはフェヴローニャ、三枚目はマルツェルから回収したものだ。さらにリリオラは詠唱を続けた。

「〝食らいつけ〟、〝食い千切れ〟、〝噛み砕け〟」

 四枚目はバリーから、五枚目はフランシスから、六枚目はユアンから。次々とバラバラに砕かれる。そのたびに、黄金の輝きをした魔力の弾丸は巨大になる。そして黄金は虹色の輝きへと変わって渦巻くように突き進んでいく。

「〝食い破れ〟そして――〝呑み込め〟!」

 七枚目にクルシュルツのタグを割り、最後にはリリオラ自身がずっと持っていた狼の刻まれたタグを撃ち砕き、虹色に輝く魔力の弾丸は巨大な槍のような光りの渦を纏いながら、ディオールが張った分厚い魔力壁へと直撃する。その衝撃だけで部屋が崩壊を始めるほどの破壊力で、お互いにとってここが勝負の分かれ目となるだろうとは、もし誰かが目撃していたならば即座に理解する状況だ。

 ……先に音をあげたのは、ディオールの魔力壁だ。弾丸の威力に徐々にひび割れ始め、ついには完全に崩れ去り、ガラスのように飛び散って消滅すると同時に弾丸はディオールの胸に直撃する。踏ん張る力に床をごりごりと抉りながら彼の体は押されていく。

「おおぉぉぉおおぉッ!! ばかな、私のほうが、押し負けるだと!?」

 胸を突き破り、虹色の輝きは彼の体内へと消える。衝撃波に一瞬、意識が飛びながらも耐え切ったディオールは、跪き、ぜえぜえと苦しそうな短い呼吸を繰り返しながら、遠くに立つリリオラを睨んだ。

「こ、こんなことが……許されるとはな。想定外の、一撃だった。危うく塵も残らないかと冷や汗ものだった。しかし業腹ではあるが、今ので君の魔力も、底を突いたようだな……。であれば……やはり……私の勝利、らしいな!?」

 ふらふらと立ち上がり、自分のなかで再び魔力が生成されるのを感じながら、一方でその気配すらない立ち尽くすだけのリリオラに、彼は勝利を確信して叫んだ。

「何を言っている? お前の負けだよ、ディオール・ヴィーグリーズ」

 直後、彼の胸に再び、穴が開いた。虹色の輝く球体が突如彼の体の中から現れると、それは部屋の中心部、高い位置に留まった。「な、なんだこれは?」とディオールは眺めているうち、ふと自分の異変に気づく。

「ま、まさか、リリオラ、今の術式、まさかッ――!?」

 彼のぽかりと開いた体の穴。痛みはない。ただ、そこから彼の魔力という魔力が青白い輝きとなって虹色の球体に吸収され始めていく。さらにその青白い輝きの中には核のように輝く白い光が存在し、それらも虹色の輝きへと溶けていった。

「生きた人間の魂を核として体内で魔力生成のリソースに使うことができるなら逆も可能だ。お前の中から核となる魂を取り除き、お前自身の体にあるすべての魔力を以て〝在るべき世界と在るべき時間を取り戻す〟。それが私の目的。私の願い。ドミニクが繋いでくれた希望だ。ディオール・ヴィーグリーズ。我が恥たる血肉を分けた兄よ」

 リリオラの術式は、時間と空間に干渉する究極の魔術。数百年を掛けてようやくたどり着いた大偉業。ディオールという男への唯一の対抗手段。ドミニクが繋いでくれなければ叶わなかった願いを、彼女は今、まさにここで掴み取った。

「……覚悟しろ、お前のかつてから続く歴史もここで摘み取ってやろう」

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