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狼は哭かず牙を剥く  作者: 智慧砂猫


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第五十六話 鎧袖一触

 その弾丸の威力たるや容赦なく直線上に町を吹き飛ばし、ふたつの人形を残し、弾丸に繋がれているかの如く貫かれたフィリアの体も辿るように吹き飛ばされていく。分厚い建造物の壁を幾枚もぶち抜き、石畳を抉りながら。

「そん、な、ばかな……あんな小娘に……ィ……!?」

 何度も叩きつけられては跳ねた体。腕も足も片方ずつをもがれ、運よく繋がっていた足はあらぬ方向へと曲がっている。びくびくと痙攣し、生きているのが不思議な状態で、フィリアは血反吐を吐きながらも未だ呼吸を続けていた。

「なあんだ、まだ生きてんの? あんた、やっぱりその頑丈さ、ただの人間じゃなかったのね。首から下は精巧に人間を使って作られた紛い物の体、ってとこかしら。術式はどこにあるの、もしかして眼球の裏側だったりする?」

 冷めた瞳。穏やかな表情からは想像もできないほど殺意が込められた視線。ツインテールに結っていた髪は、いつのまにかリボンが解かれ、腰まで伸びた美しい金髪が僅かに射した陽光に神々しく輝いた。

「でも、おしまい。だって、いくらきれいに、本物そっくりに作ったって、結局はただの人形。望まれず、壊されれば、ただの惨めなガラクタだものねぇ!?」

 怒りが臨界点を超えた――いや、そんな言葉では生ぬるい。目の前に立つのは、まるで鬼だ。悪鬼羅刹だ。凍えるような殺意を全身から放ち、黄金色に輝くリボルバーのハンマーを下ろし、がちゃりと重たい音を響かせ、牙を剥く姿はまるで獣――狼のような猛獣のそれだ。今にも喉を食い破らんとする意志が強烈な圧迫感を与えた。

 それでもフィリアは「なめるな……! あんたみたいな小娘なんかに殺されてたまるものですか……!」と悪態を吐き、まだ健在の左腕を持ち上げる。ぴんと張った魔力の糸は、まだ人形に繋がっていた。

「〝刻印展開式・魂魄転移〟」

 突如、フィリアのからだはかくん、と意識を失ったように倒れて、それきり動かなくなる。そこで、フェヴローニャは気づいた。彼女の魂が魔力となって糸を伝い、そしてフランシスが横たわる場所、すぐ傍に寝転がっていた人形、ソールとマーニにそれぞれ移ったのだ。フィリア・ドールという女にしかできない〝禁忌〟のひとつ。魂そのものに術式を刻む特殊な展開式だ。しかも魂を分割することで、どちらか一方が消失してもどちらか生き残ったほうに吸収されるため、制限付きとはいえ僅かに不死性を持つことになる。遠く離れた場所にいる、ただそれだけでフィリアの生存は確約されたようなものだった。

 ――だが、しかし。

「……逃げられる、と本気で思っているのかしら。見えているわ、すべて、すべて、どこまでも彼方まで。一度狙いを定めた獲物(・・・・・・・・・・)は確実に仕留める。そこに価値がある限り、私は必ず追い詰めてやるわ」

 今のフェヴローニャにはすべてが見えている。どれだけ遠く離れていても聞き分け、どれだけ遠く離れていても見分け、どれだけ遠く離れていても気配を視覚化する。

「――詠唱式。我が雷の咆哮よ、その意志を以て栄光を掴め――『雷神の鉄槌(トール・ハンマー)』ッ!!」

 雄叫びともとれる声が上がると同時に、目視では捉え切れない速度のファニングによって放たれた四発の弾丸が雷光もさながらの輝きを帯びて発射され、風を引き裂き、土くれの壁を粉々にして、まっすぐ、障害物などそこにないかのように、狙いを定めた獲物へと向かっていく。気づくはずなどない。逃走を図り、見えもせぬモノに恐怖や警戒を抱くものがどれほどいようか。距離があると分かっていればなおさらに。

 はるか遠くを駆け、まんまと逃げおおせたと勝利にニヤつくフィリアの背後に迫ったその輝きに気づいたときには、もう遅い。一瞬目を剥いて驚き、「な、なにッ――」と言葉を最後まで紡ぐこともなく、ふたつの人形に分かれたフィリアは振り返った直後には輝きに包み込まれ――巨大な雷鳴が帝都に響いた。

 気配が完全に消え去ったと分かると、フェヴローニャは自分の中に宿ったフランシスの魔力が消え失せていくのを感じて、勝利の余韻に浸ることもせずに倒れるフランシスのもとへと向かった。彼女の体はやはり動かない。体から放たれていた黄金の魔力も既にない。手に握っていたリボルバーをその場に投げ捨てて、フェヴローニャはすぐに彼女の体を抱き上げた。

「お、終わったわよ、フランシス……! ねえ、まだ死なないでよ。分かるわ、あんたの残滓が私の中にあるから分かる。まだ死んでない、気配が消えてないもん……ねえ、どうしたらあんたを助けられるの、フランシスッ……!」

 まだ自身に込められた秘術展開式の効力が切れていないおかげで、フランシスが死の淵にいながらもまだ僅かに生へと寄っているのがフェヴローニャには分かる。しかし彼女には医療系の術式が扱えない。リリオラのように、繊細さを求める作業など到底彼女にできることではなかった。もう手はなく、ただ彼女が死に絶えていくのを見ているだけのことに、フェヴローニャはぼろぼろと涙をこぼす。

 抱きしめて、わんわんと泣き喚く。敵を倒しても生きていてほしい仲間が、救いたかった仲間が救えないのでは意味がないと彼女は泣き喚き続けた。持ってあと数分の命。リリオラのところまで連れて行くにも間に合わない。絶望に打ちひしがれ、ただ叫ぶだけの彼女の肩に、そっと誰かの手が乗った。

「大丈夫、もう泣かなくていいですよ。僕が必ず助けますから」

「あ、あんた、なんで――」

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