表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼は哭かず牙を剥く  作者: 智慧砂猫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/64

第二十四話 急ぐのは悪魔ゆずり

 部屋に従者たちが辿り着いて扉を開けたとき、部屋はもぬけの殻だった。エレオノーラも、リリオラの姿もそこにはない。部屋があらされた形跡はなく窓も鍵が閉まっていて、開かれたような形跡はない。密室の中で忽然と消えたのだ。

 何がおきたのかを理解したものは誰ひとりとしていないだろう。ただし、当事者たちを除いて。

 ふたりは遠くはなれたどこかの建物の中にいる。石造りのそれほど広くない部屋で、くぼんだ壁の空間には真鍮で牛を(かたど)ったと思しき奇妙な置物風なものがある。胴体に取り付けられたふたが開くようになっていて、中は空洞だ。外から施錠できる。置物らしいそれの傍には南京錠と鍵が転がっていた。エレオノーラが逃げようとしても、部屋には出入り口らしいものはなく、しかし石の隙間から風が入り込むということは、どこかに繋がっているのだろうと察することができる。

 一瞬、何がおきたのか、どうしてそんな場所にいるのかと動揺したエレオノーラが部屋から出ようと風の抜けてくるほうへと向かおうとして、リリオラは即座に彼女の足を撃ち抜いてその場に転倒させる。部屋には射撃の音が大きく響いた。

「逃げられると思ったか? そいつはおめでたいことだな」

「な、なにが目的なの……! ここはどこなのよ、どうやってこんなところに連れてきたの……!?」

「きんきんと高い声を出すな、耳障りだ」

 リリオラは耳に指を突っ込んで不愉快な表情を浮かべ、エレオノーラに近付くと彼女の長く綺麗な髪をがしりと掴んで引っ張り、牛の置物の前まで連れてくると、その胴体部にあるふたを開いて、抵抗する彼女をものともせずに中へと押し込んだ。

 エレオノーラが中に入れられると、中には一本のろうそくとマッチが転がっていて、暗くてもそれで僅かに視界を獲得できる。閉じられたふたにはがちゃりと音を立てて南京錠が掛けられ、彼女は完全に閉じ込められた。

「中に小さな箱が転がっているだろう、分かるか? まずはそいつを手にとってみろ」

「え、ええ……分かるわ。これをどうしろというの?」

 リリオラの指示に従って手に取った箱をろうそくで照らしてみる。箱も真鍮製で、大きなダイヤル式の鍵――アルファベットで『A』から『Z』まである――が取り付けられている。中には何かが入っているのか、振ってみると鉄の擦れ合うような音、それからぶつかってきん、と響く音がした。

「その中には、ある特別な道具が入っている。そこから抜け出すためのものだ。お前のような魔力を持たない人間であっても術式を作動させることのできる特別な道具でな。私からのせめてもの情けというやつだよ。その箱を三分以内に開けることができれば、お前は助かるというわけだ。ただし、こちらもひとつだけルール(・・・)は設けさせてもらうがね」

 愉悦の含んだ声に、エレオノーラは密室の中から声の響くほうへと視線を向けて鋭い目をした。

「本当に助かるのね。嘘じゃないんでしょうね!?」

 彼女は不安なのだ。広いとはいえない場所に閉じ込められ、灯りは頼りない小さなろうそくだけ。出られるかどうかは、三桁のダイヤル式の鍵を開けられるかにかかっている。ばかげた遊びとは思ったが、出られなければここで餓え死ぬに違いないという恐怖と焦燥があった。

「ああ、もちろん。わざわざ嘘をつく意味がない。だが話は最後まで聞いたほうがいい。もしかして、お前は映画でクレジットが流れ始めたら席を立つタイプか? それは残念だ、物語の隠された真実が垣間見えることもあるというのに」

 くっくっと堪えるかのような笑い声をするリリオラに、エレオノーラはいったい他にどんな条件を付けるつもりかと尋ねる。

「なあに、簡単さ。今、お前が入っているこの容れモノの腹の下で火を焚いて時間が経てば徐々に温度は上がっていき、およそ四百五十度という高熱で満たされるわけだ。お前はその間に、箱を開けて中から指定のモノを取り出して使えばいい。もちろんヒントはある。よく中を探してみたまえ、いいものがある。どうだ、見つけたかな?」

 リリオラの言葉通り、中には他に小さな紙の箱があり、開けてみるとトランプが入っていた。

「トランプ……? なによ、何がヒントなのよこれ?」

「ところで枚数はよく数えたか? いくらか欠けているだろうと思うが」

 震える手で、エレオノーラは落とさないよう慎重に枚数を数えていく。それだけではない。なんの図柄が足りていないかを確かめながら、丁寧にだ。心臓がばくばくと音を鳴らす、それだけで緊張するくらいに怯えているなかで、彼女は真剣な目をして必死にだ。そのあいだに、リリオラは彼女の集中を削ごうとでもいうのか、思い出を語り始めた。

「昔はよく仲間内でポーカーをして遊んだものだ。いつだって仲の良い三人組で……だが、決まってひとりがイカサマをした。フォーカードだのフルハウスだの、良い手をよく引いてくる。山札の中からしれっと抜き取っていたのさ、どうやったのかまで確かめるのに聞き出してもさっぱり誰も真似できなかったが。その日の酒代を賭けて勝負してるんだ、負けたくない気持ちもわかるがね。結局、そうやってつまらないことをしたせいで、ポーカーは台無しだ。そのあとは大富豪なんかで遊んだものだが――」

「ちょっと黙っててよッ!! 今カードを確かめてるんだから!!」

「ああ、そう。なら希望通りに黙っていよう」

 エレオノーラの怒鳴り声がキンと響く。リリオラはわざとらしく肩を竦めてため息をつき、小さな声をして言った。

「聞きたくないのなら別にいいよ。私は別に損をしないからな。……私は(・・)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ