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狼は哭かず牙を剥く  作者: 智慧砂猫


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第十一話 同じ羽の鳥は一緒に集まる

 リリオラの問いに、バリーは心臓を口から吐き出しそうなくらい気分が優れなかった。彼女の機嫌が、まだ僅かとはいえ損なわれたことが彼の生存の確率を大きく低下させたからに他ならない。が、決してバリーは、何かしらリリオラについて調べていたわけではない。

「死にたくなかったらそうしろって言われたんだよ……!」

「言葉が足りてないな、バリー。焦っているのか? 誰に、どこでかを精確に述べろ」

「フランシスだよ、フランシス・ロベルタ! いただろ、研究所にもうひとり術式を持った女が!」

 焦ったバリーが大声を張り上げてその名前を口にすると、リリオラは合点がいったように「なるほど」と小さく呟いた。

 フランシス・ロベルタは研究所の中でも一際目立つ豪快な性格の女でリリオラとよく似た外見をしているが、彼女と比べてひとつぶんは背が高く、美しい紅色の瞳を持っている。リリオラともそれなりに親交があり、彼女のお気に入りとも呼べる女だった。

「では追加で質問だ。フランシスは今もまだ一緒にいるのか?」

「いや、知らない……。あいつはユアンが帝国と契約を結ぶなり、さっさと姿を消しちまったよ」

「そうか、よく答えてくれた。礼を言おう」

 彼の背中に押し付けていたマスケット銃を下ろして、リリオラは背中をぽんぽんと叩いた。

「フランシスがお前に生き残る方法を教えたのなら、なるほど理由があるのだろう。私も彼女の期待に応えてやらねばなるまい。戦意もない相手を無惨に殺すのは何も面白みがないからな。運が良かったな、バリー・エインズワース?」

 けらけらと笑う彼女に、バリーはホッと安堵したように「ああ、本当に」と一息ついた。しかし。

「だがフェヴローニャのように仲間に入れてやるつもりはない」

 油断したバリーの背中を、リリオラは強く押した。

「運がいいんだろう? これでも生きていたら、あとは好きなように生きればいい」

 叫び声が遠く地面へと吸い込まれるように離れていくのを聞きながら彼女は背を向け歩き出す。

 ビルの前では騒ぎが起きていたが、彼女は気にすることもなく迂回してドミニクたちのにおいを追いかけた。車で移動していたのなら相当な距離を移動しているはずだと考えてから、思いのほか近い場所にある建物の中へと逃げ込んでいると気付く。バリーが使うのが狙撃銃だと分かった以上、視界に入らないように大人しくする選択を取ったのだろう。おんぼろの扉を蹴破って中に入ると、埃が迎え撃つように舞い上がった。しかめっ面をしながらリリオラは「いるんだろう、出て来い」と呼びかける。

「……リリオラさん?」

 二階へ上がる階段の踊り場から、ドミニクがちらりと顔を覗かせる。リリオラを見つけると、彼はとても安堵したような顔をして、フェヴローニャたちを連れて一階へと下りてくる。

「良かった、無事だったんですね……!」

「私が怪我をするとでも?」

「いや、そんなことは……すこし、思いました」

「正直だな、許してやろう。さて、それよりも、だ」

 部屋の中を見渡して使えそうなものがないかを探すリリオラは、床に転がった一本の鉛筆を見つけると壁にがりがりと何かを描いていく。最初はただのいたずら書きにも思えたそれは彼らの武器やタグにあるものと同じ、術式だった。

「マルツェルのおかげで私たちは帝都で目立ちすぎた。今後拠点として活動していくのは難しいだろう。そこで、新しい場所へ移ろうと思うわけだ。今よりも人目につかず安全で穏やかな場所になる。悪くないだろう? フェヴローニャ、お前もどうだ?」

 リリオラの誘いに、フェヴローニャは驚いた顔をした。

「……アタシも行っていいの?」

「死にたいのなら別にここに残ってくれても構わないが」

「い、行く! 行かせていただきます!!」

「良い返事だ、素直で大変よろしい」

 外の騒ぎが大きくなり始めてくると、リリオラもさすがにのんびりしている場合ではないと思ったのだろう。壁に手を触れると、術式が輝きだして、青白い光の渦のようなものが現れた。

「いいか、私が入ったら即座に全員飛び込め。びびっている暇はない。二秒だ、それがお前たちを生かすか殺すかの分かれ目になる。おっと忘れていたが、お前はここに残れ。人質にされていたとでも言えばいい」

 宿の店主だった男にそう言って、リリオラは光の中に飛び込もうとしてから一度だけ足を止めて振り返った。

「それと店のことだが、すまなかった。後日改めて……」

「いや、いいよ。どうせ店を畳むつもりだったんだ。大して美味くも無い俺のメシを喜んで食ってくれたのは、あんたくらいだ。……ありがとな。非礼を詫びるってんなら、またメシでも食いに会いに来てくれよ。それが一番いい」

 リリオラの言葉を遮って店主がそう言った。すると、彼女は目を丸くして、小さく口をぽかんと開け放ち、それからすぐに優しく、とても寂しそうな笑顔を彼に向けた。

「ああ、そうさせてもらうよ。……美味しい食事をどうもありがとう」

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