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「百合を流行らせろ。これは総理からの命令だ」

 都内某所の超高級ホテル、その最上階。東京の街を見渡せる綺麗なペントハウスで、ある政府高官は頭を下げていた。


 二人の女子高生に(・・・・・・・・)


「今日はわざわざ来てもらってすまない」

「別にアタシは都内住みだから良いけどさー、レナは大阪からっしょー? 可哀想じゃん」

「ホンマにそれー。ウチも別に暇ってわけじゃないんやけどー?」

「……だからすまないと言っている」


 怒りを滲ませた表情でぶっきらぼうに答える。何故俺がこんな小娘共に頭をという思いが透けて見えるようだ。


「ま、どうせまた変なもん流行らせろーって言うんちゃう?」

「卍はアタシのファインプレーだったよねー。マジとかけるってやつー」

「そうだ。政府直属トレンド操作部隊、そのトップであるお前達二人に依頼がある」

「アタシその呼び名きらーい。ファッションリーダーで良くない?」

「ウチもそっちが好きー」


 政府直属トレンド操作部隊。常に変化し続けるトレンドを操作するJK達の中でも特に影響力の強い者達の総称である。

 政府からの依頼の目的は市場操作や学力向上等様々だ。


「卍は言われた通り流行らせたけどさ? 正直あれで漢字を覚えるのに繋がるとは思えないけど」

「あとンゴとかねー。ネットの言葉とか流行らせるのもアホらしーみたいな?」

「……あれはアホ大臣の尻拭いだと何度も言っただろう。USBも知らないのはネットに詳しくないJKのせいだとかなんとか」

「「それ卍過ぎてやばたにえん」」


 しかもその大臣はサイバーセキュリティ関係のトップだという始末。その結果ンゴを流行らせるというのもまた彼の酷さを知らしめている。


「とりあえずだ」


 ゴホンと一つ咳払いをしてJK二人の注目を集める。空気が少し変わった。




「百合を流行らせろ。これは総理からの命令だ」







「……百合?」


 レナが不思議そうに首を傾げた。花のこと? なんて見当違いな独り言を呟く。


「ヒナは知ってる? 何かの隠語?」

「いや、まあその……」


 百合って言ったら、やっぱりアレだよね? 女の子同士で……みたいな。


「平たく言えばレズだ」

「あー、なる。アイドルの百合営業ってそういうことやったんなー」

「悪いが拒否権はないぞ。お前達には対価として高校生には身に余る給料をやっているんだからな」

「言うても技術職みたいなもんやし? ね、ヒナ」

「う、うん。それそれー……」


 心ここに在らずという感じで返してしまう。でもアタシにはそれも仕方ない。なんてったって百合だもん。次に流行らせるのが百合だよ? そんなのしょうがないじゃん。




 実はアタシ、女の子しか好きになれないのに!!!




 だって男ってバカみたいじゃん?! 女の子みたいに優しくなければ女の子みたいに柔らかくないし!まして胸とかばっか見ては顔が近い時だけ目を見てアピールとかマジキモい!

 ともかく、アタシが女の子を好きになるのは当たり前ってこと! 何で神様は女の子同士だと子どもを産めないようにしたのかなマジ……。妹が妹なだけまだましだけどさ……。これが弟だったらホント無理だし……。


 とりあえず、メッセだけ送ってっと。


「正直今までのどれよりも難題だとは承知している。だがこれはどこぞのアホ大臣からではなく総理からなんだ」

「何で総理? アタシらみたいなJKが好みのロリコン的な?」

「うっわそれキモっ。無理やわーウチ」

「……近々オリンピックがあるだろう。あれに向けてセクシャルマイノリティの社会的地位を確立させようとのことらしい」

「「本当のところは?」」

「ただの総理の趣味だ」

「「やっぱり」」


 でもナイスだよ総理!! 大義名分が出来たし!!


「あ、そうそうウチらの報酬は? なんぼ? 今回割と時間掛かりそうやけど」

「1000万でどうだ」

「「安っ」」

「……本当は5000万だ。二人してハモるな」


 男はやれやれと溜め息をついてネクタイの位置を正す。まあこの依頼だったら1000万どころか100万でもやったけどさ。


「頼んだぞ……と言っても今回は失敗も覚悟している。性においての壁は未だ厚いからな」

「ウチは女子同士で恋愛するのは百合って言うらしいけど可愛いなーみたいなメッセ送ったけど」

「アタシも同じ。せっかく綺麗な言葉があてがわれてるんだから使わなきゃ損でしょ」

「……頼りにしている」


 男は静かに立ち上がる。カバンを持ったってことは、帰るんだろう。


「この部屋は明日まで借りている。泊まるなら泊まって行っても構わないし、帰るのならそのまま放置してくれても良い」


 それだけ言い残すと男は部屋を出て行った。早い足取りなのはこの後も予定が詰まっているからだろう。レナは男に目もくれずスマホをポチポチと触っていた。


「アタシ帰るけど、レナはどうすんの?」

「んー、明日の朝一で新幹線乗るつもりだから今日はここ泊まるー」

「それ遅刻じゃん」

「そんなん知らんもん」

「そういうとこマジヤンキーじゃん! んじゃまたね、レナ」

「んー」


 手をひらひらと振りながら、それでもこちらには視線を向けなかった。ただそれはレナが薄情だからというわけではない。

 多分、今どうやって流行らせるか色々考えているんだろう。服のファッションとは結び付けられるか、百合に関連したお店はあるか、女同士でもパワースポットは有効か。適当に挙げるだけでもポンポン出てくる。


 だから明日帰るんだろうな。今日一日はそういうのをチェックするために。レナは真面目だなぁ。


 ……さて、アタシも下地作りをしなきゃ。







 翌日、クラスの明るい系女子の中では昨日アタシが言った言葉が話題を席巻していた。


「百合って花言葉は清純とからしいよー! あたしらが清純とか笑える!」

「あははっ、それアンタだけだからー! こっち側は真面目ゾーン!」

「はぁ? 一緒だから! ズッ友だからー!」

「ズッ友とか古すぎない! 変人過ぎて笑うー」


 姦しいアタシのグループ。アタシは機を見計らってから。


「でも最近外国とかだと女の子同士とかも普通らしいよー? アタシ妹の友達に外国人の子いるけど、その子も女の子が好きだし」

「えー? マジ?」

「嘘だぁ」

「いやいやマジで! てかそういうのキモいとか言うやつの方がキモくない?」


 アタシの強い言葉に、グループは一瞬息を飲む。そう、ここのリーダーはアタシだ。下手に異を唱えるとハブられるかもという恐怖心が働く。別にそんなことをするつもりはないけど。


「……だよねー! そういうのもありげというか? ありよりのあり? みたいな?」

「そ、そうそう! 男よりもー、とかは個人差だろうけど普通にありだよねー!」

「わかるわかる!」


 一人を皮切りに続々とみんなが同調していく。良し、これで空気感はOK。次は──


「──そろそろ授業が始まりますから席を空けてくれませんか?」

「っ!!」


 声をかけてきたのはアタシの隣の席のクラス委員長であるユナちゃん。サラサラで柔らかそうな長い黒髪は清楚な印象を与える。

 そしてめちゃくちゃ綺麗。実はアタシの好きな人……だけど、勿論想いを伝えてはいない。


「あっ委員長! ごめんねーうるさくして」

「いえ、その間はトイレに居たので大丈夫です。それよりも」

「あーはいはい。どーぞ」

「ありがとうございます」


 空いた席に腰を下ろすユナちゃん。興味なさげな表情も凛々しくて好き……。


「ヒナさん」

「はっ!? えっえっ、な、何……?」

「百合、いけるんですか?」

「ええっ!?」

「……失礼しました。忘れてください」

「えっ」


 それっきり教科書の用意や宿題の確認等こちらにはまるで目を向けない。

 ……一体どういうことだったの? 話聞いてた……のは確実だろうけど、何でいきなり?


 授業が始まるまで、アタシは頭の中がハテナでいっぱいだった。



 ──が、それも授業中のあることで解決される。


「ヒナさん」


 こそっと声を潜めてアタシの名前を呼ぶ。さっきのことかな……、何だろう。


「これ」


 ユナちゃんの手の平には小さく折り畳まれた手紙が。アタシは頷くだけ頷いて受け取った。

 かさかさと開く。ヒナさんへ、と几帳面に書かれた書き出しから本文は続き。




 実は私、ヒナさんの──




「っえぇ!?」


 そこまで読んでアタシはついユナちゃんの顔を見た。頬を染めてもじもじと恥ずかしそうにしている。え、マジ? いやでも今付き合っちゃったらそのために流行らせたみたいに思われるかも……いやでもユナちゃんと付き合えるって考えたら5000万くらい……どうせレナもいるし……。


 アタシは続く言葉に目を通す。実は私、ヒナさんの──




 ──妹さんと付き合っているんです。




「……は?」

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