異世界に来ちゃった...
誰もこの話を信じないだろうが,俺は昔異世界に行ったことがある.
えっ?異世界ではどんな生活を送っていたのかって?
そりゃ向こうではチート能力を貰って無双しまくり,そしてハーレム形成でウハウハの生活を送っ...りたかったなぁ.
まあ,ただの一般人が転生しても実際はそう上手くいくはずもなく,超絶ハードな生活を送っていたんだ.
いやー,マジで大変だったよ.
転生して即最強!!という訳ではないが,この話をこのまま俺の中だけにしまって置くには少々もったいない気がする.
とまあせっかくなので小説にして供養しようと考えた訳だ.
さてさて,[トランジション・サガ」
はじまり,はじまり~
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ここは,木々が生い茂りあたり一面が緑で覆いつくされている大森林
木々の間から木漏れ日が差し込み,制服という明らかにふさわしくない格好の青年がその眩しさで目を覚ました
ハッ!!!
何処だ..ここは..俺は,いったいどうしたんだ...
「ウッ!!..頭が痛む....そうだ,俺は屋上から落ちて...どうして死んでないんだ...」
俺の名は海藤 真二,普通の高校生だ.普通の高校生のはずだが,なぜか森林の中で寝ている.
おそらく...こんな訳の分からない状況になったのは,あの出来事が原因だろう...
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そう,俺は友達の自殺を止めようとしていたんだ.
学校の校舎の屋上,昼休みで校舎がにぎわう中二人の青年が大声をあげて言い争っていた.
「おい!!やめろ!!そんな馬鹿な真似はよせっ!!何も死ぬことはないだろう!!」
「うるさい!!もうこんな..こんなクソみたいな現実はたくさんだ!!」
今まさに飛び降りようとしているこいつの名は田中 十夫雄努.
いわゆるキラキラネームという名の奴だ.
絶望的にネーミングセンスのない中二病が完治していないバカ親のもとに生まれ,単に響きがカッコいいからというだけでクロスフォードという名前を付けられた,ものすごく不幸な奴だ.
しかも普通,クロスフォードって海外では苗字なのに...
まあそこは一端置いといておくとして,その名前のせいで小中高とずっといじめられ続けていた.
そしてついに今日,ブチ切れて自殺をしようとしている.
そこで幼馴染の大親友である俺が説得に来たという訳だ.
「ちょっと落ち着け.お前は今興奮しすぎだ.また鬼頭にいじめられたのか?だったら毎度の様に俺が懲らしめに行ってやるよ!な,だから落ち着けって.」
「うるせえ!大体いつもいつもいちいちおせっかい掛けやがって.大きなお世話なんだよ!もう俺は高校生だぞ!ほっといてくれよ!!!」
あーまたいつもの発作か.いじめられる度に俺に毎回八つ当たりするんだよなぁ.まあ別にそれで田中の気が収まるならいくらでも付き合ってやるけど.
「お前「あーまたいつもの奴か」とか思っ..思っただろ!!今回は違うからな...俺はこんな現実とおさらばして異世界に行くんだ!!夢の世界にな!!」
「は?...お前何言ってんだ..ついに頭がおかしくなったのか?」
田中は異世界系小説やラノベなんかが好きだったが,一応現実との境はついていた.
「そう思ってもらってもいいさ.もう現実とはおさらばするんだ!!だが...親友のよしみでお前には教えてやろう.俺はついに発見したのさ!異世界に行く方法をな!!」
「異世界って..大丈夫か?一度病院に行くぞ」
「ふっ..ふん,な.なんとでも言え.俺はついに得たのさ!この転生の書をな!!」
そう言いうと,十夫雄努は分厚い古びた辞書のような本を掲げた.
「聞いて驚け...この本をもって死ぬとな..転生できるんだよ..異世界にな!!」
やばい...これは相当重症だな..あいつは本当に一度精神病院に行かせたほうがいいな..
「「こいつついにイカレたか..」とか思っただろお前!!」
あっ..ばれてる...今日のあいつはなんか鋭いな.
「この本の能力は本物さ...多少強引な方法だからまあどうやって確かめたかは言えないがな」
あんな眉唾物に縋るなんて...相当追い詰められていたんだな.ここはしっかり俺が救ってやらねば.
「そんなバカなこと言ってないで,さっさと戻るぞ.そろそろ昼休み終わっちまうよ」
「うるさいなぁ!!
俺は本気なんだよ!!
大体,お前に俺の気持ちの何がわかるんだよ!!
俺はオタクでチビでブスで根暗,オマケに運動もできないしコミ
ュ障.
それに比べお前は明るいし友達たくさんいるし,運動も成績も抜
群.俺とお前は全然違う存在なんだよ!!
お前はただ俺を弱者の俺を守って優越感に浸りたいだけだろ!!
この偽善者が!!」
「うっ...めちゃめちゃ褒めるじゃねえか.なんか恥ずかしいな...」
「喜ぶんじゃねえ!!お前やっぱキモイな...俺はそういうことを言いたいんじゃねえ!!」
おっ...なんか,元の調子に戻ってきたようだな..これはあと一押しでやめそうだな..
「ナイス突っ込み!!それでこそクロスフォードだ!!調子が戻ってきたようだな!
なあ..こんなバカな真似はやめてくれよ.俺はお前が死んだら悲しいよ...
そうだ!今度その転生の書について話してくれよ!俺,お前のそういうファンタジー話聞くの好きだから.
お前,将来小説家になりたいって言ってたよな?
その夢を諦めていいのか?
だから,まだ死ぬなって」
俺は田中に本気で死んでほしくないと思ってる.
あいつは学校の成績こそは良くないけど,趣味に関する知識は尋常じゃないほどある.
そんなあいつの無駄話や,豆知識を聞くのが俺は好きだ.それに,あいつから漫画を借りれなくなってしまうからな
「・・・」
田中は黙って何かを思い詰めるように空を見つめた.
「ありがとな,海藤.
こんなゴミみたいな人間にわざわざ関わってくれて.
でも,俺はもう限界なんだ.
ここで俺が鬼頭に虐められていた事実を遺書に書いて自殺すれ
ば,あいつは社会的に死ぬ.
俺の自殺予定時刻と同時に,俺の遺書をSNS,掲示板,マスコミに一斉に流す.
そうすれば,学校側が隠蔽したとしても確実にあいつか屑どもを一掃することができる.
これは,命を懸けた弱者の反撃なんだ.
お前には、そんな覚悟を決めた俺を止める権利はあるのか?」
俺は何も言えなかった.
今自殺をしようとしているあいつの目は,恐ろしいほどにドス黒く濁っていた.
これは,覚悟が決まった人間の目だ.これを止めることは出来ない.俺は,一瞬そう考えてしまった.
「それに,異世界には行けたらラッキー程度にしか考えてないよ.
まあこの本は自殺を成功させる願掛けみたいなものだ.
それにほら,異世界だったらこの名前でも不自然じゃないかもしれないから楽しく生きていけるだろ」
「そろそろ時間だ.今まで助けてくれてありがとな.
お前はきっと成功するタイプの人間だ.
俺みたいなゴミカスの存在なんて気にせず,これからの輝かしい未来を歩んでくれ.
じゃあな」
そう言うと,あいつは屋上から飛び降りる準備をした.
・・・たしかに,今のあいつを止める権利は肉親以外の誰にもないだろう.
当然,ただの友達である俺にはない.
・・・・けれど・・・
あいつを助けようとする,俺を止める権利も当然誰にもないはずだ!!!
俺は覚悟を決め,俺は全力で柵にむかって走り始めた.
「クロスフォード!!何もお前が死ぬことはない!!
答えは簡単だ!!
お前をいじめてる奴を全員排除すれば解決だろ!!
お前にできないのなら俺がやってやる!!
理不尽な暴力に屈して死ぬな!!」
俺はクロスフォードに向かって叫んだ.そして,飛び降りようとするあいつに向かって思いっきり駆け出した.
え?でもお前も死ぬじゃんって?
大丈夫!!そんなときのために命綱を用意しておいたのさ!!不測の事態に備えてな!!!
「トウッ!!」
俺は華麗なジャンプを決め,十夫雄努に向かってダイビングした.
ガシッッ!!
十夫雄努の体をしっかりとキャッチし,何とか自殺を止めることができた.
屋上から男二人,紐に繋がれてぶら下がっている.
傍から見れば,なんとも珍妙な光景だろう.
「お前...ここまでして..」
「とりあえず一回落ち着け.
お前がここまで思い詰めてたとは俺もわからなかった.
すまんな.
これからどうやって虐めてた奴らに反撃するか,一緒に考えよう.
お前が一人がここまでする必要はない」
すると,クロスフォードはフフッと笑った.
「・・・俺は,お前に止めて欲しかったのかもな」
よしッ!!なんとかなったな!!一件落着めでたしめでたし!
・・・と思ったがしかし,ここで異常事態が発生する.
どうやら命綱が細すぎたようだ.
ミシミシと悲鳴をあげ,今にも千切れそうである.
あっ..これ..やばぁい
「ごめん十夫雄努」
「ん?どうした?」
「助けに来たのはいいけど,命綱がもうダメっぽい。マジごめん」
「お前結局何しにきたんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ」
二人は叫びながら,グラウンドへと急降下していく.
ああああ失敗したぁぁぁ
そして,地面に激突すると思った瞬間,突然俺の視界はブラックアウトした.
だか、その時俺は気がついていなかったんだ.転生の書が、光輝いていることに.
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
そして俺の意識は飛び,目が覚めたらこのよくわからない森にいたと言う訳だ.
おそらく,ここはクロスフォードが言っていた死後に行ける異世界なのだろうか.
うーん,あの本の能力は本物だったってことか.
いやー異世界か.小説とかで読んだことはあったけど,本当にあるとは.驚いたなぁ....
・・・・・どうしよう.俺,異世界に来ちゃったよ.
~続く~
初投稿です
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※この作品はフィクションです