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ゲーセンスロと死んだ目のひとたち

夢が過ぎ去ったおじさんはゲーセンスロで夢真っ只中な学生が眩しかった

作者: 深山夏留

中堅社員になったと思ったら首を切られたのでなんとか失業保険で食べていくけど世の中やってられねぇなって話。

ゲーセンスロの高校生のオッサンの方の話。


満員電車に詰め込まれて運ばれた会社から首を切られて早くも半年。失業保険のあるうちに、次の飯の種を探さないといけないのだけれども。

わかってはいるけれども、職安で相談したものの、非正規の職員が愛想笑いを浮かべるばかり。条件を打ち込んだ端末も、非情な現実を突きつけてくる。

ギリギリアラサーと言える年。しかし、企業様が求める若年層からはとっくになくなってしまった俺は、それでも、贅沢とは言えない条件なんだがなぁとどうしようもなく頭を掻く。

ともあれ今月のスタンプラリーの回数も満ちた。精々会社都合で首を切ってくれたのだけは、前の会社も優しいもんだと残り少ない日数と、それでも自己都合でやめるよりよっぽど猶予が与えられたと、慰めるように自分で励ます。


お役所様には下々なんざ、どうでもいいんだろう。そんな言葉は、同じく不安定な雇用で働かされているいつもの職員の兄ちゃんにはぶつけるにはふさわしくない。ありがとな、と片手で挨拶をしてガラス戸を通り抜けていく。

次の振り込みまで、余り贅沢に金があるとは言えないが、それでも、家に帰ってもただ空しいだけで、外出の際にはお決まりのように、賑やかな遊技場に吸い込まれた。常連のジーさんやプロやカスが集まったごった煮の残り物のようなこの場所が、俺にはとても心地がよい居場所だ。

もちろん、よく出るところはいつもの奴らが座っていて、なんとなく、空いている台を選んで、今日の食費と古くなって買い換えようと思っていたスーツ代を飲み込ませていく。リールを回し、パチパチと止めていく。うるせぇ音に眩しい光り。まるでここは夢の中だな、なんて、恥ずかしいことを考えていると、珍しくもそこそこのボーナスを引くことができた。どうやら、スーツも夕食も諦めなくてよさそうだ。


「端数はいかがなさいますか?」


綺麗な姉さんが、0円のスマイルで問いかけてくる。邪魔にならなくて、腹の足しになる菓子でいい。そう思ったので、中途半端な大きさのチョコレートをいくつか鞄に詰めていく。

少し早いけれど、折角だから運が良いまま終わりたい。そう思って、少し寂れた、古い香りのするゲームセンターに足を運ぶ。昔からあるような筐体は、いまはこっちにある。少し前の型落ちもあるし、なにより総じてゲームセンターは設定が優しく、楽しい気分で帰れるんだ。


楽しい気分で帰れる筈だったのに、どうやら向こうでツキを使っていたらしい。前兆から裏切られること100ゲーム。微々たる勝ちを溶かしたらぐらいで収まるうちにかえればいいか。そう思いながら、残りのクレジットをみて苛立ちが漏れる。

このゲーセンに来ると見かける学生は、どうやら、抽選をあてたらしい。あの機種は出がいいからたのしいんだよな、そう思いながらも己がハマっているものだから、ついつい荒れてしまう。八つ当たりだ。あんな、どこにでもいそうで、何にでもなれそうで、まだまだ選べる未來がある学生なんて、自分にはもう、眩しすぎる。

仕方がない、ボーナスの隣は運が悪い。今日は負けなくてよかったと締めて帰ろうかなと、リールを回す手に力が入りつつも、順番を守って止めていく。


「あの、俺、もう帰んなきゃなんで、お兄さん残るなら、台打ってください。」


不意に、声がするからと向いてみたら、突然そんなことを言い出してきて、面を食らってしまう。


「あぁ、あんがとな。」


余りにも荒っぽい口調になってしまった気もするが、その方が丁度良いだろ。と、思い直す。残り少ないクレジットを流しながら、なにも悪いことが無さそうな学生には、とても手本に成ることが出来るようないい人生なんかじゃない。こんなやつにならないようにしてくれよ、と悪ぶった方がいいだろう。結局当たる前兆もなく、残りのクレジットは綺麗に溶けた。そのまま、学生が譲ってきた筐体に座りなおす。あぁ、ほんとに良いところだ。向こうだったら昼からなるたけ回収するのに必死になるだろうと思えるくらいいい場面。人から貰う運もいいものかもしれない。


「これ、ほら。」


お礼にもならないが、向こうの余りのチョコレート。俺の今日の細やかな幸運のお裾分けだ。

中途半端な大きさの意味が彼にはどうやらわかったようだ。


「え、はい、ありがとうございま、す?」

喜んでいいのか、戸惑いがよくわかるいい返事。ほんとに、これからが楽しそうで羨ましい。


「あんたはまだ向こうダメだからな。真面目な学生しっかりやってるみてぇだしな。」


そうだ。特に目立つわけでもないが、それでも、柄の悪いやつなんて、決まりなんか無視して大騒ぎして、これからが楽しいんだと全身で騒ぐやつらもいるのに。彼は真面目に道を歩いてる。ここへは疲れて休んでるだけなんだろう。俺みたいな苦労はしないでいいんだ。

気恥ずかしくなり、それきりで彼の顔は見ることが出来なかった。リールを回し、止める。集中してるように、リズムに流れてパチパチと止めていく。


彼は、へこっ頭を下げて、コインケースをカウンターに渡しに去っていく。あーぁ、若いっていいなぁ。そんな気持ちで一日が終わりそうだ。

それでも、若い運を貰ったみたいで、仕方がない、明日こそは、なんとか職を探してみようかなと、そんな気持ちになったのだった。

実はホールいったことないからわかんないしホールうるさすぎて目が回るから苦手だけどホールで新基準の台やってみたいんすよね。


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