表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Ride and Wrong 表と裏  作者: わ だ つ み
1/1

プロローグ

「次のニュースです。


都内近郊にて同時刻に別々の場所にいた三人が失踪するという事件が起こりました。


これは半年前の同時刻失踪事件と類似しており、警察は関連性について調べています――……」


――――プロローグ


「………えっ?」


栗色の髪の毛がよくはえる青空の下、少女はその大きな瞳を丸くした。


彼女は目の前の状況の理解に苦しんでいた。


いつもより学校が早めに終わり、天気のいい帰り道を歩いていただけだった。

なんとなく、近道に人の少ない路地に入っただけだった。


それだけだったのだが。


「ここ……どこ?」


路地から出ると、そこには先ほどまでとは違う街並みが広がっていた。


土とレンガ造りのかわいらしい壁に、おしゃれなアーチを描く入り口。

ベランダには色とりどりの花が飾られていて、どこか外国を思わせる風景だった。


それまで歩いていた、都内の住宅街の様子とは、まったく違う。


(ど、どうしていきなり……?)


来た道を振り返ってもあの路地はなく、初めてみる景色。戻ることもできなさそうだった。


道行く人の服装も、雰囲気も、見慣れぬ街並みと同じで、彼女がいつも着ているセーラー服がういて見えるほどである。


誰かに話しかけようにも、生来引っ込み思案な彼女には、その勇気がなかった。


「どうしよう……」


ひたすら周りを見渡していると、ちらほらといる人々の中に、自分と同じく街並みから浮いた服装を見つけた。


彼女は思わず走り出し、その人物の腕をひいた。


「あ、あの……」

「……何?」


じろりと鋭い視線を向けられ、彼女はあわてて掴んだ腕を離して、反射的に謝った。


「す、すみません……えっと……私、市ノ瀬あかりといいます。あの…っ」

「……なに」

「えっ……と、あの、ですね、ここ、わたし、はじめてきて……あ、と、言っても、来たかったわけではなくて……!」


よく見れば、きれいな黒髪を揺らした、自分と同じくらいの歳の女の子だった。おまけに制服である。

あかりはいくらかほっとするも、自分が理解していない状況を、説明できずにいた。


目の前でうつむき、ぶつぶつと言葉を捜すあかりにため息を漏らし、黒髪の彼女は言った。


「私は山田凛子。都内の高校に通ってる。高2。私も、気づいたらこんなところにいて驚いてるの」


思ったよりもやさしげな凛子の物言いに少し落ち着きを取り戻したあかりは、話を続けた。


「私も高2で、部活は弓道部です。そのせいでたまに、変にばか丁寧なしゃべり方だねって、よく言われて……」

「ふぅん……まぁ、わかんなくもないわ」


凛子は興味なさそうだったが、それまでひとり不安を抱えていたあかりには、大いなる助け舟だった。

仲良くならなければ、と、あかりは必死に話題を繰り出す。


「山田さんも、学校の帰り道とかだったんですか?」


ここで、凛子がピクリと眉を吊り上げる。


「その山田さんっての、なんか地味で好きじゃないの。凛子って呼んで。知り合って間もないけど、呼び名くらい許してあげるわ」

「あ、はい……」

「そのかわり、私もあなたをあかりって呼ぶから。一之瀬って、言いづらいもの」

「……っ、うん!あ、はい!」


名前呼びともなればかなりの仲良し度、という判断基準があるあかりには、むしろ朗報だった。

うれしくなって、積極的に凛子に話しかけた。


と、そのとき―――


『あれー?ここにいたのかぁ』

「!!」


空から声がしたかと思えば、目の前に学生服の少年が現れた。

ホログラムのようにすけているその少年の出現に驚いたあかりと、少年のどこか不快なしゃべり方にイラつく凛子。

ふたりは本能的にさっと身構えるが、どうにもできないことはわかっていた。


『セーラー服とぉ~ブレザーの制服……っと。やっとみっけたよー』


声を出す暇も与えず、ホログラムの少年はその黒い髪をいじりながら呑気な口調で続ける。


『とりあえず、この街の中心にある役場に行ってくれるー?たぶんそこで君たちの疑問は全て解決さ☆』


よろしく、と笑って、ホログラムは消えた。

突然の出来事にしばし呆然としてしまった二人だったが、ハッと我に返った凛子が口を開いた。


「…的な?まさか、今のやつが、私たちをここに連れてきたってこと?」

「え……?!」


まだ状況が読めていないあかりに、拳を作って、凛子が言う。


「私たちの特徴を知っていたみたいだし、役場に行けとか、疑問とか……そんなこと、仕組んだ奴以外言わないでしょ?!」


怒りに震える凛子をなだめようと、あかりはおろおろしながら言葉を返す。


「そ、そうかも、ですけど……とりあえず、役場とやらに行ってみませんか?何かあるかもしれないですし……」


凛子はすっと拳をおろし、苦々しげに頷いた。


「こんなところでうろうろしてても仕方ないものね。行きましょうか。こっちで合ってるのかしら?」

「そうみたい、ですね」


だんだんと広くなる道を頼りに、周りの様子など気にも留めず、ふたりは歩き出した。


――――――


『役場の子とあわせて、はい、3人……っと』


少年はどこかでほくそ笑む。


『これで、パーティーの完成だねっ!』


不気味な微笑みに、反応するものは、何もなかった。



ーーNext?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ