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【完結済】英雄と呼ばれた破壊者の創るこの世界で  作者: こうしき
第四章 great difference―雲泥―

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67.5話 nightmareⅡ

 ヒュン──と空間を裂くような音を立てながら、アンナリリアンがティファラに迫る。



(駄目だ、早すぎて避けきれない!)



 そう咄嗟に判断したティファラは、刀の柄を両手で握り締め、アンナリリアンの斬撃に備える。



 ──キイィィンッ!



「くぅッ──!」


 二つの刃が交わった刹那、ティファラの腕は上方に弾かれた。アンナリリアンによる下方からの一振りの威力が強すぎたのだ。


「ティファラ!!」


 だんだんと近づいてくるエリックよりも先にティファラに触れたのは、アンナリリアンの刃の切っ先だった。ティファラの腕を弾き、横に薙ぐように振りかざされた刃は、彼女の胸の下を切り裂いた。


「────っ!」


 経験則で上半身を後方に引いたティファラの傷は、思ったよりも浅い。皮膚を裂くと同時に飛び出した血量も、そう多くはなかった。


 ──しかし。


「ぐ──あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁぁあ゙ッ!」


 切り裂かれた体に、アンナリリアンの()()が直撃した。

 その場でとんっ、と跳び跳ねた彼女は、両足の裏でティファラの傷口を抉り、彼女の体を蹴り飛ばしたのだ。

 その反動でアンナリリアンは空中でくるりと体を捻らせる。


「汚い声」


 これでもかと言わんばかりに、アンナリリアンは宙に舞うティファラの腹部に、神力の火の(たま)を撃ち込む。


 くるっと捻った体が地面と平行になる頃、アンナリリアンの目の前に、エリックの顔と迫り来る刀があった。



 ──ガキイイイィィィィイン!



 強烈な衝撃音と共に、吹き飛び離れる二人の体。直後に放ったエリックの鞭のように撓らせた神力が、アンナリリアンの右太股から腰にかけてを焼き払った。掠めた程度にも関わらず彼の強力な神力は、彼女の皮膚を僅かに焦がした。


「──ッち」



 布と皮膚の焼け焦げた臭いが、辺りに漂っている。



 その空気をかき消すように再び衝突した二人は、二度──三度と刃をぶつけ合う。


「ティファラ! やれ!」


 鍔迫り合いの最中、エリックが叫ぶ。見ると体勢を整えたティファラが、アンナリリアンの背を目掛けて一直線に駆けてくる姿があった。



(もらった──!)



 ティファラはアンナリリアンの背に刀を振り下ろす──が。



 ──キィン!



「な……なんですって!」


 渾身のその一撃は、受け止められてしまう。


 後ろ腰に差していた短刀を左手で抜き、アンナリリアンはティファラの攻撃を防いでいた。右手一本でエリックからの攻撃も受けているので、今にも押し負けそうになっている。



(この女、逆手で──)



「──らぁッ!」


 アンナリリアンの咆哮と共に、ティファラの刃は弾かれた。そしてそのまま回転してきた()の左拳によって、地面に叩きつけられる。


 がら空きになったアンナリリアンの背──そこにエリックの刃が振り下ろされる──刹那、彼女はまたしても身を捩りエリックの攻撃を躱す。



(なんなんだこの女の動きは!)



 ステップを踏むように攻撃を躱し、舞い踊るように刃を振るう。捉えられない赤い女。



(これが戦姫の実力だというのか──)



 アンナリリアンは体に神力を纏い、その場でぐるん、ぐるんと回転し炎の渦の壁を作ると、エリックとティファラから距離を取った。


 その渦に巻き込まれまいと二人は後方に跳ね、様子を窺う。


「そろそろ終わりにしようか」


 三人の距離は一直線上に、それぞれ約五メートルずつ離れている。このままではアンナリリアンが、エリックとティファラに挟み撃ちにされてしまう構図だ。


「ふぅ……」


 静かに息を吐き出し、アンナリリアンは刀を鞘に収めた。足を大きく開き膝を僅かに曲げ、正面のティファラを睨んで唇の端を吊り上げた。


「おら、来いよ」


「こいつ……!」

「ティファラ」


 歯を軋ませたティファラをエリックが諭す。しかし彼もまた冷静ではない。


「挑発に乗ってやろう」


 この一撃で、決着がつく。この場の誰もがそれを理解し、唾を飲んだ。




 始めに飛び出したのはティファラだ。低い姿勢でアンナリリアンとの距離を詰め、間合いに入ったところで、刀を振り下ろす──!


 この時点でアンナリリアンはまだ抜刀すらしていない。



(やれる!)



 確信したティファラの生んだ、僅かな油断。



 ──シュッ!



(え──────はやい────……!)


 ティファラが刀を振り下ろし始めた瞬間、アンナリリアンは抜刀した。そして──



 ──ザンッ!



「ティファラッ!!」


 下から薙ぐように振り上げられたアンナリリアンの刃の前に、ティファラは倒れた。右腰から左肩にかけてスッパリと切られたティファラの体から溢れ出す血が、彼女の体を濡らした。


「くそが!」


 この時点でエリックは完全にアンナリリアンの背を捉えていた──筈だった。


 アンナリリアンは刀を振り上げきったまま、左足を大きく後ろに踏み込み、体を左に回転させた。抜群のタイミングで腕を振り上げていた、がら空きになったエリックの懐──その右半身目掛けて真っ直ぐに、全力で刀を振り下ろした。


「────っ!」


 肩から太股まで真っ直ぐに伸びる傷、噴き出す血。


 エリックの白いシャツが赤々と染まり、彼は仰向けに倒れた。



(死なない程度に斬る、か。上手くやりやがって)



「いい傷だ。動けないだろ? つーか、死んじゃいねーよな……」


「ぅ゙っ!」


 何度か傷口を踏みつけられ、エリックは唸った。

 背を向けたアンナリリアンはティファラに足を向け、エリックから離れていく。



(う……ごけ……俺の、からだ……動け!)



 アンナリリアンは完全に油断をしている。息のある相手に背を向けるということは、そういうことだ。



(この女……俺がもう、動けないと……思ってやがる)



 ()()()を殺すチャンスは今しかないのだと、エリックは歯を食い縛り──身を起こした。


「──姫ッ!」


 異変に気が付いたのは、シナブルと呼ばれたアンナリリアンの臣下だった。


 彼の呼び掛けに首だけで振り返ったアンナリリアンは目を見開く。避けきることが出来なかった彼女の左脇腹に、エリックの刃の切っ先が迫り──


「ぅ゙!」


 ──捉え、貫いた。


「姫! 姫!」

「手を……出すな!」


 駆け寄ろうとするシナブルを制し、アンナリリアンはエリックの刀の柄を左手で掴んだ。


「こいつ……!」


 左手だけでそれを押し返すも、エリックは両手で柄を握っている。じわりじわりと押し込まれ、とうとう鍔はアンナリリアンの傷口に達した。


「この、野郎が!」


 左肘でエリックの手首を殴るも、彼が手を離す様子は微塵もない。それどころかエリックは、両手に力を込め、それを思いきり()()()()()のだ。


「あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁぁぁぁッ!」


 アンナリリアンの体内で刃が回転する。血と肉の混じった物が地を汚した。


「く……そ、……ハァ……こいつッ……」


 両足が痺れ、立っていられなくなったアンナリリアンは、とうとう地に膝を着いた。それにつられてエリックも両膝を地に着く。

 しかし彼は刀から手を離さない。これでもかと言わんばかりに、再び手を回転させ始める。



 そんな血みどろの領域に、踏み込んだ者が一人。


 美しい髪は乱れ、ドレスも血塗れ。しっかりと刀を握りしめたティファラが、のろのろと近寄ってきたのだ。

 

「これで──終わりよ戦姫」


 刹那、ティファラは腕を高く掲げた。アンナリリアンを斬り捨てようと、力の入らぬ腕で狙いを定める。


 アンナリリアンの背に隠れるようにして膝を着いているエリックの位置からでは、()()()()()()()()()()()


「じゃあね、戦姫さん」


 ティファラは言葉を放つと同時に、掲げていた腕を、勢いよく振り下ろした。



 アンナリリアンは動くことが出来ない──



 そして──




 ──ザシュ!



 肉を貫く音が一瞬、場の空気を凍らせる。どさり、と肉体が地に着く音に、エリックは目を見開いた。


「あ────え……」


 倒れていたのはティファラだった。胸からどくどくと血を流し、長い睫毛の乗る瞼は今にも閉じそうだ。


「……ティ……ファラ?」


 ふっと柄から手を離すエリック。その隙にアンナリリアンは()()を抜き取り唸り声を上げると、その場にうつ伏せに倒れた。


「ぅ゙……ぞ……だ……」


 倒れたアンナリリアンに、フォードが駆け寄りその身を起こした。しかしアンナリリアンは彼の胸ぐらを掴み、反対の拳で殴り飛ばすと、彼を激しく罵倒した。


「ティファラ……あ゙あ゙ッ……ティファ……ラ……ティファラぁぁぁぁぁあ゙あ゙!」



「……エ……リック」



 思いきり手を伸ばせば届く距離にティファラは倒れている。彼女は懸命に左腕を伸ばし、エリックに触れようとしている。


 しかし彼女の体はこれ以上動かない。


 言うことをきかない体を引きずりながら、地べたを這うようにエリックもティファラの元へ向かう。

 ずるり、ずるりと腕だけで這う度に、大きな傷口に砂利や灰が触れ激しい痛みが体を襲う。


「ティファラ……死ぬな、ティファラッ! た……のむ……死なないで……くれ……ティファラ!」


 エリックはようやくその手に触れ、そっと握りしめた。


 何度も重ね合わせ愛した女の手は、血にまみれ、弱々しく────いつものように、握り返してくれることは────なかった。


「あ……ああ……あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁぁぁぁあ゙ッ!」



 その様子を、シナブルは黙って見つめていた。



現在、何かに取りつかれたようにプロローグを書いています(今更なんですけどね。なんだか無性に書きたくなって)。

次は木曜日に更新予定ですが、それまでに間に合えば最新68話とプロローグを更新し、間に合いそうになければプロローグのみ更新します。すみません。

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