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【完結済】英雄と呼ばれた破壊者の創るこの世界で  作者: こうしき
第三章 collapseー崩壊ー

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67/141

60.5 agony

ルーク視点です。


旧ブンニー王国領土の西端は、第二次アブヤドゥ・ブンニー戦争で、アブヤドゥ王国に奪い取られた土地です。

 俺が故郷を離れたのは、十八歳になったばかりの時だった。


 シムノン・カートス()が世界的に有名な賢者であることくらい、その歳の頃には知っていた。だから俺と、弟のネスが父のような賢者になりたいと思うようになるのは、ごく自然なことだった。



 村を出て三ヶ月。俺は飛行盤(フービス)で様々な国を回った。人間の治める国には、父の銅像や功績を称える石碑や石盤が無数にあり、その度に父の偉大さを痛感した。


 果たして俺は父のようになれるのか、と。





 あれは、たしか旧ブンニー王国の領土の、西の端っこあたりを()()()()()時だったと思う。動物も、食べられる植物も少ない迷路のような森の中。食料も尽きかけ、空腹だった俺の足取りは、フラフラと覚束ないものだった。


「あ、崖だな。気を付けないと──って、おわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 落ちた。


 我ながら見事な転がりっぷりだった。かなり急な傾斜面から、恐らく三十メートル近く転がり落ちた俺は、当然のように骨折した。それも両足と右腕。ああ、あと肋骨も折れていた。

 途方に暮れていた、というよりも、己の無様な姿に呆れていた、そんな時だった。


「君、大丈夫かい?」


 薬草でも摘んでいたのか、背中に大きな籠を背負った彼女は、うつ伏せに突っ伏した俺に手を差し伸べながら言った。


「大丈夫ではないです……」


 顔と左腕しか動かなかった俺は、その手を掴もうと腕を伸ばし、顔を上げた。


「……なっ!」


 上げた。


 そして、彼女に心を奪われた。一目惚れと言うやつだった。


 派手な橙色のショートヘアーに瑠璃色(コバルトブルー)の瞳。目付きが少しきつかったが、その目に俺は惹かれたのだ。

 胸の部分だけを覆った、シンプルなチューブトップに、裾の締まったロングパンツ。それに大きな耳飾り。

 目を引くのは、左胸の上に彫られた、花のような刺青。同じものは両手首と両足首にもあった。

 二十代後半のように見えるが、きっともっと年上だ。何故って、俺は()()()()()からだ。

 知っていた。この特徴的な容姿、それに刺青は母と同じ、戦闘民族ライル族の証だということを。

 そしてライル族は、見た目はかなり若い者が多いが、実際の年齢はもっと上だということを。


「しかし派手に落ちたね。骨も折れているじゃないか!」


 彼女は背中の籠を腹側で抱え、俺を背に担ぎ歩き出す。


「手当てをするから連れていくよ」



 連れて行かれたのは、ライル族の隠れ里だった。外からでは全くわからない、鬱蒼とした森を進み、開けた所にそれはあった。


 背の低い簡素な木造建築が乱雑に立ち並び、その間を縫うようにして未舗装の道が延びる。


「あら、母様(かあさま)おかえり」

「おかえりー」

「だだいま、レイシャ、リヴェ」

「その背中の子は?」

「急に崖から落ちてきて。怪我をしているのよ」


 二十代前半くらいの、かなり鋭い目付きの女が、幼子達と手を繋ぎながら俺達を出迎えた。

 自分のことでいっぱいいっぱいだった俺は初見では気がつかなかったのだが、レイシャと呼ばれた女は、どうやら妊娠しているようだった。助けてくれた彼女の家に着くと、息を吐き椅子に腰掛けながら、レイシャはその大きな腹を擦った。もうすぐ産まれるのだと言う。


「外で作った子供だから、あれこれいう人も多いけど、あたしは族長だし、相手もライル族だからね。みんな直接は文句を言えないみたい」

「族長? その若さで?」


 おぶってくれた彼女による怪我の治療を受けながら、俺はレイシャの話を聞いた。

 それによると、以前の族長だった彼女の父、それに兄が戦死した為、長女だった彼女が族長を継いだのだという。



「レイシャ(ねえ)、赤ちゃん、元気?」


 そう言いながら姉──レイシャの腹を擦るリヴェと呼ばれた男児は、聞くと今年で七歳だと言う。


「ところで君、名前は? 私はリンネイ。リンネイ・ライル・ユマ。この子達は私の娘と息子でレイシャとリヴェ」

「俺はルーク。助けてくれてありがとう、リンネイさん」

「どうってことないよ。怪我が治るまで、ゆっくりしていきな」





「リンネイ……さん。俺はどうやら、あなたに惚れてしまったようだ」

「はい?」


 それを告げたのは、その日の晩だった。怪我の治療をしてもらっている間じゅう、俺はずっと彼女の動きを目で追い、その柔らかな声に耳を傾けていたのだ。



 それから俺は、毎日同じ言葉を彼女に掛けた。初めの頃は「冗談はよして」と軽くあしらっていたリンネイだったが、次第に──そう、少しずつ彼女は、俺に惹かれていった。

 おかしな言い回しだが、俺の腕の中で本人がそう言ったのだから仕方がない。



 レイシャが可愛らしい双子を出産して、生活が落ち着いてきた頃、リンネイは俺の──いや、俺達の子を出産した。名はリュード。



 幸せだった。本当に、心の底からそう思えた。大変なことも多かったが、それ以上に得たこの幸福という名の甘露な海に、いつまでも浸っていたかった。



 しかしそれは、無理な話だった。



リンネイとレイシャについては、48話のリヴェの台詞、49話のエディンの回想をご参照下さい。さらっと説明が入っています。


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