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【完結済】英雄と呼ばれた破壊者の創るこの世界で  作者: こうしき
第三章 collapseー崩壊ー

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第四十七話 戦いの果てに

前話のレンが殺したというマンダリーヌは、アンナの臣下シナブルの姉で、レンに仕えていました。十八話「十八年前の悪夢」十九話「奮闘する男たち」で説明が入っています。フェルメリアスとルノワリスはアンナの弟、クラモアジーは王妃ネヴィアス(レンとアンナの母親)に仕えていた臣下で、二人にとってはいとこでした。

 どのくらい気を失っていたのだろう。


 アンナが目を覚まし飛び起きた時には既に、レンの姿はなかった。


 ハッと視線を動かすと、右腕の再生は完了していた。


「う……うっ……うぅ……げほっ……」


 飛び起きた瞬間、アンナは嘔吐した。あれからよく我慢出来ていたなと感心してしまう。嘔吐物の中から一つの塊を取り出し、まじまじと見つめた。


 それは錆色の神石(ミール)だった。彼女はレンの腕を掴んで黒い炎で消失させた後、彼の腹を深く刺した瞬間、懐の神石を一つだけ抜き取り、自分の体内に隠して──こっそり飲み込んでいた。


「エディンに返さないとな……」


 掌の上で透き通った輝きを放つ神石を、アンナは無限空間インフィニティトランクにしまった。無限空間にしまったところで、「他の破壊者(デストロイヤー)の神石を持つと、命を吸われる」という特性から逃れることは出来ないのだけれど──


 それにしても誤算だった。全ての神石を抜き取るのは流石に無理だろうと、せめて自分の神石を抜き取るつもりでいたのに、まさかエディンの神石を握っていたなんて。



(まあ余裕なかったし、仕方ないか……)



 怪我が落ち着いたら再びレンを追う必要があった。今度こそこの手で──と。


「あ、イザベラ……」


 思い出したようにアンナは、うつ伏せに倒れているイザベラに駆け寄った。薄く瞼を開いて自分を睨む彼女の体を仰向けに起こす。


「お前……毒はなんともないのかよ……」

()()()なら大丈夫。それよりあんた……」


 アンナの腕の中でイザベラは体を震わせていた。声は震え、顔は真っ青だ。相当毒が効いているのだろう。


「あんた、あまり毒馴れしてないでしょ」

「馴れている方がおかしいぜ……」

「全く、世話のかかる奴ね」


 イザベラの体をそっと地面に横たわせ立ち上がったアンナは、右耳の黒真珠のピアス──通信機に手を添え、記憶している六桁の番号を唱えた。


 数回の呼び出し音の後、通信相手の声が耳に届いた。


『──こちらデュランタ』

()()()? あたし」

『おお! ()()()()か! 元気?』


 声の主──第四騎士団長デニア・デュランタは弾むような声で言った。


「元気よ」


 心なしか、アンナの声も弾んでいる。彼女は垂れかかってきた横髪を右耳にかけながら言った。


「ねえ、デニー、今どこにいる?」

『今? ジュサン海上』

「ブエノレスパに近いの?」

『いや、どちらかといえばまだフロラ大陸に近い』


 上空を飛びながら話しているのだろう、通信機の向こう側では常にゴウゴウと風の音が入り雑じっている。それを気にしながら話しているからか、デニアの声は少し大きい。


「ちょっと頼みがあるんだけれど」

『何?』

「今から言う座標地点に寄ってくれない? イザベラ・インパチエンスが負傷して動けないから、拾って行って欲しいのよ」

()()()()()が?』


 通信機の向こう側でデニアは声を潜めて言った。


『どうして君とべっちゃんが一緒にいるの?』

「詳しいことを話している時間はないの。後でイザベラから聞いて頂戴」


 アンナはデジタルマップを取り出し、現在地の座標をデニアに伝えると「じゃあね」と通信を切ろうとした。


『ちょっと待ってちょっと待って!』


 そっけない態度をとるアンナをデニアは呼び止めた。


『また近い内に食事でも行こうよ、りりたん』

「そうね……ありがとう、デニー」


 じゃぁ頼んだわよ、とアンナは通信を切った。


「おい、誰がここに来るんだよ」


 少しばかり呼吸が整い始めたイザベラは、地に肘を着き上半身を起こしながら言った。


「デニア。デニア・デュランタよ」

「デ……デニアかよ!」


 顔を真っ赤にして何か言いたげなイザベラを無視し、アンナは再び通信機に手を添えて先程とは違う六桁の番号を唱えた。


 相手はなかなか出ない。


「イザベラ、あんたまだ横になってないと駄目よ」

「お……おう……」


 イザベラの顔はまだ赤い。


 アンナが通信を切ってしまおうかと思ったその時、通信機の向こう側の呼び出し音が止まった。


『はーい、俺』


 酷く気だるそうな声の主は、大きくあくびをすると『どちらさん?』と言った。


「あたし」

『……アンナ? アンナ・F(ファイ)・グランヴィ?』

「そう」

『えっ! 嘘だろう、おい! いやあ、本当にアンナかよ!』


 急に大声を出した通信相手に苛ついたアンナは、通信機の音量を一気に下げた。


「二つ、頼みがあるんだけど」

『いやあ、そうかそうか。ちょうど俺も今、君を抱きたいと思っていた』

「今どこにいる?」

『無視かよー』


 落胆した様子の通信相手は、あからさまな溜め息をつくと「ガディナ大陸のアイルって国」と言った。


『で、頼みってなに?』

「調べて欲しいことがあるの」


 左肩の傷にちらりと視線を投げ、少し顔をしかめながらアンナは続ける。


「『無名』の本拠地と構成メンバー」

『無名? ああ……あいつらか。情報屋仲間の間でも話題になってるよ』


 通信相手は煙草を吸っているのか、大きく息を吐き出して言った。


「五日で調べて。ナゼリアの町で待つわ」

『五日?』

「無理なの?」

『……いや、何とかする。君の頼みだ。褒美をちらつかせてくれたら、もっと早くやるよ』

「報酬は弾むわ」

『何回?』


 通信相手は嬉しそうに言った。


「何回? じゃなくて、いくら? でしょ」


 眉間に皺を寄せて、アンナは苛ついた声を出した。


『いいだろ、そのくらい』

「よくないわよ。もう一つの頼み、聞く気あるの?」


 アンナは更に苛ついた声を出した。


『あるよ、なに?』

「怪我を治して欲しいのよ」

『喜んで』


 即答だった。


『で、何回?』

「いい加減殺すわよ、ミカエル」


 アンナは通信を切り、呆れて溜め息をついた。久しぶりに連絡を取った男は相変わらずな奴だった。


 無限空間から消毒液と包帯を取り出し、アンナはドレス左側の肩布を引き裂いた。血にまみれた肌が露になる。


「おい、緋鬼……どうしてお前、デニアを呼んだ……俺のことなんて放っておけばいいだろうが……」

「あ゙?」


 イザベラに背を向けていたアンナは、振り返って彼女と距離を取ったまま言った。


「……髪」

「髪?」

「髪を括ってくれた礼よ」


 完治したばかりの右手でアンナは自分の髪を撫でた。そして手早く肩の消毒を済ませると、慣れた手つきで真新しい包帯をきつめに巻いた。


「──お前の兄貴、気になることを言っていた」


 一気に言葉を発したせいか、イザベラが咳き込んだ。


「あんまり喋ると毒が回ると思うけど」

「いいんだ、それよりも……お前に伝えておきたい」


 少し咳き込みながらも上半身を起こしたイザベラは、呼吸を整えると口を開いた。


「あいつは……お前に殺されたかったと、そう言っていた」


 あの時──レダという女の投げたナイフがアンナの背に刺さった直後だった。意識を失ったアンナを抱え込んだ体勢のまま、レンは確かにそう言ったのだ。


「イザベラ……なに、言ってるの?」



(何故声が震える? この震えはなに)



「なに訳のわからないことを言っているのよ」


 恐怖。兄が何を考えているのか分からない、それに対する恐怖。



(兄上は────何を──あたしに殺されたかった?)



「聞き間違えなんかじゃねえ。確かにそう言っ──」


 イザベラが言い終えるのを待たずに、アンナは彼女に詰め寄り服の襟を掴んだ。そしてその腕を揺さぶりながら言う。


「嘘」

「死にかけの俺が、嘘をつく理由が……あると思うか?」

「……」

「まあ、信じねえってんなら……それでいいさ」


 舌打ちをしたアンナは、言葉を切ったイザベラの襟から乱暴に手を離す。そのせいで少し呼吸の荒れだしたイザベラを尻目に、無限空間から白い布を取り出し三角巾を作ると、アンナは左腕を吊った。そして更に無限空間の口を大きく開くと、中から暗い薄茶色の手綱を引っ張り出した。その手綱の先に、毛並みの美しい黒い馬が続く。


「デニアが来るまで、大人しくしていなさいよね」


 右腕だけで器用に馬に跨がったアンナは、足下のイザベラにそう言うと、真っ青な顔の彼女を一人残し、その場から颯爽と駆けていった。



「──ち……なんて奴だよ、全く」


 地面を背にし、大の字の体勢から動けないイザベラは、一人呟く。誰も聞いていないのだから、何を言ってもいいだろうと。


「イリス……お前の言うように最悪な奴だったよ、あいつは」



ミカエルは四十二話「己の非力さを恥よ」で、アイザックが名前を出しています。今後、アンナに絡んで登場します。


十二話でノルに到着した時アンナは「馬でも用意しとけばよかった」と言っていました。反省した彼女は、ノルで馬を購入します。(ネスは寝ていたのでこのことを知りません)ノルからアリュウに向かう際、馬を使わなかったのは、ネスに心配をかけまいと、強がっていたからなんですね。


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